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第四話 『啓示』

 再び、巨大な雷鳴が豪快に轟く。

 私もこの雷のように心を解放できれば、どれほど楽になれるだろうか。

 いや、それではだめだ。

 最初から拒絶の態度をとってはいけない。

「なるほどな……。まあ、なんだ。父さんはお前が本当によくできた息子だと思っている。しかしだ、それが主人公としての素質とどう結びつくのかがわからないんだ。父さんも詳しく理解しているわけじゃないが、主人公というものは、たんに優秀なだけでは務まらないんじゃないのか? こう、なんというか、特別な存在じゃなければいけないと思うんだ。お前には他の人と比べてみて、自分にしかない特別なものがあるという自信や根拠はあるのか?」

 ある、と息子はうなずいた。

 …………なぜ、うなずけるんだ。

「俺が特別であることを信じ、主人公という特別な存在になれると確信していることさ」

「いや、だから、そう信じられるだけの具体的な根拠や確信はあるのかと聞いているんだ」

 私の問いに、息子は自分の胸をたたいて答えた。

「これが俺の答えだよ、父さん」

 ふと、目頭が熱くなった。


 やはりお前は、私と彼女の血を継いでいるのだな。

 しかしまさか、こんなことで血のつながりを実感することになるとは。


 風が悲鳴のような音を立てながら吹き抜ける。

 大粒の雨が地表に叩きつけられるような、激しい雨音が聞こえた。

「それに俺だって、主人公の何たるかを知るべく研究を重ね、理想とする主人公像をいくつも創りあげてきたんだ。名作とされるアニメを一通り視聴し、古典作品から最新のベストセラーまでのマンガやラノベを読破し、ネットの創作サイトも巡り歩いた。今の俺なら、明日からでも主人公として生きていくことができると思うんだ」

 それに、と息子は続ける。

「ここ最近のことなんだけど、不思議な夢を連続して見るようになったんだ」

「夢?」

「女の子が出てくる夢だよ。ふわりとした短めの黒髪で、古風な感じのセーラー服を着ている俺と同い年くらいの女の子が、ずっと俺を呼んでいるんだ。ただ、彼女の声は聞こえるんだけど、言葉としては理解できなくて、だから正確な内容はわからない。それでも彼女が俺を求めているってことは、その目や表情を見ればわかる。彼女の目を見るとさ、俺を今までとはちがう新しい世界に連れて行ってくれるような、そんな気持ちになるんだよ。とても心地よく胸が高鳴って、俺は彼女に触れようと手を伸ばす。だけど彼女に触れると同時に夢は終わってしまうんだ。そして俺はいつも涙を流しながら目を覚ます……。そんな夢さ」

 話を聞いているうちに、私は夢に現れたという少女の姿を思い浮かべることができた。

「父さん。きっとこれは啓示なんだよ。俺に特別な存在になれという、運命の意思なんだ」

 なんと前向きに、そして都合よく世界の事象を解釈するのだろう。

 ここまでたくましい精神力を持っていたとは、想定外だった。

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