『さよなら、アミーゴ』
朝起きて鏡の前に立つ。目の前にはしょぼくれた顔の自分。
笑ったり怒ったり、頬っぺたを引っ張って、おかしな顔をしてみる。
そして仕事に行く。
午後11時。帰宅して、また鏡の前に立つ。
何て事はない。鏡の前に居るのは自分だ。だが何かがおかしい。違和感、いや、デジャヴ的な感覚。
「前にもこんな事やったか?」
鏡の前の自分は答えない。そりゃあそうだ。床に就く。
深夜に寝られずにトイレに起きる。また鏡を見る。
映ってるのは自分。他の誰でもない。
「やあ」
と言うと自分が「やあ」と挨拶する。
床に就く。
朝、鏡、仕事、鏡、就寝。
このループだ。
「何故この繰り返しなのだ?」
一抹の疑問。
だが、ある朝、女性が鏡に映っている。
誰だこの女性は? 何故自分の姿が映らない?
自分が混乱していると女性が口を開く。
「ねえ、随分と古い鏡を使ってるのねえ。もう新しい鏡に買い替えたらどうかしら。」
「ああ...そうだな..。この鏡は汚れてくたびれてきたな。買い替えるとするか。」
そう言うと自分によく似た男は鏡を動かし、ゴミ捨て場まで移動させる。鏡を置くと振り返りもせず、そのまま立ち去る。
ああ、なんてことだ。俺は鏡だ。ただの鏡に過ぎなかったんだ。今までのことは、自分だと思っていたことは、ただ外の世界を映していただけなのだ。
幸せそうな“彼”を見送りながら、俺はつぶやく。
「さよなら、アミーゴ」