ミッションインミッシング
脱出の方法は至ってシンプル。
まずこのスライムの体になったことで、狭い隙間を通れるようになった。その特性を生かし、ドアの隙間から廊下に脱出。
僕はすぐさま実行に移す。
物音を出さずに、柔軟で伸縮自在なこのヌルヌルボディを巧みに動かし、何事もなく扉の隙間から廊下へ出ることができた。
ミッション成功。これより本部に帰投——————
「あれ? セイリュウ君は?」
———————……緊急事態発生。
なんというタイミングだ……。これは運命の悪戯か?
思っていたより早く、ビャッコ達が僕の存在に気づいてしまった。僕は焦らず、これからの彼女たちの行動を予測する。
僕を探すのは明白だと考えて良い。まずはリビング内から捜索を始める。
その次に僕の部屋、あとは手分けして屋敷中を捜索するだろう。
だとしたら、今自分の部屋に戻るのは危険だな。身を潜むのであれば……壁か天井が良さそうだ。
「セイリュウったら、どこ行ったのかしら?」
「自分の部屋に戻ったんじゃな~い?」
「じゃあセイリュウ君の部屋に行ってみよっか」
どうやら予想通り、最初に僕の部屋へ行くようだ。
僕は壁を伝って天井に張り付く。
すると、ガチャ、と僕が抜けだした扉が開き、ビャッコとスザク、ゲンブの三名が揃って部屋から登場。
さらに予想通り、僕が天上に張り付いていることなど誰も気が付いていない。
このまま嵐が過ぎるのを待てば———————
———————ジャキンッ!
金属音に似た音が屋敷中を響かせる。一瞬の事であるが、すぐに静寂が訪れる。
そして僕の目の前には、物騒な物の先が僕のプルプルボディに向けられている。
それは刃物であり、見たことがある代物であった。
【“炎”聖剣 約束された鳳凰の剣】。
『消えぬ闘志の炎。“勝利”と“敗北”を燃やし、契約の焔羽は今、正しき道を照らし、“迷い”を葬る剣とならん———————』
……てな感じの逸話がある、四獣神の神器の一つ。
これが使えるのは———————
「……それであたしから逃げられたとでも思った?」
火南 朱雀、ただ一柱。
まずい……。これは非常にまずい……。
「な、何あれ……? 雨漏り?」
「おぉ~、あれはスライムだねぇ~」
スザクに見つかってしまった事により、ビャッコとゲンブにも見つかってしまった。
はっきり言って、予想外だ。だがすぐに納得ができた。
僕はなんて馬鹿なんだ……。スザクは、レベル900の感知スキルを持っていることを忘れてしまうなんて……。
それに、結果的に全員に見つかってしまった。
「でも~? 何でスライムがここにいるんだろ~?」
「さあね。でもそういう事は、こいつから直接聞けば早いでしょ」
スザクの鋭い眼光が僕に突き刺さる。
ものすごい敵視してくるんですけど、この子……! スザクってこんな怖い顔するキャラだったか⁈ なんて縄張り意識の高い鳥だ……⁈
この能力は最近覚えたため、彼女たちは知らない。というか知られたくない。
普通に「オッス! おらセイリュウ! おらワックワクすっぞ!」って言えば済む話なのだが、形状記憶液体化の状態だと、会話はおろか言葉を発することもできない。
しかもこの能力の致命的な欠点は、任意で能力を解除することができないところだ。
発動したはいいものの、“やめよう”と思っても“やめる”ことができない。
だから元の姿に戻ってネタばらしすることもできない。
八方塞がりかと思うが、そうでもない。
この能力は一時間もすれば自動的に解除される。
発動してから約ニ、三分が経過している。早く身を潜められる場所を探さねば。
しかし……———————
「うんともすんとも言わないねぇ~」
———————こいつらがいるからなぁー……。先ずはこの三名を撒く必要がある。
「とりあえず、セイリュウ君呼んでくるよ!」
「待ってビャッコ!」
僕の部屋に駆け込もうとしていたビャッコを、スザクが呼び止める。
「もしかしたら、セイリュウは——————」
僕は?
「———————こいつに食べられたのかもしれない……」
……ん?
「え……? “食べられた”って……?」
「セイリュウが突然消えたのは、あたしたちが話に夢中になっている間に、このベトベトに不意を突かれて……」
「そ、そんな……!」
んなわけあるかぁーーー!!
なぜ⁈ どうしてそうなる⁈ 「もしかしたらこいつが、セイリュウなのかもしれない」っていう考えにならないのぉ⁈
僕は内心、期待していた。幾らバカなスザクでも、知識力が無くとも推理力はあるだろうと。
しかし文字通り、期待外れであった。
「ほほ~、なるほどなるほど~」
ゲンブ、お前絶対分かってるだろ⁈ このスライムが僕だってこと絶対分かってるだろ⁈
「(ごめんね~、セーリュースライム~。ちょっとおもしろそ~だから~、流れに任せるよ~)」
こいつのあのにやけ面、絶対止める気ねーなぁ‼
というか、勝手に僕を殺すなー‼ 不老不死だから死ねないだろー‼
「そ、そんな……うそ……」
泣くなビャッコ、僕ちゃんと生きてるよー⁈
「よくもセイリュウを……! 赦さん……‼」
僕はお前を赦さん‼
「……ふふ~」
お前はなに笑ってんだよぉー⁈