第七三話 信奉者 一
宵闇に抱かれたマディオフが王都ジェゾラヴェルカは肥え太った我々を変わらず穏やかに迎え入れ、ロギシーン行の労を労うかのごとく匂い立つ甘露酒を差し出す。
贅肉は機動力低下の元、早急に削ぎ落とさねばならん。しかし、王都の甘い誘惑には逆らいがたい。
意思薄弱な私はたやすく絡め取られ、半分眠った検問にフラリと立ち寄る。
この国でワーカーパーティーとして活動する都合上、我々は王都に籍を置いている。王都を出た後、帰還した記録が無いのに都内にいることが何かのはずみにバレてしまうと色々と面倒が生じてしまう。ならば入都と同時に帳簿に“手入れ”しておけばいい。ついでに記録各種を閲覧すれば人や物のおおまかな動態を把握できる。
書式が整っているだけで総括がまだされていない記録の山を私はパラパラと読み進める。
書きなぐりの記帳を彷彿とさせるこの乱雑な情報群から全体像を導き出すのは私の拙い情報処理能力だとなかなか厳しいものがある。それでも、この国が財政面でも物資の面でも人的資源の面でも、とにかくあらゆる面でかなりの綱渡りを強いられていることは漠然と理解できる。
これ……本当に大丈夫か?
綱渡りどころか、とっくに限界を超えているのでは?
情報の山の上にぼんやりと浮かんできた各方面の数字の悲惨さに、私は気が遠くなりかける。
もっともここは王都に数ある検問の一箇所にすぎず、決して全都、全国の情報が集約されているわけではない。この検問に残された記録がたまたま悪すぎるだけで、別の検問にはもう少しマシな、正視に耐える数字が記されているかもしれない。
そうだ、そうに違いない。まったく、人を無駄に驚かせないでほしいものだ。
だが……ここで入都税を納めないのは後味が悪い。銭を置かずに納税した記録だけ作ってしまうと、後々勘定の不整合に気付いた役人の時間を徒に奪ってしまう。
平時であれば我々がそんなものに気を揉む必要はないが今は別だ。ほんの僅かでも国の足を引っ張る真似をしてはならない。
入都したのだから入都税は正しく納めておきたい。しかしながら、銭袋をひっくり返しても無いものは出てこない。というか銭袋が無い。なけなしの銭ごとオーザムに渡してしまった。また新しく用意しないといかん。
そういえばあの銭袋はルカの遺作か。襤褸で作った間に合わせの生活雑貨でしかないが、もう同じ物は手に入らないと思うと無常風を感じてしまう。
いずれにしても今は払えない。できるだけ早く銭を用意して帳尻を合わせよう。
入都処理を済ませた我々は借家に向かう。建物の内外を調べると、また人の入り込んだ形跡がある。けれども罠などは仕掛けられていない。これも前回と同じだ。
空けていたのは数か月でも塵芥は我が物顔で家屋のいたる所に居座っている。
訪問者が家宅侵入ついでに掃除していってくれたら助かるのに、と詮無きことを考えながらごく簡単に屋内を清浄化して休息を取る。
夜明けがきたら、まず向かうのは寄せ場だ。先立つものは情報で、情報を手っ取り早く仕入れられるのが寄せ場である。
寄せ場の喧騒からは古いものから新しいものまで嘘とも真ともつかぬ噂が次から次に飛び出す。
降臨したドラゴン、フチヴィラスの最近の動向がどうの、国内の食糧事情が逼迫していてどうの、最近のアバンテがどうの、どこそこの闇市は質も量も割と良心的でどうの、南から北上してきたワイルドハントが国土を荒らしてどうの、今週の警邏予想がどうの、石化の呪いをかけてくるアンデッドの進路がどうの、ネコノメソウでじゃらしたところでネコは手懐けられなくて、どうにか懐かせてもネズミを狩らせるまでは難しくてどうの、雑駁極まる。
当然ながら我々にとって有益な情報は極めて少なく、大半は既知か意味自体がない雑音だ。
大学時代より雰囲気の悪い寄せ場で待つことしばらく、手配師たちが現れる。朝の人夫出しの始まりだ。
周旋そのものに用のない私は昔懐かしい雑音を流し聞きながら人を探す。けれども困ったことにお目当ての人物が見つからない。探せど探せど、どこにも居ない。
そうこうしているうちに少し長めの周旋が終わりを迎える。最後まで目標を捕捉できなかった私は仕方なく手近な手配師をひとり捕まえる。
「テベス? 今日はまだ見ていない」
鼻柱にぽつんとひとつ大きなほくろがある中堅風の手配師は素っ気なく答えて足早に去っていった。ほくろの手配師がこれから向かうのはおそらく飯場、しかも急いでいる様子だったから、彼の仕事はこれからが忙しいようだ。手配師にとって飯場は単純な休憩場所ではない。寄せ場に並ぶ第二の仕事場とも言える。
我々はほくろの手配師を追いかけるようにして飯場へ行き、そのまま中に入ってあの一際目立つ悪人面を探す。しかし、ここにもテベスの姿は見当たらない。
テベスに話を聞いてから動き方を決めようと思っていたのだが、いきなり出鼻を挫かれてしまった。
さて、これはどうしたものかな、と小思案する私にラムサスが道を示す。
「ここは王都。テベス以外にも有能な手配師はいくらでもいるはず」
「それはそうなのですが、このパーティーはテベス以外の王都の手配師とは面識がありません。初対面でツケ払いは無理があります。……そうですね。どうせですから嵩張る物の処分を先に済ませてしまおうと思います。中には生物もあるわけですし」
「考え方が所帯染みている……」
行動順序の規定要因を作った張本人のラムサスに呆れられると一抹の虚しさを覚えてしまうが、その程度の些事にイチイチがっかりしたり腹を立てたりできるほどの時間の余裕は我々にもこの国にもない。
次の目的地は決まった。しかし、量が量だけにいきなり持ち込むと先方に迷惑だ。そこで、我々は予告のため、一旦、手ぶらのまま孤児院ナジェーヤに向かう。
ワーカーパーティー、リリーバーとしてこの場所を訪れるのは二度目だが、表に立つクローシェはナジェーヤの誰とも面識がない。
職員たちは食料提供の意思を表示されても「これはどうもどうも、毎度ありがとうございます。とにかく食べ物がなくて困っていたので、とても助かります」と、妙によそよそしい感謝しか述べない。
しかし、納入の段取りを話している際に職員のひとりがラムサスを見て驚く。
「ああ、あの時の御仁!」
どうやらここの連中は人物や団体を識別する記号としてリリーバーという名よりも構成員の顔に重きを置いているらしい。やっと我々のことを思い出してくれた。
本当に前に一度来た人間たちだと分かった途端、職員たちの態度が変わる。「やあやあ、その節はどうも。ハントはどんな具合でしたか。お怪我はありませんか」と要らない大人の挨拶から始まり、近況交換へ繋がっていく。
我々がリリーバーで、去年一度ここを訪れ寄付していて、ハントの成果が上々だったからまたお裾分けに来て、量が多いので食べられる容器で持ってこようと思っていて、多分ここの職員だけだと容器の処理は難しいからそれはこちらで行う心づもりがあって、前回代表役を担っていたルカは死去して今はクロアが代わりを務めていて……と、ここに来て最初に述べたことをまた全部イチから説明し直すハメになる。
二度手間を経て話をつけた我々は借家へ戻り、物を用意して再びナジェーヤへ向かう。
すると、そこに待ち構えていたのはナジェーヤ施設長ニカウだった。
ニカウは職員数名を伴ってナジェーヤの入り口に立ち、あのニタニタした笑みで我々を出迎えると、そのまま施設内に招き入れようとする。
物だけ置いて即トンズラしたいところだったが、ニカウの手駒たちが私の手足たちの脇へ素早く忍び寄っては、「ささ、中へどうぞ。ささ、遠慮なく。ささ、ささ」と強引に引っ張っていく。
ええい、寄るな。触れるな。
お前たちと接触すると外部寄生虫を貰うことになる。駆虫はあれで結構な手間だと知っての狼藉か。無礼者どもめ。
必殺『今日は予定があるので物だけ置いてお暇します』戦法は使えない。さっき段取りを決める時に食べられる容器の処理にまで言及したのは大失敗だった。私はナジェーヤに来ると見事に失敗しかしない。
荒んだ気持ちになりながらも、一刻も早くこの苦行を終わらせるべく手早く物を納入していく。そしてその横目で、運び込まれる食料に目を光らせる子供たちを眺めていると、ふと違和を感ずる。
栄養不足が祟って、どの子供も……いや、子供ばかりでなくニカウを含めて職員たちも皆、痩せている。典型的な栄養不足だ。ところが、その割に子供たちの魔力は減っていない。
ふと、カヤとシシュのことを思い出す。“因子”が悪さしていたにせよ、私が二人を支援すると決めた最終かつ最大の要因は魔力の多さだ。もし将来魔法使いを志ざせば比較的有望だろうと判断して援助した。
ナジェーヤの子供たちがあの二人に並ぶかと言われたら、断じてそこまで多くはないのだが、身体の痩せ細り方と魔力の痩せ方が正比例していない。一体これはどういうことだ。
疑問を覚えながらも納品を終え、生者としての任務を全うした食べられる容器を屠る。今日の料理は鍋だ。
肉に生まれ変わった容器の一部は保存用に回し、残りは全て下拵えの後、大火力で一気に調理していく。
鍋に火が通ったら急冷し、適温まで冷まして空腹の化身たちに振る舞う。
大鍋に溢れんばかりに作った料理が、あっという間にナジェーヤの空っぽの胃袋に吸い込まれていく。
一秒でも早く飢餓から脱出せんと貪り食う者たちを見ていて思う。
程度の重い飢餓がそれなりの期間続いた後、すぐに普通の食事を摂ると再栄養症候群をきたし、かなりの確率で死に至る。ゆえに飢餓から回復させるには相応の回復食を与える必要がある。
物凄く単純に言うと、飢えた者に穀物や果物由来の栄養をドカンと入れるな、ということだ。仮に粥を回復食とするならば、最初は白湯のように薄い粥を作って与え、徐々に徐々に濃くしていく。これが飢餓からの安全な回復法だ。
飢餓は世界にありふれた苦しみで、飢餓からの回復もまた数限りなく起こっている事象ではあるが、再栄養症候群の概念と適切な回復法を最初に提唱したのは治癒師、薬師ではなく軍学者とされている。
城や砦を落とす際、四方からの補給を徹底的に遮断して兵糧を払底させる、所謂兵糧攻めは昔から行われてきた。長い兵糧攻めの果てに降伏した敵軍は誰も彼も飢えて武人らしからぬ痩身になってしまっている。
それまで敵対していたとはいえ同じ人間、痩せた姿を哀れんで腹いっぱい食事を摂らせてやると、なぜか痩せた元敵兵たちがバタバタと倒れていく。
我が軍の指揮官は食事に毒を混ぜたのだろうか。あな、おそろしや……ではないのである。これこそ無知ゆえの悲劇、再栄養症候群が引き起こす不作為の死だ。
ナジェーヤの人間は飢えているとは言っても何やかんや口にしていただろうから、この鍋は“判定試験”終了直後のクローシェに食べさせた一番粥よりはずっと濃く作ってある。それでもやはり薄いものは薄い。食べる側からしてみれば味がする水のようなもの、量がどれだけ多かろうとも瞬時に蒸発して当然だ。
食事は瞬時に終了した。保存食作りもそれに一足か二足、遅れて完了した。我々の用は済んだ。あとは帰るだけだ。
どろんを決め込む直前になって今度はニカウが「少し話す時間をください」と我々を引き止める。
私はこの男が本当に苦手だ。
「ささ、今度はこちらへどうぞ。散らかっておりますので足元にお気をつけて。ささ、ささ」
ニカウ直属のささささ部隊が我々を応接室に連行する。
応接室と呼ぶには貧相な、しかしながら孤児院の一室としては不自然な、狭く閉ざされた一室に招かれた我々は卓を囲む。
ささささ隊員たちは退室し、ナジェーヤの人間としてただひとり卓についたニカウが変わらぬ笑みで語る。
曰く、ゴルティア軍が引き上げても国内情勢が全く落ち着かずに物価の上昇が著しい。食糧不足はかつてなく深刻だ。ワイルドハントの暴虐がそれに拍車を掛けている。大氾濫が収束してもなお魔物の処理が追いつかず、全国のハンターがフィールドに出ずっぱりだ。
国にとってもニカウにとっても重大な問題なのは間違いないが、我々からしてみれば寄せ場に流れる噂も同然で、どの話も時間を割いて耳を傾けるほどの価値がない。
「特別なご用件が無いようであれば、我々はそろそろ撤収しようと思います」
「やや。特別なお話を聞きたいと仰る」
さっさと本題に入れと言われてニカウの笑みが深くなる。
「では撤収前におひとつ……。クロアさん。あなたは何か趣味がありますか」
私の目線なら魔法関連の事象になるが、クローシェは解呪以外にあまり魔法を嗜まない。この場でやってみろとは言われないだろうが、魔法と答えるのは避けておくのが無難だ。
クローシェ目線で答えを選ぶなら世直しとか人助けになるだろう。だが、その回答もまた要らない嵐を呼びそうだ。
「ハントの日々を送る粗忽者ゆえ趣味と言えるものはこれと言ってありません。勿論、ハントが趣味でもありません」
「なるほど、そうでしたか。いえね、それを聞くのも実は僕には趣味がひとつありまして、それが高じて愛好会に所属しているんですよ。会と言っても公式に認可されているものではなく、好事家が集まっているだけの些細な寄り合いのようなものでして、まあ。ふふふ」
「して、何を愛好する会でしょう。詩ですか。絵ですか」
孤児院には各所に寄付を募って回る、企業で言うところの営業のような役回りを担当する者たちがいる。
ニカウはナジェーヤにおける営業部門の筆頭者だ。趣味がひとつ二つあったほうが時として営業活動に役立つだろう。
私はニカウが苦手だが、ナジェーヤが孤児を大切に扱っている点を考えると、ニカウは真っ当な人物なのだろうと思う。
悲しいかな、良識人ニカウはテベスに並ぶ物騒な人相をしているため、ここの職員たちはニカウの募金活動を指して『債権回収』と呼んでいる。
身内から影でからかわれていようとニカウはこの場所の管理者だ。長の席を与えられた人間は自分の製作物を恥ずかしげもなく職場に飾る傾向が見られる。けれども、ナジェーヤを見回してもニカウ作と思しき詩歌や絵は見当たらない。ニカウの趣味は詩吟でも図画でもないと私は予想する。
「ふふふ。職員の誰も知らないことです。今日は特別な気分なので、特別に打ち明けようと思います。くれぐれも、びっくりしないようお願いします」
職員たちを伴っていたときとは違う異様な雰囲気がニカウから醸し出され、場を包み込んでいく。
「その愛好会は一種独特でして多様なことを手掛けているのですが、本質的な意味ではたったひとつのことしかやっていないとも言えます。漠然とした説明で申し訳ありませんね。もう少し具体的に申し上げますと、実はとある方を讃えております。そんなわけで僕らは会やそこに属している人間を包括して信奉者と呼んでいまして、ええ。洒落ているでしょう」
何の話をするかと思えば、カルト行為の告白とは……。曖昧に相槌を打っていると勧誘が始まってしまう。さっさとこのくだらん時間を終わらせよう。
「確かに特別ですね。特別すぎて人を選びます。我々はまるで興味が持てません」
「いえ、あなた方は絶対に興味があります。絶対です」
ニカウの口角が吊り上がり、断定的な口調と共に圧迫をかけて、離席しようとする我々の機先を制する。
もしこいつがカードに興じて上がり札を引いたら、おそらくはこんな顔で笑うのだろう。
対応がちょっと面倒なだけの、子供が好きな施設長かと思いきや、とんだ食わせ物だ。こいつが我々の何を知っていると言う。
ロギシーンを発ってからの日数を考えると少々無理がある気もするが、ひょっとしてこいつが『ムルーシュ』あるいは『その者』だろうか。
その場合、とある方はアッシュやスターシャを指している。
勿論ただの鎌かけの可能性も否定できない。うっかり余計なことを口走らぬよう注意せねば。
「あなた方を見ていると私はつい昔を思い出してしまいます。以前はね、この施設に通って支援してくれた人がいたんですよ」
国からは施設を運営していくための各種補助が出ている。ニカウたちが営業活動に勤しんでいる理由は補助だけだと到底足りないからだ。
金銭的な不足分は民間の企業に充当を求め、手が足りない分は個人に求める。こういう慈善活動に興味を持って取り組む人間はどこにでもいるから、頼まれるなり自発的にくるなりして不特定多数がナジェーヤに出入りしていたはずだ。
深読みせず普通に考えれば、ニカウの言葉は『有事前は協賛者も協賛企業も多かったが、今となっては減ってしまった』という意味だ。
しかし、そういう一般的な話ではなく、ある特定の個人を指しているようにも聞こえてしまうのは私が“真実探し”に陥りかけているからだろうか。
「その方は、ふふふ。名をアルバート・ネイゲルと言います」
ニカウの口から出てきた古い私の名前が心臓をぎゅうとキツく絞め上げる。
いきなり何を言い出す。こいつは、私の正体に気付いている?
いや、まさか。支援を申し出た民間人ということで過去の私と我々をたまたま重ね合わせただけだ。
こんな簡単に揺さぶられてどうする。落ち着け。落ち着いて冷静に答えろ。
「たとえ支援の事実が存在したとしても、そこで重罪人の名前を軽率に挙げるのは考えものです。特にあなたはここの責任者なのです。過去の事といえどもそういう危険な話の相手は慎重に選ぶべきだと思います」
「もちろん特別な相手にしかこういう話はしません。言ったでしょう。職員の誰も知らないと」
ニカウは何を言っている。職員に言っていないのはこいつが傾倒しているカルト趣味の話であって、思い出のことでは……。
待てよ。もしかしすると……いや、もしかするとどころではない。間違いない。こいつは……。
「信奉者とはアルバート君に強い感銘を受けた人間の集まりです」
……こいつは何らかの情報系能力を持っている!
そうでなければ我々にこんな危険な発言はしない。
ニカウは我々と初対面、それでこれだけ踏み込めるのは情報系能力があるからに他ならない。
気付かなかった。思いもよらなかった。
まさかこんな世界の表通りとも裏通りともつかない場所に平然と情報系能力者がいるとは……。
職員たちがニカウの募金活動を『債権回収』と呼んでいるのは、ただの冗談ではない可能性が俄に浮上した。
魔力だけならニカウは一般人だが、情報系能力があるなら『債権回収』できるのも頷ける。あるいは情報系能力とは全く別個に『取り立て屋』としての能力があるのかもしれない。
情報系能力と取り立て能力……。相性が良い。その二つは取り立て屋として動くにあたり実に相性が良い。
「重罪人を賛美するばかりでなく、その危険な思想を初対面の相手に鼓吹するとは穏やかではありません。我々が他言しないとお思いですか」
語るに落ちぬよう細心の注意を払いながらニカウを牽制し、ラムサスの反応を窺う。ところがラムサスはこれといって合図を寄越さない。
もしニカウが悪意をもって我々に相対しているのであれば必ず小妖精が感知する。それなのにラムサスに動きがないのは一体……。
小妖精はニカウの語りにいくらか反応していた。ラムサスは小妖精から何らかの情報を得たはずだ。
情報の解釈に迷っているのか。それとも解釈は済んでいるが、ニカウの能力を警戒して合図を出しあぐねているのか。
情報魔法使いが頼れないのなら全て自分で考えるしかない。
魔法か、はたまた魔道具か。ニカウは能力をいつから使っていた。大学時代の私からも情報を読み取っていたのか。我々についてどこまで知っている。今もまさに読み取っている最中なのか。
「思っていますよ。あなた方は絶対に他言しません」
「何を根拠に――」
「こうやって今もここで施設長をやっている。それが僕の示せる最大の根拠です」
つまりニカウは信奉者に人員を新しく加える際、毎度こういう手口を使っている。
食わせ者どころではない。選り抜きの中の選り抜き、第一級の危険人物だ。
「我々にこの話を持ちかけた理由はなんです」
「おかしなことをお聞きになる。特別な話を欲したのはあなた方で、僕はナジェーヤを支援してくださる奇特な方の求めに快く応じたまでです」
戯けた回答だ。もう少しこちらから踏み込んで質問してみるのもひとつの手ではあるが、『問う』ということは、その事象についてこちらが『知らない』あるいは『確信が持てない』と白状しているにちかい。
せめてニカウの情報能力がどういうものか分かれば対応をもう少し考えられるものを、せめてラムサスから合図のひとつもないことには完全に手探りだ。
情報系能力者の相手がこれほどまでにしんどいとはな……。何事も自分でやってみないと難しさが分からないものだ。
「なるほど、我々が煽ったと仰る。では、当方の不用意な発言について謝罪のうえ撤回します」
「謝罪は必要ありません。僕も少し意地悪が過ぎました。そこでお詫びの印にあなた方に喜んでもらえるお話をひとつしてあげましょう」
「それはナジェーヤの施設長として、でしょうか」
「勿論、信奉者として、です」
正直、話の続きを聞いてみたい気持ちはある。傀儡を走らせたかぎりでは、ナジェーヤのどこにも不審な動きはない。職員は誰も応接室の中でこんな危うい遣り取りが繰り広げられていると思っていない。ニカウはおそらく悪意があってこういう話を我々にしているのではない。
それでも、ここは退くべきだ。仮に話を聞くとしても一旦仕切り直し、状況を整理して対策を練ってからが望ましい。それも、小妖精ソボフトゥルを使って情報の優位を確保してからだとなお良い。
「では遠慮しておきます。今日は突然の訪問にもかかわらず丁寧にご対応いただきありがとうございました」
「ふふふ。そうですか。またいらっしゃってください。希望を繋ぐには愛の持続が何よりも大切です。愛を分け与えてくださるあなた方の再訪を僕たちはいつでも歓迎いたします」
ニカウは椅子から立って扉を開け、ナジェーヤの入り口まで先導する。
我々全員がナジェーヤから出てもニカウはすぐに屋内に戻らず、こちらの姿が見えなくなるまで見送るのだった。あのニタニタとした笑みを浮かべながら。
◇◇
緊張から解放された身を強い疲労感が襲う。苦手なナジェーヤ探訪には一定の覚悟がいるが、ここまで疲れる覚悟はしていなかった。
ニカウも調べないとな……。調査すべき事象が次から次に増えていく。
はあ……。
ニカウの優先度をどれくらいに設定したものやら。
「そんなに疲れた?」
精神疲労に参っている私とは対称的に、ラムサスは全く平気な様子でいる。
「恥ずかしながらかなり。あなたがどうしてそんなに普通にしていられるのか不思議でなりません」
「横で話を聞いてただけだもの」
そんなバカな!
衝撃的な発言が私の身体の中でガンガンと反響し、昼の天に眩い星を空見させる。
ラムサスなりの強がりなのかと思って表情をもう一度よく確かめてみるものの、何かしらの含みがあるようには見受けられない。
これはどういうことだ。なぜここまで温度差がある。私とラムサスが同じ空間で同じ話を聞いていたとは思えん。
「もしかしたらこの質問はあなたを怒らせてしまうかもしれませんが、とても大切なので聞いておきます。あなたは私とあの人間の話に思考を傾け、内容を理解していましたか。聞くには聞いていたけれど、途中、ぼんやりしてあまり覚えていないとか――」
「ずっと集中して聞いていた。ぼんやりも、うとうともしていない。なんなら、お好きな場面を再現してあげよっか?」
「……」
当惑して私が返事できずにいると、それを無言の肯定と受け取ったラムサスは勝手にモノマネを始める。
「あなた方は絶対に興味があります。絶対です」
「確かに言っていましたね……。なるほど、分かりました。もう再現は結構です」
次の再現劇を既に用意していたのだろう。ラムサスは少しがっかりした様子で居住まいを正すと、『どう? 結構似てたでしょ』と目で訴え始める。ラムサスお得意の露骨な褒められ待ちだ。
まるで本物のようだ、とまでは言えないが、押さえるべき特徴をしっかり押さえた伝わりやすいモノマネだった。
ただ、私としては真似の巧みさよりも、おそらくは先程の会話を全て再現できるであろうラムサスの驚くべき記憶力を高く評価したい。
「あなたは人に絡んだ話を本当に良く覚えます」
「うん? ううん……」
彼女のご期待に存分に応えられたつもりだったが、どうやら私の称賛はあまり響かなかったらしい。反応がイマイチだ。
いつもながら褒められ方へのこだわりがすこぶる強い。
「やや。気を悪くしましたか」
「何を言う。私は怒っていない。怒る理由がない」
女がひどく腹を立てているのに『怒っていない』と意味なくバレバレの嘘をつくのは万国共通だな。
「話を元に戻そう。あなたが施設長を苦手としているのはあなた本人に教えてもらったから私も知っている。でも、私としてはもう少し我慢して話を聞いてもよかったと思う」
「なるほど。言い訳ではないですが、私が話を切り上げたのはニカウが苦手だからではなく、圧倒的に形勢不利だったからです。仮に続きを聞くにしても一旦退き、周辺情報を集めるなりあなたの見解を確かめるなりして、それ相応の態勢を整えてから改めて対峙すべきだと思いました」
「いくらなんでも大げさすぎる。苦手と言っても限度がある」
「……」
温度差を無くすべく腹の中を見せ合えば見せ合うほど混乱に拍車が掛かっていく。
おかしい。どうしてここまで話が食い違う。
こうなったら最初から総ざらいだ。そうでもしないと、いつまで経っても認識の溝は埋まらない。溝が生じた原因も突き止められない。
私は恥を忍び、食料を持ってナジェーヤに着いたところから感想戦を行うよう、それも、できるだけ言葉を選ばずに思ったままを話すよう、ラムサスに頼む。
ラムサスは釈然としない顔となるも文句は言わず、土産を持ってナジェーヤに訪問する場面を振り返る。
曰く、寄進に訪れた私たちを出迎えた男を見た瞬間にピンとくるものがある。
清潔感に欠けた髭をモサモサと蓄える悪相のこの男こそ、小児観察アンデッドの忌避するナジェーヤ施設長に違いない。
そう思って見てみると、何か企んでいそうな笑みはどこかの誰かに通ずるものがある。
ははーん。つまりこれは所謂同族嫌悪の一種らしい。
責任者の存在は絶大で、士気の高まった職員たちが巧みな連携で私たちを施設内へ誘う。上役の監視があると仕事に身が入る職場原則は養護の場でも当てはまる模様だ。
一刻も早く子供たちの腹を満たして、その場から退散したいアンデッドは食べられる容器の即、鍋化を選択する。
煮ても焼いても食えないアンデッドのくせに実は煮るのも焼くのも大得意だ。鍋はすぐに出来上がり、そして瞬く間に消滅する。
迅速に任務を完了させて、そそくさと帰ろうとするアンデッドを、そうはさせじと施設長が捕まえる。
本音では調理も食事も差し置いて対話に持ち込みたかった施設長、さすがにそこは客人たるアンデッドの意向を尊重し、また子供たちの空腹を考慮して自重した。
そして時は来たれり。束縛が無くなり施設長が欲求を解き放つ。
用を済ませたアンデッドが帰りたがっていると施設長は分かっている。しかし、空気を読む気はサラサラ無い。だから予定が控えていないかどうかは敢えて尋ねない。応接室に連れ込んでしまえばそれで施設長の勝ちだ。
施設長は部下に命じ、アンデッドたちの身柄を確保させる。
首尾よくアンデッドを応接室に連行し、見事、勝利を手にした施設長は、先ずは挨拶代わりに世間話から入る。ここからアンデッドの好感度を爆上げする算段だ。
ところがアンデッドは堪え性がない。『世間話つまんなーい。楽しい話してくんなきゃ今日はもう帰るもん!』の意向をきっぱりと示す。
帰りたいと言われて帰してしまっては施設長の名折れ、孤児の世話など到底できない。ここからが腕の見せ所だ。
手の出し惜しみはしない。これまでに施設を協賛してくれた個人の中で最も社会的な影響力が大きく、かつ施設長が最も感銘を受けた人物、アルバート・ネイゲルの名をぶつける。
アルバート・ネイゲルは公式には大罪人とされているが、実態は異なる。
変わり者なのは言わずと知れている。ところが、どこがどう変わっているのか正しく理解している者は少ない。
まず積極的に嘘はつかない。それでいて全然素直ではない。よく回る口は、実は空回りばかりしていて、感情を正しく出すのがビックリするほど下手なのだ。
突飛極まる上辺に騙されずに根気強く付き合わないと、奥にある誠実な部分や人を愛する心が見えてこない。とても興味深い存在だ。
変わっているのは当然で、何しろその者はヒトならざるものが混じった混合体だ。しかし、さすがの施設長といえどもどうやらそこまでは見抜けていない。
マディオフ謹製の混合体は、聞いて驚け見て笑え、なんとマディオフ禁制のアンデッドを原材料に含んでいる。
混合体と分かってしまえば、度重なる奇行の真相がほうら見えてくる。
混合体にとっての常識はヒトの世界の非常識、当人にその気がなくとも生きているだけ、歩いているだけで悪目立ちする。しかもこの歩く非常識、半分アンデッドとは思えないほど無駄に行動的だ。
ある者は迷惑をかけられて混合体を嫌うだろう。ある者は奇想天外に衝撃を受けて混合体に強い関心を抱くだろう。
幸か不幸か施設長は後者だった。好奇心を昂ぶらせるあまり、同好の士を探すようになった。同士探しをいつ始めたのか定かではないが、おそらくはアルバート・ネイゲルが裁かれる前に始まったものと思われる。
探してみれば好き者は案外いるもので、仲間がドンドン増えていき、ついには愛好会、信奉者を結成するに至った。
裁きの前は人目を憚らずに愛好会で混合体談義に華を咲かせることができたが、裁きの後となるとそうもいかない。
信奉者は活動場所を地下に移した。その後、混合体が姿を隠したこともあり、愛好会の活動は下火になってしまった。
そうこうしているうちにマディオフを有事が襲う。次から次に襲いくる試練のせいでマディオフには一向に平穏が訪れない。ナジェーヤの運営状況も子供たちの栄養状態も悪化の一途を辿っている。
そこに颯爽と現れたるはワーカーパーティー、リリーバーだ。
リリーバーの初回訪問時に施設長は不在だったが、必要としている物だけ置いてさっと立ち去るその潔さは某混合体を彷彿とさせる。職員たちから報告を受けた施設長の心にリリーバーの情報は深く刻まれた。
そして本日、一年ぶりにリリーバーがナジェーヤを訪れた。代表人物のルカはいないが、そもそも施設長はルカに会っていないから、そこに引っかかりは覚えない。
大事なのは今、施設長に応対する現任のリリーバー代表者クロアだ。
クロアとの短い遣り取りの中で施設長が見出したるは、やはりあの混合体と同じ輝きだ。施設長は郷愁に誘われる。
施設長にとってリリーバーは恩義ある大切な相手で、自分の好きなものを大切な相手にも好きになってもらいたいと思うのはどこも不自然ではない、当然の心理だ。
クロアらリリーバーの面々にも絶対に好きになってもらえると確信にちかい思いで混合体の話をぶつけると、それ見たことか、クロアは動揺を隠せずにいる。
混合体に大罪人という肩書きがある手前、クロアもそうすぐには施設長に同調しないし、できない。それは施設長も承知している。
施設長はクロアに心の仮面を外させるための二の手、三の手を秘めている。
しかしながら、称賛というものは、褒められる本人からしてみるとむず痒くこそばゆいものだ。
施設長に懐からちらりと二の手を見せられて我慢の限界を超えたアンデッドは堪らず応接室から逃げ出した。
施設長は引き止めたい気持ちを抑え、リリーバーを解放する。なぜなら施設長には確信がある。『この者たちは、そう日を置かずにまたここへ来る』と。
久しぶりに新会員が加入しそうな手応えを得られた施設長は髭もっさりの顔をくしゃくしゃにしてリリーバーを見送った。
ラムサスはふんすーと長く鼻息を吐いて感想戦の完了を告げる。
そうか。終わったのか。そうか……。そうか……。
……。
ラムサスの世界の見え方、おかしくない?
絶対におかしい。とんでもなくおかしい。特に私の見え方がおかしい。
私は確かに思ったままを喋れと言った。しかし、私の悪口を喋れとは言っていない。それなのに今の感想戦は私の悪口が三割くらいを占めている。いや、半分くらいは悪口かもしれない。
言ってやりたいことはまんとある。ある……が、ここは我慢だ。
感情を暴発させるな。本当に言うべきことだけを言え。
怒りの声を背中で思いきり強く感情封印庫に押し込み、最も重要な質問ひとつだけを選んで抜き出す。
「情報魔法は……ニカウは情報魔法を使っていませんでしたか?」
「そう言われても、私たちも施設長もずっとお互いを知ろうとしていた。言語を介した情報収集と魔法や魔道具を介した情報収集の厳密な区別はつかない。そこに敵対的意識があればまた話は違うけれども、悪意ある情報窃取企図が一度も無かったのは断言できる」
「カルトに走った人間は悪意のないところが悪質とも言えます」
「それは一見、真理のようでいて、施設長に関しては当を得ていない意見だと思う。あなたは施設長の発言を悪く捉えすぎている。苦手意識が生んだ偏見、幻想」
ラムサスは私の見方こそが“真実探し”に染まった、囚われたものだと主張する。
本当か?
ニカウは本当に情報系能力者ではないのか?
私と情報魔法使いの意見や見解が対立する場合は大抵、私が間違っている。しかし、ラムサスの正解を選び取る力が高まるのは重要度の高い局面に限られ、それ以外だと劇的に正解力が落ちる。
実際のところ、ニカウにはどれほどの重要性がある。私にとっては……とりわけ私の中の人としての部分にとっては相当な曲者だが、ラムサスにとってはあまり重要ではない。
ニカウ側の視点に立って物事を見つめ直してみると、ラムサスは愛好会の優良会員になれる素質を秘めている。ラムサスは私の悪口が大好きだからな。会の活動を大いに盛り上げてくれるだろう。
つまり、まさか……。応接室でニカウは己と話すクローシェではなく、終始沈黙を守っていたラムサスの会員適性を情報系能力で見抜き、ラムサスを勧誘していたというのか。
いやいや、冷静になれ。それこそ思いきり“真実探し”だ。
ニカウの目論見がなんにせよ、少なくともこちらの破滅を狙ってはいない。
性急に判断せず、時間を置いて評価を定めたほうが良いかもしれない。
「……分かりました。サナの意見に手放しに同意するとまではいきませんが、そういう捉え方もできると認めましょう」
「苦手な人をすぐに理解できるとは私も思っていない。今はそれでいい。でも、ひとつ聞いておく。次はいつあそこに行こうと思っている」
「あなたの主張が全面的に正しいのであれば、我々から積極的に関わっていく旨味が乏しいように思います」
「たとえ旨味が無かったとしても、早いうちに『喜んでもらえる話』の中身を知ってしまえば、ノエルが不要に負っている肩の荷がひとつ降りる。そうしたら私たちは本来の目標に集中しやすくなる」
私とラムサス、二人のいずれの解釈においてもニカウは我々の正体を完全には突き止めていない。我々への害意もない。けれども、悪意ないままに我々の将来の敵を生み出してしまう可能性は無視できないくらい大きい。
早めに調査して、危険度が高いと確信できたら、早急に処理するのも手かもしれない。
「あの人間の能力者疑惑は今も晴れていません。いきなり本人を直接調べるのはやや渡るに危うい橋と思いますので、ここは本人ではなく、他の信奉者を探し当て、その人物を調べて安心材料が得られてからにしたいと思います」
「それなら早速――」
「いえ、今日は大至急やるべきことがあります」
至急の用に思い当たりのないラムサスはきょとんとした顔で所在なく腕を掻く。
「サナ。今あなた、身体を掻きましたよね」
「え? うん、掻いた」
「そこ。掻いて満足して、それで大丈夫だと思いますか。よく見ておいたほうが良いのではありませんか」
指摘の意味を察したラムサスは大急ぎで装着物を外し、己の腕にあってはならないものを見つけて我々が置かれた状況を理解する。
「しばらく借家には帰りません。家まで汚染されてしまっては事です。これから緊急駆虫を行います。迅速にやれば、卵を産み付けられる前に終わり、駆虫は一回で済むかもしれません」
「でも、また行けば、また伝染る。どうせ伝染るなら、いっそ――」
「次はそれなりの策を講じる所存です。職員からそれなりの信頼を獲得したので、多分反対はされないはずです。それでも、今度行くときは連続して何度も行く覚悟を決めておいたほうが賢明でしょう」
ないとは思うが、ニカウの話が本当に我々にとって興味を引くもので、なおかつ一度で話が終わらなければ、必然ナジェーヤに何度か通うことになる。その度、ノミだのトコジラミだの外部寄生虫を貰ってもつまらない。
ナジェーヤから寄生虫を一掃しようと思ったら、子供から職員から建物から全てを処理しなければならない。場合によっては処理範囲を職員の自宅や家族にまで拡大する必要すらある。
「いずれにしても準備が要るので次回の訪問は少し先です。勿論、提供した食料が底を突く前には行こうと思います。どうです。これなら納得いただけますか」
日頃フィールドで虫に刺され慣れているラムサスでも寄生虫がいると分かっている場所へ無防備に飛び込みたくはないらしく、コクコクと素直に頷いた。




