プロローグ①
空は藍色を広げ、太陽が昇るのを待っていた。
春の曙、少年が一人暗い表情でとある丘の上に立っていた。
目の前には、二枚の木の板を重ねて作ったと思われる十字架が地面に突き刺さっている。
何故、少年の顔色が悪いのか、理由は言うまでもあるまい。
そのオブジェは「墓」を意味しているに他ならない。しかもそれが2つ。
少年はそれらの前に一輪ずつ花を添え、振り向き、歩み始める。
何の言葉も口にせず、まるで生気を失っているかのようなその顔色は死人と何ら変わりない。瞳には光は無く、『絶望』というに相応しい。
余程大切な存在だったのであろう。
そして歩き続けて約数十分、あの丘から麓にある花畑を通り抜けて行き着いた先。
青く広大に広がる海。足元には貝殻を忍ばせている砂浜。
彼は浜辺に行き着いた。
波は穏やかに打ち寄せ、砂の中に隠れていた貝たちの姿を晒し出させ、海に連れた。
少年は膝から崩れ落ち、藍色の空を向く。
すると、雲行きが段々怪しくなり先程まで穏やかであった波が急に激しくなってきた。
悲しみが込み上げてきたのか少年? 今度は泣き叫び始めた。彼に同調しているかのように波は激しさを増し、空も雲に覆われ藍色から黒色に変わっていく。
しかし変わっていくのは空だけではない。
少年の服のポケットから青い光が漏れ出ているのが見えた。
そして、彼はその光と共に波に拐われた。
次の瞬間を目にした私は、「彼」という存在の誕生を心から祝福した。
……おめでとう。君たちが下すのだよ。この世の行方を…。
◇ ◇ ◇
……守れなかった。
僕は一体、何の為に……、ここまで……。
僕の宝物が…僕の家族が……、こんな、こんな……。
(お兄ちゃん……)(兄ちゃん……)
ごめん……、ごめんよ……。
((お願い……))
いや、やめろ……やめてくれ……!
(私たちを)(俺たちを)
やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ——————————————
((殺して……))
ああ……ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!