表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/39

拠 進の星(きょ しんのほし)

 現状のままでは、ただ時間が過ぎていくだけ。

 困惑している場合ではない。


「赦さんぞぉぉぉーーー‼」


 ……かと言って、安心している場合でもない。

 スザクは『約束された鳳凰の剣(ネクスファイバー)』で、僕を斬る気満々だ。


 僕の『形状記憶液体化(フォルム【スライム】)』はどれだけ切られても元の形状に戻り、攻撃力は低下するがダメージも受けない。

 これだけ聞けば「え? 無敵じゃん」「チートじゃねーか」って思うだろうが、それは神器以外の物での話だ。


 彼女の『約束された鳳凰の剣(ネクスファイバー)』は、ありとあらゆるモノを燃やす、スザクだけの神器。

 力を入れずに一振りすれば地上を焼き払い。刃の部分は高熱で、どれだけ硬いモノでも一瞬で斬れる。


 さて問題、そんな究極の火属性武器で、九割が普通の水属性の僕のスライムボディを斬ったら、どうなるでしょうか?

 正解は、『あまりの熱さに蒸発する』でした。


 ふざけている場合じゃない。自分の体が蒸発してしまったら色々面倒だ。

 「じゃあ、お前も神器出して応戦しろや」と思ったやつ、できるもんなら最初にやってるよ……!


 『形状記憶液体化(フォルム【スライム】)』発動中、僕は喋ることもできないし、自分の武器を出すこともできない。

 そのうえ、攻撃力が0になっている。


 回避率は通常より格段にアップしているので、逃げて隠れるという戦法しかできない。


 そしてスザクが、怒りを感じている筈なのに攻撃して来ないのは、僕の動きを警戒しているのだろう。

 相手の動きをよく見る。闘いの基本であり、初手の判断としては適切だ。


「フー……! フー……!」


 あとは……平常心さえ持つことができれば、完璧なんだがな……。

 威嚇している犬のように、スザクがこちらに威圧をかけてくる。


 こいつ、鳥の神だよな……? ほんとに犬みたいになってるぞ?

 ……何だかワンちゃんを見下しているみたいになっちゃうからやめておこう。アヌビスに怒られる。


 何故かゲンブも不穏なオーラを出してるし……、思いの外最悪だな……。


 今の僕にある選択肢は三つ。


 一つ目。逃げて隠れ場所を探して、元に戻るまで隠れる。

 二つ目。ジェスチャーか何かで、自分が水東 青龍であると表現して、自白する。

 三つ目。死んだふり。


 この三つのうちのどれかだな……。


 二つ目と三つ目はリスクがある。

 前者の場合、名乗ったところで、信用してもらえないであろう。

 かと言って後者を選んでも、みじん切りにされるのがオチだ。


 とすれば、残された選択肢はただ一つ。


 ……結局、目的変わんねーじぇねぇか。


 悩んでいても仕方ない。今もこうしている間に、刻々と時間が過ぎている。

 スザクが何をしようが、僕は逃げてやる。

 逃げることを恥じらうほどのプライドなんぞ僕には無い。むしろ戦術の一つなのだから、文句はあるまい。


 思い立ったら即行動。僕は自慢のヌルヌルボディで廊下を滑る。


「あ! 待ちなさいよ!」


 後ろからスザクが追いかけてくる。

 まずは彼女の目を撒く必要がある。先ずは部屋の中に入ろう。


 僕は視界に映った扉の隙間に入り込む。何の部屋なのかは入ってから確認するとしよう……!


 そして部屋の中へ侵入。


(こ、ここは……!)


 僕がその部屋で目にした光景、それは——————


(あのぬいぐるみ……何だか僕に似ているな……)


 ——————ベットと思しき所に、ハートなどの可愛らしいクッションと共に僕に酷似したぬいぐるみが並べられている。

 寝床だけではない。壁には僕のポスターが貼ってある。おそらく写真をポスターサイズに印刷した物だろう。料理をしている僕の姿が、綺麗に撮れている。


 部屋をよく見まわすと、今度はテーブルに注目する。

 部屋の中央に位置するそのテーブルに、僕が写っている写真が三枚程乗っている。


 僕は理解した。この部屋が何なのか。

 僕に依存してるかのようなこの部屋の模様、一人しか心当たりがない。


 どうやら僕は、ビャッコの部屋に入ってしまったらしい。


 緊急事態で偶然とはいえ、恋する乙女の部屋に無断で入るのは、無論いけないことだ。不法侵入は犯罪だ。それは重々承知している。


 しかし、これだけは言わせてもらう……。


 盗撮とストーカーの方が『重罪』だと僕は思いまーす!


 このテーブルにある写真、ほとんど僕のプライベートの時の写真じゃないかぁー!!

 一枚はゲームセンターでハイスコア出て喜んでいる時の写真で!


 もう一枚は人気スイーツ店で、僕の大好物の“ビックバンストロベリー”をふんだんに使った数量限定スイーツ、『超新星爆発の三角比(メテオロス・ケーキ)』を堪能している時の写真!


 最後は! 最後の一枚は……! ……覚えてない!


 しかもゲーセンの時の写真に関しては、結構最近じゃねーか!


 衝撃の事実を知ってしまった驚きの反面、僕は理解した。

 実は今まで、ビャッコの部屋に入ろうとした時があった。大半が借りた物を返す時などで部屋を訪れていたのだが、「へ、部屋には入らないで!」と毎回言われてきた。

 この部屋を見てほしくないが為に言っていたのかもしれない……。


 まあ、結局のところ……引いたけど。


「のおぅらぁぁぁぁぁぁぁぁ‼ どこじゃぁぁぁぁぁ‼」


 鬼神スザクがもうそこまで迫ってきている‼

 もう猶予は無い……!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ