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こいつ、甘いぞ!

 片手にソーダフロート。もう片手にはチュロスと、しがみつくビャッコ。

 こうもがっつりと、しがみつかれると、食べづらくてバランスが崩れそうで危ない。そして何より——————


 ——————お胸が当たっちゃってるんだよ……。


 何このラッキースケベイベント? 毎回味わっているような気がする……。


 ありがた迷惑な体験に嫌気がさしながら、さすがに座る時はビャッコも離れてくれるだろうと考えた僕は、どこか腰かけられる場所を探す。

 来場者でいっぱいの周りを見渡して、まず目に飛び込んできたのは、屋外にオシャレな椅子とテーブルが並ぶテラスカフェがあることに気づく。


「なあ、ビャッコ。あそこで座って食べないか?」

「うん♡ いいよ♡」

「先に言っておくが、ビャッコは向こうの席に座ってくれ」

「え……」

「え」


 数十秒ほどの沈黙が続き、周りの楽しそうな声のみが聞こえる。


 うん。まあ、こういう反応するのは分かっていたけどさ……。そんな衝撃を受けたような顔になるか……?


「え、ムコウノ? セキ? ン? エ?」


 大丈夫? 言語とか国語とか色々おかしくなってるけど?

 そんなに衝撃的な話はしてないのですが……。


「私、セイリュウくんと一緒に座りたい……」

「いや、あのぉ……別に一生のお別れとかじゃないからね?」


 巣立つことができない小鳥ですか? 親離れできない子供ですか?


「そうだ!♡ 一つの椅子に二人座れば「それは無理」」


 普通に狭くて座りにくいじゃないか!


 食べづらいどころの話じゃなくなっている展開だ。これはまずい。


「ほら、おとなしく座っておくれ」

「やだやだぁー」


 さらに僕の腕をギュッとしがみつき、首をブンブンと横に振り、椅子に座るのを拒むビャッコ。


 もう一度言おう。親離れできない子供ですか?

 子供みたいに駄々をこねられても困るんだが……。


 おもちゃ屋で「買って! 買って!」と駄々をこねる子供を思わせられる。全国のお父さまお母さま、お気持ち、お察しします。


 しかしながら、こういう時の対処法を僕は、学んでいる。


「あんまりしつこいとビャッコの事、きら「座ります!」」


 僕が全てを言い切る前に、ビャッコは素早く向かいの椅子に座る。

 

 何というか、必死だな……。

 ビャッコよ、安心しろ。僕はその程度で、君を嫌ったりはしないから。

 ともかく、これで心置きなくチュロスとソーダフロートを堪能することができる。


 僕もビャッコの向かいの椅子に座る。


 やっと腰が下ろせる……。


 僕はチュロスを一口頬張る。


「……おいしい」


 小声で感想を零す。

 表現の声量は小さいが、気持ちは最大である。

 そして、ほんの少し乾いた喉を、ソーダフロートで潤す。


 口の中が幸福で満たされる。

 ビャッコに集中しすぎて、あまりしっかりと味わえていなかったせいか、先程より美味しく感じる。

 スイーツなどの甘いもの好きな僕であるが、これは良い。


 はぁー、来てよかった。


「んふふ♡」

「ん? どうした?」


 僕が気持ちよくスイーツ達を味わっている時、ビャッコが僕を見ながら微笑む。


「セイリュウくん、幸せそうな顔してるなーって思って♡」

「そんな顔していたか?」

「うん♡ してたよ♡ 写真撮りたいくらいに♡ 撮っても、良い?」


 僕は考えてみた。“撮られた写真はどうなるのか?”と。

 きっと、ビャッコのコレクションの一つとして、吸収されるのだろうな。

 だからその……なんだ……———————


「やっぱ、ダメかな……?」


 ————————————そんなしょんぼりしないでくれ……。

 ここで駄目と言ったら、普通にビャッコが可哀想だな……。まあ、写真くらい、いいか。


「別にかまわないぞ」

「やったー!♡ ありがとー♡」


 思い出として撮っておきなさい、と思いながら僕は、スマフォのカメラを向けてくるビャッコをよそに、食事を続ける。


「えへへ~♡ セ~リュ~く~ん♡」


 パシャッパシャッ


 二回のシャッター音が目の前で鳴る。


 まあ、写真の二枚くらいどうってこと——————————————


 パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャッ


 ——————待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て……⁈ 連写? 連写なの? 最初の二回は何だったの? というか、いきなりだな……。


 唐突すぎて戸惑ってしまった……。

 連写といい、部屋の内装といい、最近のビャッコからは恐怖しか感じとれていない気がする……。


「はぁ…♡ はぁ…♡ いいよぉ~……♡ いいよぉ~♡ セイリュウくぅ~ん♡」


 ……気になって、食べ物が喉を通らないのだが……。落ち着いて食べられると思っていたが、今度は別の意味で、食べづらくなったな……。かと言って断ろうにも、今更「撮るな」と言うのは気が引ける……。


「ね、ねえセイリュウくん?♡」


 いつの間にかスマフォをしまい、連写をやめていたビャッコが僕に声をかけてくる。


「えっとぉ……“あーん”、したいです……」

「“あーん”?」


 それはあれか? カップルとかがやっているあれか? 食べさせてもらうやつか? いや、というか、何故急に?

 なんか今日のビャッコのアタック、強すぎじゃね?


 色々と困惑してしまう。特にこの、目の前でチュロスを向けてくるメス猫に……!


「いい、かn「ダメ」」


 飴と鞭を使い分け、僕は早いとこ食事を済ませる。

 菓子は甘い方が良いが、他者に甘くするのは程々が一番だ。時に優しく、時に厳しく接さなければ、駄目になってしまうからな。

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