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危機とヒヨコとそれから私

「ごちそうさまでした!」


 豚肉を食べ終え、ご満悦のスザク。


 あぁ、口の周りに焼肉のタレをびちょびちょつけて、みっともない……。


「ほらスザクちゃん。口の周り拭いてあげるから、こっち寄って」

「い、いいわよ! そんなの自分で……んぐっ!?」


 問答無用と、無理矢理ゴシゴシと口周りを拭かれるスザク。……痛そう。


「じっとしてないと、綺麗にならないよ?(あぁ……♡ セイリュウ君と結婚して、子育てしてる時って……こんな感じなのかなぁ?♡)」

「ンーッ! ンムムッ! ンンンンンンン!!(痛い! ちょっと! 痛い痛い痛い!)」


 これどういう状況? 拷問か何か?


 そしてビャッコの手がスザクの口元から離れると、摩擦のせいでスザクの口周りが赤くなっている。


「あ! ちょっとやりすぎちゃった……!」

「ちょっとどころじゃないわよ!」

「逆によかったじゃないか。赤色、好きなんだろ?」


 ふざけるんじゃないわよ! とプンスカプンスカ腹を立てるスザクは、子供が怒っているようにしか見えないのは、僕だけか?。


 何とも痛々しい光景を目にしながらも、このゲームは終わらない。


「『クトゥルフ 』」

「「「え?」」」」


 ゲンブが、思いもよらない言葉……いや、()()を口にしたので、思わず驚いてしまう。


「おいゲンブ、お前一体何を呼び寄せようとしているんだ。」

「え~、だってしばらく会ってないじゃな~い」

「できれば僕は、遭遇したくないんだが……」


 こう言っては本人に失礼だが、色んな意味で気持ち悪いんだよな……。


「あら~、相変わらずつれないわねぇ~セイリュウちゃぁ~ん」


 聞きたくもない声が聞こえた。オネエ口調のその声を聞いた途端、寒気が僕の全身を襲った。

 武者震いが止まらない……。


 ゲンブの後ろに、不気味な気配を感じる。


「……!」


 僕は思わず叫びたくなった。

 緑色の鱗で身を纏うタコの見た目をしたそれが視認できた。


「あ~、クトゥルフ。久しぶり~」

「あらゲンちゃ~ん! 久しぶり~! 元気にしてたぁ? もうずっと会ってなかったわぁ! セイリュウちゃんも元気してた~? もう全然連絡ないからあたし超心配でさぁ~」


 ……大事な事なのでもう一度言おう。僕は思わず叫びたくなった。

 苦手な奴が近くにいると発狂したくなるのは、一種の病気なのだろうか? それともアレルギー反応に似た症状なのか?


 ならば尚更、その根源から離れなければ———————


「あれ~? セーリュー、どこいくの~?」


 ———————緊急クエスト、失敗。


 こっそりとこの場から離脱しようとしたが、感知能力の高いゲンブに見つかってしまった。


「ねえゲンブ、この人誰?」

「ああそっか~スザクとビャッコは知らなかったね~」

「それじゃあ、初めましての自己紹介ねぇ!」


 コホン、と改まった様子で彼女?はスザクとビャッコに自己紹介をする。


「我が名は『クトゥルフ・Z(ゾス)・ラブクラフト』! 水属性でありながら、メイクアップアーティストの職を持つ者なり! ちなみに、性別と年齢は非・公・開♡」

「わー吐き気するー」


 本人に聞こえないように僕は本音を呟く。


 先程から聞いての通り、このクトゥルフはオネエである。


「あ!私知ってる! 今ニュースとかでよく出てくる人だ!」

「その言い方だとまるで犯罪者みたいに聞こえるぞ」


 まあ、見た目は明らかに不審者に間違えられても不思議じゃなさそうだがな。

 それに知名度も、指名手配犯並みに有名だしな。


「初めまして。私、『西風(にしかぜ) 白虎(びゃっこ)』と申します。宜しくお願い致します」

「『火南(ひみなみ) 朱雀(すざく)』よ! よろしく!」

「あなたたちねぇ~、セイリュウちゃんが言っていた子って」


あ、嫌な予感が……。


「せ、セイリュウ君はわ、私の事をなんて……?」

「あのっ……、ちょっt「ん~そうねぇ~、『高危険度の変態』って言ってたわよ」」


 はーい、嫌な的中ー。


「じょ、じょんなぁ……、何が危ないのぉ……」

「じゃああたしは?」

「スザクちゃんは、『ヒヨコ』って「はあぁぁーーー⁈」」


 うん、知ってた。

 こういう展開になるだろうなぁ、って分かってたよ……。


「セイリュウあんた! ヒヨコってどういう意味よ! あたしが小さいって言いたいわけ⁈」

「よく分かってるじゃないか」

「キイィィィィィィ! このをぉ!」


 場は一瞬にして修羅場同然の空気になってしまった。


 なぜ自分は危険なのか理解できないビャッコと、自分がヒヨコであると少なからず自覚しているスザクに加え、ゲンブと世間話しているオカマのメイクアーティストがいるこの現場に居合わせた僕は思う。


 僕は知らぬうちに、地獄に来てしまったのかもしれない。


「なんか大変なことになってるけどぉ、あたし何かまずい事言ったかしら?」

「大ありだよ」


 ついでにお前のせいだよ、と言ってやりたい。


 クトゥルフは結構有名なメイクアップアーティストで、ゾンビ映画のゾンビ達のメイクも彼?が一人で担当していた事もある。それだけではなく、有名な女優やスターたちのメイクも当たったことがあり、今では次々とオファーが殺到する人気ぶりで———————


「……ん? 待てよ。そんな引っ張りだこのカリスマが、こんなところにいて良いのか?」

「やだカリスマだなぁ~んて♡ セイリュウちゃんったら「頼む帰ってくれ」」


 こいつ絶対仕事中だったろ……。他のスタッフさんとかに申し訳ないので、早急にお引き取り願おう。


「仕事中なら、まずくない? あたし達の所になんていて良いの?」

「ごめんね~クトゥルフ。私たちの都合で呼んじゃって」

「あら良いのよそんな事、あたしも皆に会えてうれシンドロームよ♡」


 なぜ急に症候群に駆られているんだこいつは……。

 もうお願いだから、帰ってください……。

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