なんとか助かった…?のでしょうか…?
少し進みました
その時のことはよく覚えていません。
ただただ確かなのは私は一度私でない何かになったということだけです。
昔地中海のとある国の哲学者さんが「肉体は牢獄である」なんて言いましたがその方に言わせると私は「脱獄」してしまったようで。
私は脱獄なんてそんなおおそれたことするようなタイプではありません…。慎ましやかに過ごせればよかったんです…。
しかしながら脱獄したは良いもののまたすぐ別の牢獄に捕まってしまったようで。
ほっとするようななんなのかわからない朦朧とした頭の中をぐるぐると回る感情と意識は渦を巻きながら奥底に沈んでいき、私は自分の身に起こったことを把握しきれずにどこか他人事のように思いながらそこで気を失いました。
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私自身驚いているのです。
何故こんなことになっているのでしょうか。
例えるなら自分の葬式をみている傍観者…とでも言うのでしょうか。
ボロボロの包帯でぐるぐる巻きにされた何かに沢城さんが泣きついているのがまず目に入って来ました。
しかしこれがまた妙なことになっていまして。
どうやらベットの上に横たわっているあの何かはおそらく私の体で、ここはどこか宿屋の一室であるということは把握できました。
この部屋には部屋の持ち主と思われる若い男性と少女、そして私達が居ます。
しかし何かが変なのです。いや、総じておかしいことにはなっているのですが、私の感覚…といいましょうか、自分の体を見ることはもちろん、把握することを出来ないのです。
さながら何か私というものは大まかな概念のようなものでして。
視覚というものを目を通さずに認識するというなんとも奇妙な感覚を味わっているのです。
「あかり……。」
「キョウカ、しっかりして??ダグラスはとっても優秀なお医者さんだからきっとこの子も良くなるよ…」
私がそんなことを考えている間もずっと沢城さんは私のことを今にも泣きそうな顔で…いえ、泣いていたのでしょう…眺めていました。
「あ、あの…私はここにいます…!」
「あかり!?」
「えっ?」
「!?」
私の出した声は3人に届いたようです。
しかし…この驚きっぷり…。この世界の人にも珍しいことなのでしょうか。
「ここです!私はここにいます!」
「あかり!どこなの!?」
頑張って声を上げるも私の姿はみえないらしく沢城さんは検討違いの方向を向いてしまいました。
「…!お兄ちゃん!あれ!あの剣!」
「まさか…俺の剣にこの姉ちゃんの魂が憑依してるというのか…!?」
「あ…か…り?」
何ということでしょう。
今の私はどうやら 剣 になってしまったようです。
幽体離脱に収まらず物に憑依するとは。
ここまできたらもう何も驚かないんですが…。
困惑する私を沢城さんがおずおずと近づいて私の名前を呼びながらそっと両手で抱え上げました。
その手は柔らかくて暖かくて、私に生きているという実感とこれは夢ではないという現実を優しく突きつけました。
「あかりのこと…治せたりはしないのですか?先程使っていた魔法で…」
私を抱えたまま沢城さんは2人に尋ねました。その中に不思議な単語がありましたが2人はなんてことない風に返答しました。
「魂を移動させるアルスなんてきいたことがないよ…」
「おそらく…それは難しいだろう。ええと、その剣はもともと人間だったということで合っているんだよな??」
「はい…私はあのあそこに横たわっている体の持ち主です。」
「完全な魂が宿るアルスに喋るアルス、そして元は人間だったアルスなんてきいたことがない!お手上げだ!」
「お兄ちゃ〜ん…」
お兄さんは何やらブツブツと言って頭を掻き毟りました。
「ええと、無知ですみません。その…アルスというのは一体何なのでしょうか…?」
「えっ、アルスを知らないのー!?」
頷く沢城さんと私のことを見て2人は 信じられない という顔をしています。
「私達…どうやら異世界から来てしまったようなんです。」
沢城さんが「そういえば言ってなかったっけ…」とこの私達自身もにわかには信じられないけ事実を言うと、
「「い、異世界〜〜!?」」
と元気よく、おふたりさん揃ってナイスな反応をしてくださいました。
次回、この世界のいろいろが明らかに…!?