第六話 『決別』
嵐はその激しさを増していた。
なので、外にいるかのごとく風や雨の音がはっきりと聞こえた。
もっとも、今の私にとって嵐の騒々しさはありがたかった。
私と息子の間に言葉が交わされなくなっても、沈黙によって空気が重苦しくならないからだ。
とにかく、私は考えなければならない。
どうすれば息子の心を現実の世界へ引き戻すことができるのかを。
普通の親ならば、そんなバカなことを言うなと笑って否定するか、ふざけるのもいいかげんにしろと怒鳴るかのどちらかの反応をするだろう。
しかし私の息子に対してそれは逆効果だ。力任せに否定したり理屈で押さえつけようとすると、息子はそれに抗い、主人公になりたいという意思をより強固なものにさせてしまう。
彼の目と、表情を見ればよくわかる。
いかなる困難が立ちはだかろうとも必ず乗り越えてみせるという決意に満ちているではないか。
なんと頼もしく、そして恐ろしいことだろう。
だが、私は逃げるわけにはいかない。
私にも理想とする世界があるのだから。
ここからが正念場だ、と私は口を開く。
しかしそれを遮るように息子は言った。
「俺は必ず主人公になってみせる。そのために必要な知識や技術は身に着けたし、俺を主人公とするために小学生の頃から人間関係もつくってきた。俺が暮らしているこの街や、住んでいる家も物語の舞台として申し分ない。なだらかな山林地帯につくられた、人と自然が見事に調和しているニュータウンと、小高い丘の上にある自宅。父さんの職業もあいまって、この家は俺の理想的なつくりになっている。これもまた、運命なんだよ。この場所から、そしてこの時から、俺は俺を主人公とする物語を始めたいんだ。俺が理想とする世界のために。でも、そのためには、どうしても障害となるものがあるんだ」
「なんだ、それは」
私の問いに答えるように、息子は私の顔をまっすぐに見つめる。
「それは……、父さんだよ」
息子ははっきりと言った。
稲光がリビングを照らし、直後に猛烈な雷鳴が轟いた。
この雷に、私は悪しき運命を感じずにはいられなかった。