第十一章 そして魔王は帰途につく
どうして黄色の華の香りが懐かしいのか、僕には記憶がない。
というより、黄色の華が何処にあったのか、僕は覚えていない。
ただ、凄く懐かしい。
「全く…いつも間にかこんなにも大きくなって。護られているだけだと思っていたのに、護るために私の封印魔法をこじ開けるなんて。」
いつの間にか僕は花壇に立っていた。
黄色の華が満開だ。
後ろから抱き締められる。柔らかな胸が背中にあたる。
ほんの少しだけ背が高いその女性の息がくすぐったく耳元に掛かる。
「貴方はいつの間にか、こんなに大きくなってしまったのね♪
ホントに大人になったのね、サイ。」
狂おしい程にギューッと強く抱き締められる。
僕はこの女性を知っている。
でも、思い出せない。とっても大切な女性…温かい。これは記憶?
黄色の華のいい匂いがする。
微睡みの中で僕は確かに花壇にいた。
☆
私の『魔王さま』…鈴宮 彩。
その寝顔を盗み見るのは私の特権…でいいよね?
あんまりにも起きてこないので、起こしに来たの。
でも、あんまりにも無防備なので後ろから後ろから抱きしめちゃっている。
「こほん。お嬢様…顔の輪郭がだらしなく崩れておりますよ。」
「だって、だって…お付き合いしてるんだよ。これくらいはしても怒られないもん。」
ナーシャのツッコミに対して冷静に反論してみせる。
ふふん、胸を張って反論してやったわ!
だって昨日は私は『お付き合いを申し込まれた正式な彼女さん』なんですもん。
「お嬢様…鈴宮様に嫌われないように程々にベタベタして下さいね。昨夜もお部屋を抜け出して、図書塔に籠もっておられたみたいですし。寝不足の時にベタベタされるとウザったがられるなぁ~、きっと。」
「ナーシャのいぢわる!」
「ん~、もう朝なのかい?」
その時、寝惚け眼の彩がクルリと寝返りをうった。顔がすっぽりと私の双丘に挟まる。
こ、これは想定外だよぉ~。
でも、可愛い♡
ぎゅっ。
思わず抱きしめてしまう。
ナーシャとしては彩が一歩踏み出した事で、強引に既成事実を作るよりもアルマの恋が成就するように見守る方向に考え方を変えていた。
…が、これは大胆が過ぎるというものだ。
「あっ、お嬢様…。」
「うぐぐ。」
「きゃー、ナーシャ!彩がぐったりしてるぅ~。」
彩のくぐもった声に慌てて手を離す。お披露目会から四日目の僕の朝はこうして開けて行った。
☆
「鈴宮さん、顔色が優れませんが大丈夫ですか?」
「はぁ、少し本を読み過ぎて寝不足なだけです。」
朝起きた時のプニプニの感触を思い出して赤面してしまう。
今日は中断してしまった僕のお披露目会の続きをするという事でまた大広間に集合している。
招待客は少し減って居るように見えるのは代理の人だけが居残っているからだとナーシャさんが解説してくれた。
「しばらく時間を頂いた事を許して欲しい。今日、ここに我が娘アルマディータと鈴宮彩殿の契約の儀を再開したいと思う。改めて問う…契約に異議のある者は?」
「大公妃殿下…ヴァルフォール家に異存はございません。」
列席者を代表して、コトリアが名乗りをあげる。
コトリアさんの隣には先日同様シャイターンさんがいる。
先日の対戦は決着の沙汰こそなかったが、周りからすれば明白なのだろう。
他に異議が出なかった。
僕は少しだけ深呼吸して、右手をあげる。
アルマとナーシャさんには散々止められたが、僕には確認しておきたい事があったのだ。
「すいません…先日の対戦では僕が割り込んでしまったので、シャイターンさんはご自身の剣で戦っていません。僕はここにご自身の剣での再戦を申し入れします。
誰からの異議もなく、本当の意味で儀礼的ではない儀式を終わりにさせたいのです。どうかワガママをお許し下さい。」
アルマとナーシャさんからは深い溜め息が、周りの列席者からはざわめきが生まれる。
「シャイターン殿はどうか?」
ドロレスさんの声で、コトリアさんがシャイターンさんに何かを告げる。
すると、シャイターンさんがずいっと前に出てくる。腰には恐らくご自身のレイピアを下げている。
これで対戦はできる。僕も前に出る。
「全く男という生き物は…宜しい。己の剣にて自身の名誉を護るが良い。」
シャイターンさんは礼儀通り、レイピアを身体の中心に構えてからゆっくりとこちらへ切っ先を下ろす。
僕も虎杖丸を引き抜いた。
紫の刀身が更に濃くなったように見える。右手で刀身を上に切っ先が右頬のところに来るまで引く。
二人の動きが一瞬、止まる。
シャ。
ハッ!
お互いに気合いを発して動く。
位置が入れ替わり二人の動きが止まるまで動きを見切れた人はいるだろうか?
「風刃萊渦。」
ぼそりと八閃の奥義の名を口にする。
いま、僕に使えるのはこれしかないからな。
「きゃー。」
「なんだ、あの虫のようなものは?」
虎杖丸の切っ先にぶら下がる三匹の大きな芋虫のようなまるまると太った蠱毒虫を見て、気持ち悪そうに顔を背ける。
シャイターンさんが振り返りながら、お腹を押さえる。
パーティー用のスーツに三ケ所の穴と血の後が残っているが、コトリアさんの加護を受けているシャイターンさんの傷はもう治りかけている。
「これはどういう事なのですか!」
憤怒の表情でコトリアさんがシャイターンさんに近寄る。
「これは…蠱毒虫です。」
「蠱毒虫…?」
「その先は私が説明しよう。」
シャイターンさんがコトリアさんの肩に手を乗せるとレイピアをしまって僕に一礼をする。
「シャイターン…あなた、今…。」
「その蟲は私が毒を無害化する為にお腹の中で飼っていたものだ。
ヴァルフォール家にお仕えするにあたって必要だったからね。
知っての通り、蠱毒虫は魔力を大量に消費する代わりに体内の毒を無害化してくれる。」
「しかし、三匹って新記録じゃないですか?昨日文献を調べた限りでは殆どの人は一匹で魔力を食い尽くされちゃうって書いてありましたよ。文献に残っている限りでは二匹が最大でしたけど…。」
昨日の寝不足の訳を解説しつつ、蠱毒虫にトドメを刺しておく。すると死体は霧のように蒸発してしまった。
「必要に迫られたからね…可愛い姫の為なら仕方がないさ。
礼を言うよ、鈴宮殿。良く蟲の事を見抜いて取り出してくれたね。自分からは言い出せない状況だったから助かったよ…あ、いたた。」
シャイターンさんはコトリアさんから頬を摘まれ、小さな悲鳴を上げる。
「夢じゃ…ないのよね?」
「コティ、それを確かめるなら自分の頬を摘むものだよ。」
「あぁ、シャイターン。私のシャイターン様…おかえりなさい。」
「ただいま、僕のコトリア姫。」
コトリアさんは泣きじゃくり、二人は固い抱擁を交わした。
僕ば邪魔にならないように刀を収めて列に戻ろうとした。
「この場で異議を唱える者があるなら、このシャイターンがお相手する。異存はありませんな?」
シャイターンさんの朗々たる声が会場に響き、全員が頭を垂れた。
こうして僕は晴れてアルマの契約者として認められたのだった。
☆
「バカねぇ。」
コティに『彼女になった』件を細かに報告した後に…呆れたように一言そう言われた。
式典の後、私の身支度を整えるのを手伝いに来てくれたコティと最後のおしゃべりをしている。
「な、な、なんでよ。」
「どーして、せめて婚約者という立場にしなかったの?」
「同じようなものじゃない?」
「ディタ…貴女は人間界で何を見てきたの?」
「何って?何?」
「いーい?人間族は浮気する生き物らしいわよ。まぁ、私達吸血鬼族くらい純愛を護る種族はいないから、他の種族では多かれ少なかれあるんでしょうけど。」
「彩はそんな事…しないよお。」
確かに由乃が見ていたテレビの昼ドラでは私の常識では考えられないような関係でドロドロしていた気がする。
でも、ちょっと彩のそういうところは想像できなくて反論を試みる。
「あ、ま、い!…何の将来の約束もしないで何を安心しているの?」
「だって…。」
「だってじゃ、ない。ディタ…私達吸血鬼族なら契約者を決めるっていうのは一生を誓う最終的な結果じゃない?好きな人と逢瀬を重ねて、この人となら一生一緒にいても良いって思って契約するわよね?
まぁ、貴女の場合は順序がちょっと違うのは聞いて知ってるけど。
妖精族のシャイターンだって…そういうのは意識してくれてるのよ。」
「…まぁ、そうよね。」
「でも、人間族の鈴宮様にはそういう文化というか、背景はご存知ないと思うの。
少なくとも、貴女が契約者になれたと言うことだけで安心しているなら…捨てられるわよ。」
「うぐ…そんな事、ないもん。
彩の好きなお弁当のおかずは全部作れるようになるし…まずは胃袋を征服する作戦だもの。
ちゃんと、好きになって貰うんだもん。」
あぁ、人間界の私のバイブル『ハイティーン』様、か弱き子羊に道をお示し下さい。
「はぁ…大丈夫かしら。貴女って昔から色恋沙汰には初心というか、奥手だものね。
ディタが頑張るつもりなら、大丈夫だと思うけどね。
他の女になんか負けちゃダメなんだからね!貴女が側にいないと鈴宮様が困る状況にしちゃいなさい。」
何と言っても私より先に結婚生活を始めているコトリア先輩であるからして、その言葉にいちいち頷きながら私は帰り支度をしているのだった。
帰るのは今夜だが、それまで薫陶を受けておいた方が良さそうだ。
☆
「ナーシャさん、制服も綺麗に直して頂いてありがとうございました。
剣でズタズタにされてたので、どうしようかと思ってたんです。」
「これくらいは魔術裁縫師に任せればどうという事はありません。
それよりもお嬢様の事、宜しくお願いしますね。」
「はい、勿論です。」
僕に制服を手渡すナーシャさんがにゅっと顔を近づけ目を細める。
「契約したとは言え、婚約もしないのは吸血鬼族にとっては異例なのです。
契約したからと言ってもまだ嫁入り前である事をくれぐれもお忘れなきように。」
「あはは…留意します。」
「それに、その制服には浮気防止の貞操防護魔術が掛けてありますのでそのおつもりで♪」
ナーシャさんは冗談か本気か分からぬ表情で僕に微笑む。
少し胡乱な目で受け取った制服を見てしまう。
「鈴宮様…生半可な気持ちで、お嬢様に手を出したら私が赦しませんからね。」
「怖いな、ナーシャさんは。大丈夫ですよ。折角、一歩を踏み出せたんですから。
ほら、契約って別に好きでも嫌いでもなれるって言うか…恋愛とは別なんじゃないかなって思うんです。
身体的相性が合うって確認だけのような気がして…。」
ナーシャさんは目をパチパチさせて僕を見ている。吸血鬼族の考えはちょっと違うのかもしれないな。
「人間界ではお付き合いを始めて、嫌な所も引っくるめて好きになった人と結ばれるというか…愛って育んでいくものだと思うんです。
だから契約者としてじゃなくて、一人の男として見てくれるならちゃんと頑張りますよ。
彼女の笑顔を護るために。」
「何だか、私の忠告の更に上を行く回答ですわね。
まあ、鈴宮様にお任せしておけば大丈夫かもしれませんね。」
ナーシャさんは溜め息をついて、でもホッとした安堵の笑みを漏らす。
僕の答えは及第点だったのだろうか?
☆
「サルファム殿、どう思われますか?」
蔵書の数では一族随一のオロバス家の書斎は図書館の中にあるかのようだった。本のかび臭さが無いのは綺麗に手入れが行き届いているからに違いなかった。
サルファムと呼ばれた黒髪黒眼の青年…というよりはすでに成人の風貌のほっそりした男は丸い銀縁メガネを眉間のところで少し持ち上げる。
図書館の貸出カウンターのような机の前のソファでサルファムと呼ばれた銀メガネともう一人…こちらはまだ若い黒髪黒目で痩身の青年が二人の男が話し合っている。まだ、稚さが見えるものの物腰は当主のそれと代わりない堂々としたものだった。
「もし、フュイ様の聞かれたイゥーブ様の報告が事実だとすれば由々しき事態です。吸血鬼族の契約は意思を奪うと文献で読んだ事があります。
最悪の場合、我らが一族が吸血鬼族に滅ぼされるかもしれません。」
「そこまで考えるのは…私は神経質過ぎるかなとも思うのですが。
でも…もし、本当にあの方なら私はお救いしたいのです。」
「最悪を考えておけば、後は楽と言うものです。しかし、ご心配は最もですね。まずは監視を置きましよう。外地の情報収集なら我が一族が得意とする所です。」
「どうか、お願い致します。サルファム殿、頼りにさせて頂きます。
私はこれにて失礼致します…妹が、イゥーブが先走らないように見ておかないと…では。」
そう言うとフュイが頭を下げたまま霧のように消え失せる。
「プリシェール、いるかい?」
「はい、こちらに。」
ドアの外に向かって声を掛けるとすぐ隣に膝を着く明るい碧色のワンピースに白いエプロンを着けた銀髪青眼少女が現れる。
サルファムとしては驚きで心臓がバクバクしてしまうのだが、なんでもない平静を装う。
この異母妹にして幼馴染の少女は昔からいつでも側にいてくれて心強いのだが、自分を驚かせて楽しんでいるように思えてならない節がある。
「プリシェール…ちょっと人間界へ行って来てくれないか?」
少女は主人の顔を見上げて逡巡も見せず、コクリと頷いた。
☆
きゅ〜。
小龍が目を回しながら電撃矢に撃たれて落ちていく。
「おぉー、凄い。クランスには敵わないなあ。」
「彩さんこそ。筋が良いではありませんか?初めて弓を持ったと仰る割には三本に二本は命中させておいでです。今日は三匹と大量ですね。あ〜、もっとご滞在して頂ければ色々ご一緒できるのに。」
クランス君のたっての願いで、僕らは小龍狩りに来ていた。
呼び方も正式に契約者になったのだからと年下の自分の事は『クランス』と呼び捨てにするように強要され、現在の呼び方に落ち着いた。
クランス君の転移魔術で来ているので
どこかは分からないがお城からそう遠くに離れている訳ではなさそうだ。
お城の影が時折見える。
「ごめんね。僕にも学校というのがあってね。」
「詮無い事を言いました…分かってはいるんです。
では、私には同性の男の子と話をしたり、一緒に何かをすると言う事がないのです。
父上はお仕事で魔王城に詰めてお出でですし、侍従達では…その話も盛り上がりませんし。」
「なるほど…それは確かに。出来るだけ、努力してみるよ。」
「ホントですね?約束ですよ!」
クランス君は嬉しそうにそういうと次の獲物を狙い始める。
僕にも家族が増えたみたいで嬉しく思わず笑みが漏れる。
家族…頭がズキリと痛む。
今朝の夢の中の女性とは別に僕にも家族がいたんだろうか?
ふと、考え込んでしまう。
「彩さん?どうしました?」
「いや、何でもないよ…あ、ほらあそこにいるよ!」
僕らは小龍の影を求めて森を駆け巡った。
早めの夕食の席では、クランス君の仕留めた小龍の料理に舌鼓を打たせて貰うことになった。
僕らの取ってきた小龍は見た目こそグロテスクだったが味は牛肉に似ていてとても美味しかった。
どうして、こうもこちらの食事は取っ付き難いんだろう?
コトリアさんとシャイターンさんも参加して大人数での夕食は賑やかなものとなった。
シャイターンさんと自由に会話が出来るようになったコトリアさんのラブラブぶりに僕らは当てられていた。
「シャイターンはこの味はお好きよね。」
「そうだね、コティ。僕が自分の意思で味の好みが言えない時ですら君の選択は一度として僕を失望させた事はないさ。」
「良かったわ。これもディタが鈴宮様を契約者に選んでくれたからよ。
感謝しなくては。何度、頭を下げても切りがないくらいよ。ありがとう、ディタ。」
「もう、そうしたのは彩なんだし…私達の仲でしょ、気にしないで。」
「アルマディータ公女殿下、重ねて私からも感謝を…しかし私にも武人として二度も遅れを取ってしまった。
コトリアの名誉挽回の機会と思って、次回、ご帰国の際には是非とも鈴宮殿とのお手合わせをお願いしたい。如何だろうか?」
「うぐぐぐ。」
「私は構わないけど、二人共怪我したら嫌よ。」
「それは勿論、気をつけさせて頂く。私もコティに怒られるのは嫌だからね。ココだけの話、我が姫君のご機嫌を取るのは中々大変なのですよ。」
「も~、シャイターン。どういう意味よ~。」
パンを喉に詰まらせて喋れない僕を見越してなのか早々にアルマに許可を取り付けてしまう。
政治的手腕では宮廷育ちのシャイターンさんが三歩ほど先を行っている。 結局、まんまとシャイターンさんからは次回の再戦を約束させられてしまった。
☆
「ディタ、身体に気をつけてね。他の女に負けちゃダメだからね。」
アルマは親友同士の抱擁の後、ドロレスさんの前で優雅に一礼する。
「お母様、お父様にも宜しくお伝え下さい。」
「確かにお伝えします。鈴宮様、大公妃ではなく母親としてこの娘の事を宜しくお願い致します。」
「はい、勿論。大切にさせて頂きます。」
お城の地下にあるクール家の祭壇には魔術式が展開されており、アクティブである証拠に白く輝いている。
「彩さん、また狩りに行きましょうね。」
「うん、またね!」
僕とクランス君は男同士の固い握手をして、アルマはぎゅっと弟を抱き締めながら別れを惜しんだ。
異世界からの帰還。
僕が魔術陣の上に乗ると魔術陣の輝きが一段と増す。
僕は空いている方の手でアルマの手を握った。
アルマが少しはにかんででも、握り返してくる。
僕らの姿が光に包まれると次の瞬間、僕らは掻き消えている…はずだ。
実際には僕らにとってはアルマの部屋のクローゼットから部屋の中に一歩を踏み出したに過ぎない。
「やっと戻って来た!なんか長かった気がする。」
「お疲れ様、彩。」
アルマの柔らかな手がきゅっと握りられる。
「ただいま、アルマ…ところでさ。」
「ん?何?」
「来週…レポートの提出あるの覚えてる?歴史的考察に関するレポート…しかも英文で。」
「がーん、忘れてた…あれ?そういえば彩が図書塔に入り浸っていたのって…。」
「勿論、レポートの為さ。基礎レポートは完璧!」
「あ、ズルい。なんで教えてくれないのよ…っていうか向こうの情報は迂闊に出しちゃダメなんだからね。
け、検閲させて貰うからね…これは大公家の義務だわ。」
「あ、ズルい…書き移す気だな。」
「違うもーん。リンクのせいで彩の考えている事が分かるだけだもん。」
アルマは腕を組んでそっぽを向く。
思わず可愛くて笑ってしまう。
こうして来週からの学院生活復帰に向けて僕らの週末は賑やかに過ぎて行った。
この分だと週明けから中間テストなる学生にとっては悪魔の儀式がある事は内緒にしておいた方が良さそうだ。
☆
霊魔界では新たな変化が神の系譜に起こっていた。
既に各種族には吸血鬼族の内乱にも似た騒ぎが族長の娘の圧倒的な力によって鎮圧された事は知れ渡っていた。
ただ、その事で特に神の系譜に変化があるとは思っていないのでわざわざ確認に行く者などいなかったのだ。
「あぁ、サイザード様…やっとお戻りになられた。」
黒髪のショートヘアだが、左右の揉み上げの部分だけを三つ編みにした少女が暗闇の中、位階序列一位の場所に浮かび上がった文字を愛おしそうに指でなぞる。
さもその人自身に触れるかのようにそっと優しく。
その下に浮かび上がって来た名前に一瞥をくれると少女は元来た道を戻り始めた。
これで希望的推測が確信に代わった。
少女は泣いていた。
そして、笑っていた。
道を急ぐ…人間界への転移門は既に準備させている。
一番に見つけるのだ。
そして、少女は暗闇に紛れて消えた。




