デューピー三十分クッキング
袋の中を見る限り、余計な物はあの雑誌くらいなようだ。あとは、夕飯の材料だろうな。
ニンジン、ジャガイモ、玉ねぎ……これ絶対カレー作る気だろ。
スザクがカレーを作ろうとすれば、カレーとは呼べない“何か”が誕生してしまう。確実に。
「と、とりあえず! ご飯の準備を始めるわよ!」
不安の原因二つ目は、料理。
彼女は料理が下手。ものすんごい下手。
涙目を袖で拭い、カレー作る気満々のスザクはとても不器用。
愛用の剣では打ち込み台をバッサバッサ、とよく切るくせに、包丁で野菜を切れば———————
「痛っ! うぅ~……指切れちゃった~……」
———————手を怪我したり、切った食材が歪な形になっていたり、完成した料理が不のオーラ醸し出したりなど、彼女の調理はロクでもない問題しか起きない。
それ故に、彼女が一人で完成させた料理を食べれば———————
「(……っう! まっずっ……⁈)」
「(スザクちゃん……何を入れ……っう、気持ち悪い……)」
「(あはは~♪ まず~い♪)」
————————こういう感想しか出てこない。
ジャ〇アンカレーと、いい勝負になるだろうな……。
「ねえ、セイリュウ」
「何だ?」
「あんた、今日も手伝ってくれるの?」
「ああ。そのつもりだ」
手伝わないと、いつか食中毒とかになりそうで怖い。
スザクが食事買い物当番になった週は、僕が手伝う事になっている。
ほとんど僕が作っているのだが……お腹を壊して苦しい思いをするよりはマシだ。
「ふ、ふ~ん。そうなんだ」
歯切れの悪い返事をするスザク。
役割の大半を横取りされているのだから不満を感じているのだろうな。
だが仕方の無い事なのだ。きっといつか死者が出るかもしれないからな……。
「(もう何よ~! これじゃまるで、こ、ここここ恋人みたいじゃない……! いやでも、ただ手伝ってくれるだけで……べ、別に嬉しいとかっ……! もうあたし、何考えてんのよ~!)」
スザクが自分の頭をポカポカと叩き始める。
急にどうしたんだ? 自暴自棄というやつか?
「スザク。そんなことをしてたら、頭がもっとバカになるぞ?」
「なっ! 『もっと』って何よ! 最初からバカみたいに言わないで!」
おっと、口が滑った。
こうして、僕とスザクの三十分クッキングが始まった。
◇ ◇ ◇
「……なあスザク。お前今何を入れようとした?」
ほとんどの作業が終わり、あとはルーを入れるだけなのだが、スザクが鍋に何かを入れようとしているのに僕は気づく。
「え? 隠し味だけど?」
「お前は隠し味に“セミの抜け殻”を入れるのか?」
地獄が生まれる瞬間を目にしてしまった……。
僕が虫嫌いなのを知っての、当てつけか? 日頃の恨みか何かなのか? それとも普通にバカなだけか?
犯行の瞬間を目撃してしまった事で、僕の頭は混乱している。
「セミの抜け殻って、生だと不味いけど、粉々にしてカレーとかに入れるとおいしいのよ?」
おい待て、今なんて言った? 『生だと不味い』だと? 生で食ったことあるのか⁈ 何を思って新鮮な状態で食べたんだ⁈
ゲテモノにしては発想がワイルドすぎる。そう思い、メシマズな展開を予期した僕は、颯爽と鍋に蓋をし、不純物の投下を阻止する。
「ちょっ! 何で蓋するのよ!」
「そんなもん入れさせるわけがないだろ!」
「何でよー!」
油断も隙もあったもんじゃないな……。危うく再び味合わされるところだった……。
「そんなの早く土に埋めてきなさい」
そういうと、いつも通り頬を膨らませ、ご不満フェイスを向けてくるスザク。
この表情で幼稚園児の衣装とか着せたら良さそうだな、と彼女を小バカにし、カレールーを入れる。
今日も夕飯の平和は、守られた。
だが今週は、この格闘を何度も繰り広げなければならない。スザクがいつ、あのような物体を入れるか分からない。
もしかしたら今度は、せみの抜け殻より質の悪い物を投入するかもしれん。
頼むから、何もしないでくれ……。
「入れたほうがおいしいのに……」
「お前の味覚はどうなってるんだ? それとも目が節穴なだけか?」
虫の殻がキャラメルとかにでも見えているのか?
もはや放送事故のレベルだぞ。
「ねえ、ちょっとだk「駄目だ」」
そんな薬味を入れるノリで、折角作ったカレーが台無しになるのは勘弁してほしい。
KYouTuberじゃあるまいし。
こんなふくれっ面のスザクが「ブーブーハローKYouTube!」って挨拶で動画投稿してたら、僕泣くぞ⁈
そんなキャラじゃないだろって泣くぞ⁈
「どうしたのよ、セイリュウ? 急に黙って」
「あ、でもゲーム実況とかなら、喜んでサポートするぞ」
「急に何の話⁈」
まあ、あくまで動画投稿者になったらの話だがな。無論、彼女にはそんな素質は無い。
スザクのセミの抜け殻から無事に守った鍋に、カレールーを投入。後はじっくりコトコトかき回して、完成。
夕飯を作るだけで、なぜこんな大変な思いをしなければならないのだ……。
今日は本当に何なんだ……⁈ 呪われているのか、僕は……⁈
幾年もの時を、この子たちと過ごしてきたが……。
「一向に、慣れないな……」




