第三七話 転生説の破綻 一
「ちょっと向こうで話さないか」
「私はいいですけど、眠る前に大事な話をすると、目が冴えて眠れなくなってしまいますよ」
「いや、別に深刻な話じゃない」
野営地から少しだけ二人で歩き、曇りがちで星の疎らな空を眺めながら話を切り出す。
「手配師はエヴァの出身地をロゴヴィツェと言っていた。それってどこにあるんだ? 私は聞いたことがない」
「んー。雑談や相談というより、過去の詮索に聞こえますねえ。そういうのは感心しませんが……まあいいでしょう。ロゴヴィツェはロギシーンとソリゴルイスクの中ほどにある寒村でした」
『寒村でした』か。そういえば廃村になった、と手配師も言っていた。私が考えているよりも微妙な話題に直入してしまったようだ。
「風の噂で村人が離れて廃村になったと聞きました。ロゴヴィツェにはもう長く訪れていないので実際のところは知りません。どうしていきなりそんなことを知りたくなったんです?」
「エヴァは植物やキノコについて詳しい。あれは薬師として得た知識だろう? ロゴヴィツェで身につけたのかと思ってな」
「アルバート君も植物に関心があって気になった、というところのようですね。残念ながら予想は外れです。ロゴヴィツェは生まれた場所であっても、薬師としての勉強をした場所ではありません」
エヴァにはおそらく隠したい過去がある。しかし、ロゴヴィツェが薬師として知識を入手した場所ではない、というのは本当だろう。前世の知識はロゴヴィツェという村の名前に何の反応も呈さない。私はおそらくそこに居たことも行ったこともない。
「私の知識を培った場所は一箇所ではありません。お金を払って色々な土地で色々な人に教えてもらったり、コネクションを作って薬学の本や植物図鑑を読ませて貰ったり、それなりに苦労しました」
どこの誰から学んだのか、エヴァは固有名詞の明言を避けようとしている。どうやら私の知りたいことを聞き出すには取っ掛かりが足りないようだ。エヴァが話したくなるような何か、話さざるを得ないような理由が無ければ……
「アルバート君がもっと勉強したいようでしたら、近道とか楽をしようとしたりせずに、それなりの場所を得て、まとまった時間を費やすつもりでいたほうがいいでしょう。大学はそのためにも、とても良い場所だと思いますよ」
「そうか。じゃあエヴァの出身の話じゃなくて、もう少し別の話をしようか」
「そっちが本題ですか?」
エヴァが好きそうな、上手く隠れ蓑にできそうな話題……。エヴァが我々に見せる人間性、というのは、エヴァが然るべき風に作り上げた展示品。そこからエヴァの本心や本当の興味を探るのは必ずしも簡単ではない。特に私のような人間観察力に欠けた者にとっては。ならばいっそ、エヴァ、という個人から離れ、女が一般的に興味を持ちそうな話題から切り崩せないか試みることにしよう。こういう話をしだすと、また大儀なやり取りを挟むことになるが止むを得ない。
「運命って……信じるほう?」
気まずい沈黙が二人の間に流れる。心なしかエヴァの笑顔がぎこちない。我ながらもっと上手い切り出し方は無かったのだろうか。
「本当に全然別の話になりましたね。運命ですか……」
私の悪い予想とは違い、茶化すことなく真面目な顔で考え始める。
「……あまり好きな言葉ではありません。自分のことに関しても他者のことに関しても、努力、意思、執念なんかを否定されるような気がしますから。アルバート君は何かに運命を感じているんですか?」
その返答はただの綺麗事などではなく、エヴァが隠し持つ人間性と行動理念が顔を見せているような気がする。
質問を返されたことで、また一つ、眠っていた感情が目覚める。私も、運命を否定し、覆さなければならないものがあったような……
「わ、分からないんだ。私も移り気でね。最近の興味として、生まれ変わりなんてものが存在するのだろうか、なんてことを考えている。それで聞いたまでだ」
記憶と感情に踊らされ、しどろもどろに言葉を紡ぐ。辻褄の合う文章を作れているか、自分でよく分からなくなってしまう。
「精霊に愛された者の精神が、死後新しい命を賜る。紅炎教でも東天教でも共通している概念の一つですね」
「エヴァ自身でも知り合った人間でもいいけれど、『生まれ変わり』という人を見たことがあるか? 前世の恋人を探している……とか」
話に恋愛色を出すことで運命論や転生論を展開することに不自然さが無くなるはずだ。女は概して恋愛話が好きだし、エヴァにしたって、出会ってすぐから、ことあるごとにそっち方面の話題を絡めてきた。エヴァも女の例に漏れない。
「生まれ変わっても、きっとまた二人はお互いを見つけて愛しあう。そういうロマンチックな話は、読み物の中でしか見たことがありません。恋愛話ではありませんが、もし生まれ変わりというのが現実にあるとしたら、精霊を超えたあの二人が転生していないのはおかしくないですか?」
精霊を超えた人間……か。
人間は種全体でみると非常に弱い。種としての到達点、世界最強の生命、ドラゴン。そのドラゴンよりも強い世界最強の存在、精霊。世界には様々な精霊がいて、全ての精霊は唯一の源があり、世界の原理に繋がっているとされている。
エヴァにとって転生は作話に過ぎず、運命は否定すべきものなのかもしれない。しかし、精霊に限っては御伽噺でも何でもない。少なくともここ、マディオフという国では。何せ火山の中心に行けばいつでも会えるのだから。
マディオフに山は数あれど、"火山"というのは一つしかない。国土の西側、海からやや内陸側にある山、それが火山だ。火山はそもそも、活火山ではなく、ただの山だ、という説もある。火の精霊がいるせいで、山全体が熱を帯び、マグマの如く溶岩が吹き出すだけだ、と。
記録によれば過去に二回精霊が倒された後、数日間は火山としての活動が全くなかったらしい。倒されても数日で復活するあたり、目に見える精霊を倒しても根本的に世界の何が変わるわけではないというのは興味深い。一時的には火山が止まった訳だから、考えようによっては、世界に影響を与えた、とも言える。
ただ、精霊が倒された二回というのはどちらも数百年以上前の事だから、記録の真偽を知るものはマディオフにはいない。長命種や、アンデッドの中でも知識や理性をもつものなら当時のことを知っている可能性はあるのだが、マディオフはアンデッドの存在を許さない紅炎教が国教だし、国策の影響もあり長命種はあまりいない土地だ。
戦争中の隣国、ゼトラケインには長命の吸血種がたくさんいるのに、マディオフの国策は吸血種排除の方向性を取っている。だから長命種が少ない。
ゼトラケインは国の顔たる国王ギブソン・ポズノヴィスクが吸血種であり、しかもギブソンは二度目の精霊殺しと少しばかりの因縁がある。精霊殺しの現場には居合わせなかったにせよ、人間などよりはよほど真実を知っているはずだ。マディオフ国内だけでなく、ゼトラケインにおいても精霊殺しが真実とされているならば、二度目の精霊殺しは実話である可能性が高い。
現在は紅炎歴五四二年。最初に精霊が倒された年が紅炎歴一年だ。二度目は今からおよそ百五十年前の紅炎歴三九五年。どちらも真実だとして、精霊と同等かそれ以上の強さの人間が、この五百数十年の間に二人いた、ということである。
そんな人間が転生していたのなら、無名のまま没する訳がない。しかし、実際には精霊殺しに匹敵する偉業を成し遂げる者が現れていないのだから、転生という現象が現実に起こるかは懐疑的だ、とエヴァは言いたいのだ。
転生が精霊の計らいによるものだとしたら、転生の必要条件は精霊に気に入られることだと思う。果たして精霊を倒して精霊に気に入られるものだろうか。人間感覚としては、恨まれてもよさそうなものである。
私も幾度となく自分の前世が"精霊殺し"なのではないか、と夢想したことがある。推理ではなく、あくまで妄想、願望の類として、だ。だが、それは冷静に考えるとあり得ない。
精霊殺しが、ファイアーボールのような上位魔法程度が精一杯なんて痛々しい話があっていいはずがない。精霊殺しが、何が悲しくて錠破りをしなくてはいけないのか。
精霊殺しは数百年に一人の人智を超えた存在、もはや天災レベルなのだ。私の前世は、どう贔屓目に見積もっても、毎年生まれる百人に一人の秀才程度の強さ。前世最強でもなければ天才でもない。
「ロマンチックな話が好きな女性も多いでしょうが、私は現実的なものに魅力を感じます。でも分かりますよ。アルバート君は恋人を探しているんですね」
「例えば、の話だ。でも、転生も運命もエヴァには否定されてしまった」
「そんなことないですよ。人が信じるものはそれぞれです。君の家は紅炎教でしょう? 尋ねられたから、私自身は信じない、と答えただけであって、君が信じることまで否定するつもりはありません」
家は紅炎教でも、私は紅炎教ではない。父は入婿だから別に置くとして、母子四人で紅炎教の洗礼を受けていないのは多分私だけだ。だから私は紅炎教ではない。家にあった教本を読んだために、教義はある程度知っている。それも大分忘れた。
「でも、身近にある最も運命を感じられそうなものを挙げるとすれば……。それはアルバート君が私の家族になりそうな事ですかね」
「なんだそれは」
ここまでせっかくいい調子で話してきたのに、ついにそっちに走り始めた。しかも茶化しではなく真面目な話しだ。迂闊なことを口にしないようにしなければ……
「運命はどこかに約束済ですか?」
「そんなものはない……」
孤独感。
ごく幼少期はそんなものを感じることなどなかった。
思春期を過ぎる頃、人は自己同一性について悩むことがあるらしく、私も残念ながらそのうちの一人となってしまった。
私は、自分の前世が何者か分からない。これは、孤児が自分の両親が誰なのか思い悩む事と本質的に同じなのではないだろうか。
前世はどこで生まれてどう生きたのか。
目標に向かって忙しなく走り続けている間は、こんなことばかり考えずに済むのだが、こうやってハントを達成して、ダラダラ敵を倒しながら街まで歩くだけ。そうなると沸々と考えずにはいられない。しかも、エヴァが前世の私と同郷の者かもしれない、という新しい仮説が、私の孤独感に拍車を掛ける。答えを見つける望みが見えてしまったからこそ、執着が生まれる。
親とも言い換えられる自分の前世を探すこと、自分の故郷に思いを馳せること、同郷人との出会いを求めること、同じ境遇、生い立ちの者を探すこと。物心ついた頃から追いかけてきたことではあるが、こんな寂寥感を伴うものではなかった。難敵の討伐という、一つ事を成し遂げた後の虚無感も、私の今夜の冒険を後押ししたのかもしれない。
「私も別に運命などは信じていない。ただ、聞いてみたかっただけだ。エヴァは情報に聡いし、それに強い。同じものを見ていても、強いもの、賢いものには見え方がまた異なることがあるからな」
現世で出会った人間に限れば、エヴァは物理戦闘最強である。母キーラよりも強い。強さ的に、エヴァ自身が転生者という可能性も秘めている。
「アルバート君はすごく強いですけれど、新成人相応に思い悩んでいたりもするんですね。親近感がぐっと増しました」
一歩間違えると、精神的に難あり、と捉えかねられない私の問い掛けは、なぜかエヴァに好意的に受け止められた。
「そういえば、生まれ変わりと言えば、よく励ましの言葉に『生まれ変わったつもりで努力しなさい』なんて言いますよね。まるで君のことのようです」
自分から転生論を切り出しておきながら、自分のことを指摘されると緊張が走る。
「悪い意味ではありませんよ。アルバート君はその年齢で考えると信じられない能力を持っています。ただ、私としてはそこに天才性よりも、積み重ねられた努力のようなものを感じるんですよね。実際、名家に生まれついているというのにそれに驕らず研鑽に励んでいますし」
私が転生者だと確信しての発言ではなさそうだ。心の中で胸を撫で下ろす。
「人間、自身の力ではどうにもならない、抗う事のできない大きな流れなんていくらでもあります。けれども、それを運命といって諦めても許されるような十分な努力や準備をしている人間なんてごくわずかです。手を伸ばそうとしない、掴み取ろうとしない者が多いですが、君は違います。怠惰に過ごした人生を悔いて、新しく生まれ変わった身体で努力している。あるいは、生まれ変わりではなくて、時計の針を巻き戻して人生をやり直している、と言われたら、もしかしたら信じてしまうかもしれません。過去に戻ってやり直す。精霊の力を持ってしても可能かどうか分からない。そんな事が実際起きているのであれば、それはもう運命といっても差し支えないでしょう」
エヴァは転生論から一歩進み、私の想定外の領域へ切り込んでいく。
時計の針を巻き戻す? タイムループか。そういう小説はいくつか読んだ覚えがある。
私は自分が転生者だと思って、全くそういう観点で引き継いだ記憶について考察したことはなかった。まさか自分で気付いていないだけで、やり直している……? いやいや、やり直しているのなら、父や母の記憶すらあやふやなのはおかしくないか。
少し落ち着いて考えてみよう。私は以前父の事を怖れていた。あれは最終的に『怖れているのは前世の父のことであって、現世の父ウリトラスのことではない』と結論付けた。今考えると、本当にそれは正しいのだろうか。
家族とはいっても、私は今までのところウリトラスとそう深く関係を持っていない。家にほとんどいないのだから、これは仕方がない。もし、もっと接点が多かったら、ウリトラスのまた別の側面が見えていただろうか? もしくは、ウリトラスの本当の人格が見えてくるのはこれからなのではないか?
そういえば、私は母キーラと戦った記憶を有しているのだった。記憶の中のキーラは、現在のキーラよりも弱い。私が持っているキーラの強さの記憶は、若く未熟な頃のキーラだとばかり思っていたが、まさか年老いて衰えたキーラなのでは?
考察材料を両親に絞って考える限りだと、タイムループ説は否定しきれない。もう少し考察材料を広げると、どうだろうか……
「やり直しか。チャンスをもう一度与えてもらった。そういう心構えで人生を大切にするという考え方は悪くない」
片や処理しきれない新しい問題を抱えながら、残りの脳で言葉を捻り出す。
「アルバート君は努力しているし、努力を実らせる才能があるから好きです」
乳母のナタリーは、私の「前」の記憶には全くない。カールのことも知らない。タイムループしているならいくら何でもこれはおかしい。
……即断するな。ちゃんと考えろ。
もし、やり直しているのならば、身の回りで起こる事は少しずつ変化する。母が病まずにナタリーが私の乳母とならず、カールも家に雇われない。そういうパターンがあっても何らおかしくない。そもそも母が精神を病むこと自体が、イレギュラーなパターンという考え方もできるし……あとは乳母が雇われるときに毎回ナタリーとは限らない、とか?
……ってちょっと待て。今、エヴァは変なことを言わなかったか?
「あ……それはどうも」
タイムループ説に注意を持っていかれ、他人事のような感想しか出てこない。
「強くて知識も豊富な人を家族に迎え入れる。夢のある話です。だから必ず大学に行ってくださいね、アルバート君」
両方を同時に考えられる展開ではなくなってきた。こちらはかなり重大な事を考えているのだ。発言内容は時機時節を考慮の上、慎重に選んで頂きたい。
まずどちらを処理したらいい? どちらって、考えるまでもなく決まっている。目の前に会話相手がいて、返事を待っているのだ。エヴァの話の方を先に当たり障りなく終わらせるべきだ。
「結婚相手なんてエヴァならいくらでもいるんじゃないか」
大体、まるでエヴァのために大学に行くかのような話になっている。
大学に行く、というのは私の希望であって、しかも未確定。決してエヴァの期待を背負っての行動ではない。
「いきなり私の話ですか? んー。声を掛けてくれる人はたくさんいましたが、こちらの食指を動かすような人は、そうはいませんよ。それこそ、運命のうの字も感じないような人たちばかりです」
今まで誰の話をしていた、というのだ。会話に向ける私の注意が散漫な間に、私と見知らぬ女との縁談の話にでもすり替わっていたのか?
実際のところエヴァは美人だと思うし、最初は緊張したけれど、今は何か違う。
好きか嫌いかの二択ならば好きである。「前」に何らかの縁があるかどうかを別にしても、他人のような気がしない。ただし、異性としての意識は薄らいだ。何というか、母とか姉のような感覚だ。家族のような好き嫌いの範疇というのと、闘衣の扱い方やハントなどについて、私を導いてくれることに対する感謝故の好感であって、女性として意識してしまうのとは全く違う。
美人はすぐに慣れる、と言うし、このところいつも一緒にいたせいかもしれない。それもハントという緊張下でばかり。
思い返せば、会ったばかりの頃は、美を司る精霊が現界したのか、というくらいに動じたものだ。しかし、そんなのは本当に最初の最初だけだった。手配師からエヴァの話を聞き出した後くらいから、異性としての緊張は徐々に薄れた。エヴァにからかわれたせいもあるだろう。
それからハントに行って、フィールドでは案外知的な会話を嗜むことを知って、闘衣対応装備について教えてもらい、ヴィツォファリアを買ってもらい、エヴァが私よりも圧倒的に強いことを自分の目で確認し、修行のように厳しいハントに引っ張り回され……
振り返ってみると、エヴァの凄さと自分の情けなさの対比が際立つ。全く頭の上がらない人物に、ハンターだから対等だとばかりにこんな口の利き方をしていてもいいものだろうか。
「私は若輩者故、まだ結婚などは考えられませんので……」
混乱のあまり、立ち位置の定まらない返答が口から飛び出す。
「何を言っているんですか。大学を卒業してからの話ですよ。ちゃんとそれなりの人生経験を積んでください。ハントだけでは生涯経験できないことなんて山程あります。大学も入学するだけじゃだめですよ。入る人はそれなりにいても、かなりの割合で卒業できずに辞めていくんですからね。大切な時間を費やすのです。ちゃんとモノにして貰わなくては」
私の将来設計がエヴァの中で勝手に決められているような……。これ以上この流れで話を続けても埒が明かない。恩人であっても自己決定の侵害を許しはしない。
「決めているのはオープンキャンパスに行く、ということだけだ。入学するかどうか決めるのはそれからだし、行く気になったとしても、希望の専攻が取れなければやはり行かない。エヴァの中では決まっていることのようだが、私のことは私が決める」
「おや、そうですか。ちゃんと自分で考えて決めよう、という心がけは殊勝です。でも、私には『入学』という『運命』が見えますよ」
女は口が回るから厄介だ。
「運命は私もエヴァも信じていない。そういう話になったはずだ」
「でもアルバート君は、『運命はある』って言って欲しかったんですよね。私なりに、自分の考えを捻じ曲げない範囲で君の渇望を満たしてあげたつもりなんですけど」
エヴァの言う通り、面倒臭い話題を持ち掛けたのは私であり、エヴァは茶化すことなく私に応えてくれた。本当に聞きたいことを聞き出すことはできなかったが、私の話術だとこれ以上粘った所でエヴァに自分のことを語らせるのは無理だろう。
「有意義な話ができたのは間違いない。私はもう休むよ。ありがとう」
「大丈夫ですか? 深刻な話じゃない、なんて言ってましたけど、大事な話でしたよね。眠れます? 夜番の順番、替わってもいいですよ」
夜番の順番を入れ替えたところで、おそらく私は今晩寝付けない。
「気遣いどうも。遠慮しておくよ」
「起きれなくても時間になったら無理にでも起こしますからね」
自分では答えの出せない難問の解答を教えてほしい。解答までいかなかったとしても、せめて答えに繋がる端緒だけでも得られれば、と軽い気持ちで問い掛けた所、問題の難易度が急上昇した。そんな気分である。しかも、おまけが付いてきた。
今夜を越せばようやく明日、家に帰れると思っていたというのに、このまま長い一日になりそうだ。




