第三話 『雷鳴』
息子の言葉が終わると同時に、雷鳴が轟いた。
大地を砕かんとするほどの凄まじい音が、リビングに鳴り響いた。
「…………なるほど。主人公に、か」
声の震えを押さえるように、私はゆっくりとしゃべる。
「それがお前の、大切な話なのか?」
そうだよ、と息子はうなずいた。
うなずいてほしくなかった。
「突然こんな話をして父さんは驚いていると思う。でも、俺は真剣なんだ。そのことは信じてほしい」
「安心しなさい。私は、お前の心を信じるよ」
息子の目を見る。
その目には確かな意志の光が宿っていた。
それは母親譲りのまっすぐで、美しい輝きだった。
彼女と初めて出会った時、私はその光に強くひかれたものだった。
だが、私は今、その思い出深い光に、底知れぬ恐怖を感じていた。
「それで、その……、お前はどういう主人公になりたいんだ? ひとくちに主人公といっても色々とあるんだろう?」
「父さん……。本当に、俺が真剣に話をしていることを、信じてくれるのか?」
「もちろんだ。父さんはな、お前が生まれた時からずっと、お前の父さんなんだから」
父さん、と息子は目に涙をにじませる。
深いようでそれほど深くはない言葉なのに、この反応だ。
つまり、今の息子の思考力や判断力は正常ではない状態にあるのだろう。
どうやら認めるしかないようだ。
来るべき時が来てしまったことを。
――いいだろう。
私は父親として、そして平穏な日常を求める者として。
息子を止めてみせる。
そんな私の決意にかまうことなく、息子は話しはじめた。
「一番現実的なところでいくと、ほのぼの日常コメディの主人公がベストだと思うんだ。世界観は今のままで問題ないし、主要メンバーも大体目星をつけている。次の候補としては学園ラブコメの主人公を考えているんだ。ヒロイン役も今のところ三人は確定している。幼なじみのナオと後輩のマコト、去年に町内会でやった断食祭りで知り合った一人暮らしの女子大生のキョウ。俺としては恋愛ものは若干苦手意識があるけど、ラブコメならなんとかいけると思うんだ。で、三番目の候補として考えているのは学園ミステリーの主人公なんだけど、これは世界観が今までの候補と比べてかなり難しくなってくると思うんだ。まずは取り扱うミステリーの種類はしっかりと吟味しなくちゃいけない。高校生のレベルにあっていて、なおかつ高校、もとい学園的なものでないと。それに自分から積極的に物語の核となるミステリーを求めなくちゃいけない。ミステリーのほうから都合よくこっちに来てくれるとは限らないからね。とりあえずこれからの高校三年間で、今挙げた主人公のうちのどれかになろうと思うんだ」
そうかそうか。
うんうん。
私は適度にうなずきながら息子の話を聞いていた。
背中には冷たい汗がにじみ、体は細かく震えていた。
その震えをおさえるように、私は両手を固く握った。