ヘンキョウ デズニーランド
「おーい、セイリュウ君ー?」
「……」
「もう! セイリュウ君ってば!」
「っ! ああ、すまない……」
つい考え込んでしまった……。
「それで♡ どこに行こっか~♡?」
「行く前提なのか……」
「だって~♡ セイリュウ君自らのお誘いなんだも~ん♡ “行かない”っていう選択肢は、私もセイリュウ君にも無いよ~♡」
問答無用の強制力だな……。本当に拒否権がない……。
断ることも無理そうだし、仕方ないか……。それにほんとに断ったら、目の前で泣きながらリスカしそうで怖いし……。
「分かった……行こう」
「やったー♡」
嬉しさのあまり、ピョンピョン飛び跳ねるビャッコ。
はしゃぎたい気持ちは分かるが、ジャンプしないでくれ……。胸に目が行ってしまう……。
目を逸らすと、次に視界に映るはスザク。
「ぐぬぬ……!」
ブルンブルンと、上下に大きく揺れるビャッコの、胸という大きな餅を睨んでいる。
そんなに根に持つ……? 胸が無いだけで、そんなに根に持つ……?
「それでセイリュウ君♡! どこに行く♡?」
「ビャッコは、行きたい場所とかあるのか?」
「う~ん、セイリュウ君が行きたいとこならどこでも♡」
うわー、一番困るやつー……。
僕が行きたいところなんて、ゲーセンかプラモデルショップくらいだぞ? まあ、ゲーセンならお互いに楽しめるモノはあるだろうけど、プラモデルなんて僕にしか得がないじゃないか。
「あ~、じゃあここに行ってきなよ~」
そう言うとゲンブは、ズボンのポケットから紙切れを取り出す。
「ゲンブちゃん、これってチケット?」
「そだよ~」
どうやら遊園地のチケットのようだ。
「ていうかこれ⁈ 新しくできた『エデンパーク』じゃない⁈」「 “エデンパーク”って何?」
「ほんとだ! しかも乗り物乗り放題のペアチケットって、どうしたのこれ?」
ねえ、ほんとに“エデンパーク”って何?
「福引で当たったんだ~」「ねえ、知らないの僕だけ?」
「ゲンブちゃんは行かないの?」「聞いてる? 聞いてます?」
「わたしも行きたいけど~、色々と用事が混み合っているからね~」
何だこの、唐突に始まった女子会は……? もう僕、置いてけぼりなんですけど?
目の前でキャッキャウフフ、と女子会が繰り広げられているその端で、僕はポツンと茶を啜りながら“エデンパーク”とは何なのか考えていた。
ていうか本当に何だ? その“エデンパーク”っていう遊園地は? そこに何があるのかは知らないが、そんなところよりも人気な場所があるだろ? ゲズニーランドとかさ?
一瞬見えたチケットに、その遊園地の姿が見えたが……観覧車らしきアトラクションにジェットコースター、普通の遊園地と比べても、大差はなさそうだったがな……。
「私、期間限定のスイーツ食べたいの!」
「あたしも! あとジェットコースターにも乗ってみたい!」
「博物館とか~水族館もあるからね~。わたしも興味あるな~」
我が四獣神の女性陣が、ここまで夢中になる程有名なのか……?
時代遅れという疑惑が僕を襲うが、流行りに関心がない僕にはノーダメージ。そんな疑惑なんぞ返り討ちしてやる。
……ん? 待てよ?
僕は眼前の楽しそうに会話をしている女子たちを見ながら、あることに気づく。
今、彼女たちは話に夢中になっている。もし今、僕がここから抜けて自分の部屋に戻ったとしても、誰も気づきやしない。
この感じだと、最低でもニ十分は続くだろうな。
僕は彼女たちに気づかれぬよう、こっそりと席を外し、匍匐前進で扉に向かう。
無論、扉に着いたとしても扉は閉じられているので開けなければならない。
かと言って普通に立ち上がって開ければ、こちらの方向を向いているビャッコにすぐバレてしまいミッション失敗。
しかし、身を低くして姿を見えなくしたとしても、扉を開けた時に出る「ギィ」とか「ガチャ」とかいう音が出てしまい気づかれる恐れがある。
ならどうすればいいのか?
方法は一つ——————
「……形状記憶液体化」
這いつくばりながら、僕は小声で呟く。
すると、僕の体は見る見るうちに液体のようになり、遂にはスライムになってしまった。
これは僕の能力の一つ……『変形者』。
属性によって形状の変わり方はそれぞれで、攻撃を回避する時に使用されるのが主。
僕は水属性なので、液体に関連した状態に変異できる。
簡単に例えれば、ゲームでいうところの「スキル」と一緒だ。ちなみに、スキルレベルは……“測定不能”で分からないや。
とりあえず、この体でなら姿も見られず、音も出さずに部屋から出ることができる……!