ストップをねらえ!
そして一時間後……
「やっと、終わった……」
僕は思った。何故僕は、昨日と同じようなことをしているのだろう……。
しかも同じ個所を、“雑巾がけ”という全く同じ方法で……。
「デジャブって、やだなぁ……」
だがこの通り、ピカピカになって良かった。部分的にだが……。
ちなみにビャッコは、着替えさせている為、自分の部屋にいる。
「それにしても、遅いな? 何かあったのか?」
まあ、部屋に行ったところで、どうせ碌なことにならないだろうからな。ほっといたらそのうち来るであろう。
そう思っていると、何故か不安になってきた。
「いや、ただ着替えに行くだけじゃないか」と少しずつ心配になってきている自分と自身の不安感に、言い聞かせる。
それに何が起こるというのだ? どんな問題が彼女に襲い掛かる? ビャッコはああいう風に見えて、怪力なんだぞ? 反射神経も運動神経もスザクには劣るが、良い方だ。
たとえ何者かに襲われたとしても、返り討ちにするであろう。うん安心だ。
だが、不安が僕にこう囁く。
『それは、外部からによるモノだ』と。
じゃあ何? 彼女は自傷行為に走るとでも? 馬鹿馬鹿しい。いくら何でもそんなことがあるわけ———————
その時、僕の頭にある言葉が浮かんだ。
“リスカ”
通称“リストカット”
「身体的疲労」「精神的苦痛」が主な原因となる自傷行為。別名『手首自傷症候群』。
その名の通り、自身の手首をナイフ等の刃物で傷つける行為。
それだけで死に至る事は無いが、傷跡が残っていたり、傷口が深ければ出血して、最悪の場合、貧血になったりする。
いやでも、ビャッコが心理的に圧迫される事なんて……。
僕は今まで起こった出来事を振り返ってみる。
罠にはめられ、糸に絡まれ、熱湯を間接的にかけられ———————
「——————思い当たる節、大有りじゃねーか‼」
僕は部屋を飛び出し、急いでビャッコの部屋へと向かう。
大回りするより、リビングを突っ切った方が速い……!
廊下を走り、リビングに突入。
「お~、セーリュー。どったの~?」
「ねえねえセイリュウ! 今ゲンブが凄い———————」
スザクとゲンブが何か言っている気がするが、今はそれどころではない。一刻も早く彼女のもとへ行かねば……!
そしてリビングを通過し、目的地であるビャッコの部屋に到着。
扉には『西の間(ビャッコの部屋♡)』とプレートがかけられている。
普通、女の子の部屋に入る時は緊張するものだが、今は緊急事態だ。躊躇なんてしていられない。
僕とて責任感の一つや二つ持っている。
もし、僕の行いが原因で、彼女の身を傷つける事になってしまったのなら……。
僕は部屋の扉を開ける。
「ビャッコ! そんなことはもう……!」
だが、僕が目にしたのは、ビャッコが刃物を持っている光景でも、手首を傷つけている瞬間でもない。
僕の視界に入ったのは、下着姿のビャッコだった。
「せ、セイリュウ……くん……⁈」
「……っ⁈」
僕は慌てて部屋の扉を閉める。
「はぁ……」
リスカをしているのかと思っていたら、ただ着替えていただけだった……。
というか……ブラジャーしてても、結構デカかったな……。
◇ ◇ ◇
「もぉ~♡ セイリュウ君ったら~♡ 部屋に入るならノックくらいしてよ~♡」
ビャッコに頬をツンツンと突かれる。
あの後僕は、スザクとゲンブのいるリビングで休憩することにした。
そして——————
「ふ~ん……セーリューも結構、大胆だね~」
「セイリュウ、サイテー」
「待て僕は何もしてない」
「素直に『見せて』って言えば、いつでも見せてあげるよ?♡」
「いらん。それと突つくな」
——————今に至る。
四人全員がリビングに集結。
もう嫌な予感しかしない……。
ビャッコにほっぺたを突かれながら、先が思いやられる。
「それでビャッコ。僕に何か用じゃなかったのか?」
「あ、そうそう忘れるところだった。セイリュウ君ってさ」
「うん」
「明日……私とデート……しよ?♡」
「うん——————……ん?」
僕は自分の耳を疑った。
“デート”って言ったか? 僕の耳はおかしくなってしまったのか? 昨日ちゃんと耳掃除をしたはずだが……それとも聞き間違いか?
「ねえねえ、どこに行く?♡」
「待て。どうして僕が君とデートに行くことになっている?」
「だって、『今度、一日だけデートしよう。だから今は解放してくれ!』って、この前みんなで“しりとり”してた時、セイリュウ君が言ってたよ?」
……あ。完全に忘れていた。
第8話(まるで変態のバーゲンセールだな……)の伏線を、ここで回収するのか……⁈
だが、結局は自分が振り蒔いた種だ。ちゃんと責任を持たなければ……。
でもなぁー、めんどくさいなー。絶対何かしてくるじゃん、この娘。
「えー……っと」
いや、でも待て。別に今じゃなくてもいいのでは?
楽しみな気持ちは分かるが、『楽しみは最後まで取っておく』という考えもあるだろう?
僕たちに最後は無いのだけれども……。
「なあ、ビャッコ? 明日じゃなくても「あ、拒否権はないよ? だって約束だもん♡」」
「……約束」
スザクがビャッコの発言に反応する。なんだ? 先程までとは様子が違う……?
「どったの~? スザク~?」
「……コケ? あ、ううん。ちょっとボーっとしただけ!」
ちょっと今の「コケ?」で笑いそうになってしまった……。
しかし……。