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進撃の異形神

 そしてその後、クトゥルフは僕たちに別れを告げ、自力で仕事現場まで走り去って行った。


「本当に送ってあげなくてよかったのかな? お仕事の場所って、此処からだと結構な距離だよ?」

「だいじょ~ぶ~、乗り物より本人が走っていく方が速いから~」

「あいつほんとに走って戻ったのか⁈」


 てっきり車とか手配していたと思っていた。

 見かけによらず何という速力、やはり奴は化け物だな……!


 一回一回出番が回ってくる度にイベントが発生するから、全然前に進まないこの状況をどうにかせねばならない、と僕は考える。


「ちょっとー、次セイリュウの番よー」


 先にこの鳥を黙らせる方法を考えるか。


「セイリュウ君、『ふ』と言ったら……フ、フェ……フェr「うん。黙ろうか」


 隙があればすぐに下品な言葉を言おうとするこの猫は、“健全”という言葉を知らないのか?


「ふあぁ~……、ちょっと眠くなってきちゃった……」


 じゃあもうしりとりやめて寝ようか? ね? まだ三周目だけどやめよ?

 もうこの機械の性能とか凄味があるのはわかったからやめよ?


 懇願するかのようにこのゲームを終わる事を僕は願うが、ゲンブはともかくスザクとビャッコはまだまだ続行するつもりだろう。


 こうなれば仕方ない……。あまり()()()()()は使いたくないのだが、僕にも自分の時間というものがある。


 僕はワーディングに向かってはっきりと、こう言う——————


「——————『布団(ふとん)』」


 これで僕が一抜け(最初に負けたという意味で)になったことで、僕はこの訳の分からんしりとりの呪縛から解放される……。これで勝つる!


「あー、“ん”が付いちゃったー。僕、負けちゃったから、部屋に戻るねー(棒読み)」

「あんた絶対わざとでしょ!」


 お構いなく。自由が僕を待っているから、僕はこれにて失礼仕る。


 椅子から降り、足元に散乱している敷布団と掛布団を軽快に跳ね除け、リビングの東口のドアノブに手をかけた、その時———————


「セイリュウ君……♡」


 ———————聞き覚えのある声が、聞き覚えのある呼び方で、その声と呼び方の主(多分、というか絶対ビャッコ)に腕を掴まれる。

 しかも結構強い力で。


「どこ行くの……?♡」


 振り向くと、思っていた通り。そこには僕の左腕にしがみつくビャッコの姿があった。

 尻尾を上向きにゆらゆらと振り、今度は握力ではなく、ビャッコの腕力が襲い掛かる。


 パーカー越しではあるが、柔らかい胸の感触が伝わってくるのも分かる。


「あの、ビャッコさん……? 当たってるのだけれど……?」

「んふふ♡ 当ててるんだよ……?♡」


 うん、知ってた。そういう事する娘だって、分かってたよ全部。

 どうせあれでしょ? 「もっとしりとりしようよ?」って聞くんでしょ? というかほんとに柔らかい。


 次にビャッコが何を言うのか大体予想できる。そしてどこにどんなダメージがくるのかも予想できる。


 生憎だが、僕にはもうしりとりをする理由が無い。だから自室に帰る!


「駄目だよセイリュウ君♡ 部屋に戻るなら、ちゃんと布団と()を持って行かなきゃ……♡」

「負けた僕に再戦する権利は、ん? 今なんて?」


 色々と理解できないことが僕の耳に飛んできた。


「えへへ♡ とぼけてるの?♡ だって、私の目の前にこんな枕を出したのって、そういう事……なんでしょ?♡」


 ん? 枕? この娘は一体何をほざいているのだ?


 そう思い、視線を彼女の顔から腕へと移動させる。そして手に何か持っていることを確認する。

 薄い水色の枕らしき物を持っている。


 いや、もしかしたら枕だと見せかけて本当はクッションか、もしくは勝手に収集した僕の数多の衣類を縫い合わせて作ったビャッコの手作りクッションかもしれない……!


 ……それはそれで怖いな。というか迷惑だな。


 また窃盗罪で訴えようかなと思いつつ、彼女にそれは本当に枕なのか尋ねる。


「うん♡ ほら、これ♡」


 そう言うとビャッコは、枕か疑っているそれを僕に見せる。


 それは確かにどこの家庭にでもあるような普通の枕であった。()()()は。


「えへへ♡ この“YES”って……えへへへへ♡」


 その枕には、大文字で“YES”とプリントされている。どうやら布団とセットだったらしい。


 え、待って、じゃあ“NO”は? 『NO枕』無いの? 何で“NO”は無いの⁈ 何それ拒否権が無いとかそういう事⁈ いや世知辛くね⁈


 辺りを見回してみるが、希望の“NO”が見当たらない。拒否権を目で探すが、見つからない。

 “YES”に“NO”と言ってやりたい……。肯定を否定したい……! 拒絶に似た感情が僕に圧し掛かる。


 このデレデレ顔のビャッコは、絶対に何か変な方向で勘違いしている。


「もぉ~♡ セイリュウ君ってば~……♡ 直接『好き』って言ったくれればいいのに~♡ この“YES”ってやっぱり~、私の事が「違いますごめんなさい放してください」」


 ……ちょっと何言ってるのか分からないです。あと痛いです。

 “そういう事”って何? ちょっと怖いのだけれど……。それはそうとほんとに痛いです。


「ふ~ん。セーリューって、そういうことするんだ~」

「あのゲンブさん? なんか声が低いような気がするのですが……?」

「セイリュウのバーカ!」

「ねえセイリュウく~ん♡」


 こいつら、うるせぇー……。ビャッコに関しては色んな意味で本当に危ない……。


 どこで間違えた? 何が正しかった? どうすれば僕の望むルートにたどり着くことができるのだ⁈

 もう『しりとり』なんか嫌いだ、クソー‼

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