緋の鳥
“タイミング”というのは、実に気まぐれである。
良い時もあれば、悪い時もある。自分がきてほしい時に限ってきてくれない。
逆に、きてほしくない時に限ってきたりする。
そして今の僕の状況がまさに、後者である。
こんなにも自分の運気に失望するのは、何かの前触れなのか? それともこういう呪いなのか? 呪縛的なやつなのか?
見る者が見ればラッキースケベなのかもしれないが、僕にとってはアンラッキースケベでしかない。
「ぐすっ……ヌルヌルして気持ち悪いよぉ~……」
泣きたいのはこっちだよ。
ビャッコは、今「気持ち悪い」と言っているが、スライムの正体が僕であると知ればきっと——————
「セェーリュゥーく~ん♡ 一緒に二人でヌルヌルにゃんにゃんしよ~♡」
————————————っていうのがオチだ。
変態キャラとしては合格の路線を走っているのだろうが、恋する乙女のキャラとしては常軌を逸している。
そんな彼女も色んな意味で怖ろしいが、それに慣れてしまっている自分も怖ろしく思ってしまう。
「こいつ、ビャッコを人質に……⁈」
偶々なんです……! 偶然なんです! 故意じゃないんです!
飛び散ってしまった自分の破片を集め、ビャッコから離れようとしているのだが、破片がビャッコの服の中に入ってしまったりなどして下手に動かせない。
少しでも動かそうものなら——————
「ひぅっ⁈」
————————————このように、変な声を出すので動くことができない……。
破片を一つ動かす度に、変な声を出すのやめてもらいたい。
というか、どこら辺に入っているんだ? 服の中というのは分かっているが……。
絶対に変なところにあるに違いない。
「こ、この卑怯者! 無抵抗な者を人質に取るなど!」
取ってませんよ⁈ すぐに離れるから待ってて⁈ ね⁈
何なら僕を助けて⁈
「ふ~ん……そんなことするんだ~……」
ゲンブが笑顔でこちらを眺める。ただ笑顔で眺めているのではなく、汚物を見るかのような眼差しを僕に向けているのが、精神的に一番痛い。
やめて! 僕のライフはゼロよ!って言えるもんなら言ってやりたい。
「うわぁ~ん! セイリュウ君助けてぇ~!」
うん! 助けてやるから変な声を出すな……!
ほんとに僕が悪者みたいになっていくから!
あと約四十分で元の姿に戻ってしまう! その前にこの危機的状況をどうにかして、隠れる場所を探さねばならない!
……こうなれば仕方ない。
不本意ではあるが、強行手段だ。
飛び散った破片を、一気に僕の方へ引き寄せる。
ビャッコには悪いが、君が喘ごうが奇声を上げようがお構いなしだ。
別に死ぬわけじゃないんだ。ちょっとしたスリルを味わってもらうだけだ。
これしか方法は無い、と僕は覚悟を決め、実行に移す。
「ふわぁっ、何か……服の中で動いてっ……! な、何するの……」
すまないビャッコ。全部片付いて、ゲンブをシバき倒してから詫びるから……。
さあ、来い。我がパーツよ……!
「い、いや! なんかベトベトが来てる!」
「ビャッコ! 今助けるか「いやぁぁぁぁぁぁぁ! まだセイリュウ君に! 私の『初めて』あげてないのにぃぃぃーー!」
聞きたくなかった情報だ……。
しかし申し訳ないが、彼女の断末魔を聞く時間はない。
非情にもビャッコの悲鳴を無視し、僕は作業に戻る。
「ひ、ひうぅっ?! にゃ、にゃあぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!!♡」
◇ ◇ ◇
「にゃ……にゃぁ……」
尊い犠牲により、我が破片たちを無事に集めることができた。
僕は思った。
冷静になって考えてみれば、僕結構クズな事をしたな……。
うん、謝ろう。
「よくも……よくもビャッコを……!」
……。
うん、謝ろう。
「よくもぉぉぉーーー‼」
スザクは激怒した。
どこかの戦闘民族のように怒っている。
自分の友達のあられもない光景を目にして、その加害者である僕に怒り心頭する。
僕は少々の焦りを感じると同時に、スザクが友達想いの良いやつだと理解した。
一応言っておくが、僕は一切いやらしい事などしていない。ただ自分の部位を集結させただけだ。
やましい気持ちなどない。
だが、罪悪感はある……。
「赦さんぞ‼ 虫けらぁ‼」
激おこのスザクさん。もはや言い訳も聞いてくれない様子だ。(喋れないけど)
「貴様を、切る‼ 覚悟しろ‼」
わぁー。マジヤバーい。何でこんなことになったのー?
穏便に済ませるどころか、益々状況が悪化してしまった……。
「セイリュウだけでなく、ビャッコにまで手を出すなんて……」
あのすいません、僕ちゃんと生きてますから? 勝手に殺さないでほしいです。
「貴様のその行為! 万死に値する‼ その大罪を我が炎で燃やし尽くしてやる‼」
実に困った……。




