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第一一話 十三歳の進路相談

 修練場に通うようになり数年が過ぎた。


 女のほうが身体の成長が早いこともあり、私とリディアはほとんど変わらない背丈になっていた。対戦成績は、最近では専ら五分であった。とにかく攻めて攻めて攻めまくるリディアから私がカウンターを取れるかどうか、という戦いだ。


 昔のように、完全にパリィが決まる、ということは無くなり、カウンターどころか、攻めに押し切られる状況もままあった。


 私が一歳年上だから勝負になっているものの、もし同い年だったら、今では歯が立たなくなっていただろう。


 カールとの槍の稽古では、私の実力がカールに近付きつつあったため、しばらく前から身体強化魔法の程度を落とすようになり、今では全く魔法をかけずに稽古に臨むようになっている。


 素の状態だと、私よりカールのほうがまだまだ強く、訓練の相手として適当である。


 修練場で剣を修める副産物か、カールの槍は少しずつ強くなっていた。


 カールもその自覚があるようで、「アール様のお相手を務めることで、お屋敷に勤め始めた頃よりも強くなることができました」と、謙遜がちに成長の感想を述べていた。


 母から稽古を受けているエルザの打棍といえば、確かに成長はしているが、私の槍術とどっこいどっこい、といったところだ。


 リディアはエルザよりも一歳年上。年齢補正のために一年前のリディアを思い出し、そのリディアと今のエルザを私の想像の中で戦わせてみる。


 すると、何度シミュレーションしてもリディアが完膚なきまでに勝ってしまう。打棍の筋が良いはずのエルザでも、剣の天才のリディアには勝てない。


 ただ、エルザの魔力の伸びは思ったとおり素晴らしい。将来的には打棍で戦うより魔法で戦ったほうが強くなれるだろう。それくらい豊富な魔力を蓄えている。


 今のところ私の魔力はエルザよりも多い。ただ、見える魔力を数値化して同い年に換算したら、エルザは私よりも優れているように思う。


 武芸はまずまず、魔力は抜群、かわいさは世界一。兄は妹が羨ましい。


 とはいえ、反則的に優秀過ぎるエルザに現時点で抜かれていないのだから、私の魔力の成長速度も捨てたものではない。


 幼少期と比べ、今の私は非常に魔力の伸びが良い。身体も魔力も、成長期、というのがあるのだろう。


 そんな伸び盛りの私の前に立ちはだかるのが“進路”という名の壁だ。


 十四歳を迎える年、それは専門への道が開ける年だ。


 私の住むこのアーチボルクでは、学校を早期卒業し、教会付属の信学校へ進む者が多い。


 教会だけでなく、鍛冶でも錬金でも、専門を学び始めるのがこの年だ。そして同時に、魔力循環以外の魔法が解禁となる年齢でもある。


 そもそも魔法を教えることに年齢制限がある、などという話は最近まで忘れていた。そういえば学校で魔力循環を習い始めたばかりの頃に教師がそんなことを言っていたような気もするけれど、よく覚えていない。


 私が年齢制限のことを思い出したのは、エルザが私の進路のことを聞いてきたのが切っ掛けだ。会話の中で年齢制限の話が飛び出し、それでようやく私はそのことを思い出した。


 思い出した、と言っても現世ではなく前世の記憶かもしれない。少なくとも、私は家の誰からも魔法の年齢制限を教えられた記憶がない。母は私の教育に興味を示さないし、父は本を買ってくれるだけだ。それも魔法書以外の本を、だ。


 親の教育が悪いよ、親の教育が。


 解禁年齢前の子供の魔法使用が世間に露呈すると、その子供が自然習得した場合を除き、魔法を教えた者に罰則があるらしい。


 私の場合はギリギリ自然習得の範疇だろう。しかし、あらぬ疑いをかけられて余計な火の粉を被ることはない。修練場で魔法を使わなかったのは、図らずとも賢い選択だったといえる。


 カールは私が魔法を使っていることに気づいているはずなのに、今まで何も言ってくれることはなかった。「身内のもの以外の前で魔法を披露してはいけません」くらいは教えてくれてもいいように思う。


 新しい進路を選ばずとも、このまま十六歳を迎える年齢まで学校に残るということもできる。ただ、それは私にとって意味がない。


 授業時間の退屈さを持て余した私は、学校の色々な所にハエやネズミを派遣している。おかげで、全ての学年の授業を複数回聞いてしまったため、(そら)んじられるレベルで覚えている。このまま学校の授業を受け続けても、新しい知見は得られない。


 できれば学校は早期卒業し、魔法について学びたいところである。


 では、どこで魔法を学ぶのがよいか。鍛冶にしても錬金にしても、その分野に特化した魔法しか扱わない。魔法を幅広く学びたい、魔法を極めたい、と思ったら、大学に行って魔法を専攻するのが最も効率的だろう。


 だが、十四歳から大学に入れるかというと、残念ながらそれが無理なのだ。


 大学入学要件のひとつに、徴兵期間の満了、というものがある。徴兵は十六歳から二十四歳までの間で、任意の連続した二年を選ぶことができる。任意とは言っても、よほどの事情が無い限り半強制的に十六歳から十八歳の二年が徴兵期間となる。


 徴兵まではまだ二年間あるから、必然的に大学へは行けない。大学入学は早くても十八歳以降だ。徴兵従軍期間にも魔法の訓練はあるものの、正式に入軍した正規軍人とは違い、徴兵での従軍では大した魔法を習得できない。


 このまま手を(こまぬ)いていると、せっかく魔法が解禁となる十四歳から、徴兵が始まる十六歳までが空白の二年になってしまう。この期間、私の場合魔法をどうやって修めたらよいか。


 最高なのは父から教えてもらうことだ。なにせ父ウリトラスはマディオフ軍の筆頭魔法使いだ。これほどの手本は他にない。しかし、父が家にいることは殆どないから望み薄である。


 在宅の母からも魔法を教えてもらえるとは思えない。仮に教えてもらえたとしても、紅炎教の修道士であった母からであれば、その内容はアンデッド討伐の聖魔法が関の山だ。紅炎教は回復魔法をそこまで得意とする宗派ではないし、母が回復魔法をよく修めているようにも思えない。


 アンデッド討伐は国全体から見ると重要な事項である。とはいえ、そのためだけの魔法を私が習うことには何ら魅力を感じない。攻撃魔法であれば、アンデッド以外の魔物にも対人にも使えるような魔法が良い。


 では、私のために両親が教師を雇うなど、わざわざ教育の機会を与えてくれるだろうか。エルザではないのだから、それはあまりにも楽観的な観測に過ぎると言わざるをえない。


 教えてもらえないならばどうするか。


 そう。自分で練習するしかない。


 そもそも誰に教えてもらわずとも私は既に魔法を使えるのだ。あれもこれも、と新しい魔法に目移り手出しせずに、既に習得している魔法を突き詰めていけばよい。


 現世では、ドミネートと身体強化魔法しか使ったことはないが、それ以外にも知っている魔法はいくつもあると思う。


 実際に使う場面にならないと、何を使えるかまではイメージが湧かない。少なくとも火属性の攻撃魔法、ファイアボルトは撃てるはずだ。


 ファイアボルトのことだけ覚えている理由は、それが前世で最後に使用した攻撃魔法だったからのように思う。


 両親に期待できない現状で、どこでどうやって魔法を練習するか。当ては一応ある。まずは両親の了承を得なければならない。私の申し出に両親がどう出るかが不安だが、話してみないことには始まらない。


 私は、父が帰ってくる日を待つこととした。




    ◇◇    




 私の住む国マディオフは、対する東の国ゼトラケインとの戦争で優秀な戦果を収めているらしい。長い年月をかけて戦線はゼトラケイン奥深くまで押し進められるに至っていた。それは国民として喜ばしいことなのかもしれないが、軍人である父は、昔以上に家を空ける期間が長くなっていた。


 久しぶりに帰ってきた父は、広間で長い時間母と会話をしていた。より正確に言うと、父は母の話を一方的に聞かされていた。終わりの見えない母の会話がようやく一段落ついたところで、待っていました、とばかりに私は話題を切り出す。


「お父様、お母様、お話中失礼します。相談したいことがあります」


 はた目からは、父に聞き疲れの表情が見えていたため、申し訳なく思って話し掛けたのだが、私に話し掛けられた父は「よくぞ話を切り出してくれた」とでも言わんばかりの、分かりやすい安堵の表情を浮かべていた。


「やあ、アール。相談事というのは一体何だい?」


 私が思うに、相談事というのは一般的に大事な、真剣な内容であるはずだ。ニコニコと笑顔を浮かべてする類の話ではない。


 父の口角は少し上がっていて、嬉しさが垣間見える。きっと、息子から相談され、頼ってもらえることを喜んでいるのだろう。


 オチが無く、終わりの見えない母との会話にうんざりし、そこから逃れられることに喜びを隠しきれなくなったのでは決してない。


 そう思おうとするのだが、私のほうも少し口角が上がってしまっていたかもしれない。


 視界の端の母が少し不機嫌になったような気がする。これから話す内容を考えると、母の機嫌を損ねるのは非常にまずい。


 意識を母から父に戻すと、父は今まで見たことがないほどのいい笑顔で笑っている。表情豊かとはいえない人間が、なぜこの大事な機にその笑顔を披露する。私を笑わせるためにわざとやっているのではあるまいな。


 何でもいい。今すぐその顔を止めてくれ。


 心の中で切実に願ったところで父の表情が変わるはずもない。父はいつの間にか満面の笑みになっている。


 ウリトラスは本気だ。本気で私を笑わせにきている。


 負けてたまるか。私は、私だけは笑ってはいけない。絶対にだ。


「私の進路についてです。私は来年十四歳になります。お父様は私の今後の進路について、お考えがありますでしょうか」


 表情筋の不用な収縮を抑えることは何とかできたものの、腹筋だけはどうやっても無理で、私の声は震えに震えた。


 私の苦辛を知らずに聞いている両親には、いい具合に緊張しているっぽく聞こえたはずだ。二人に私の喋り方を怪しむ様子は見られない。


 さて、返事はどうでるか。


「おっ、アールももうそんな年齢か。早いものだな。でも、徴兵がある十六歳までは学校に行くんだろ?」


 父は満面の笑みのまま、母の方を見て同意を求めた。


 母は父を一瞥すらせず、視線を私に固定したまま沈黙を貫いている。そんな母を見て父の顔から一瞬にして笑顔が消える。


 少しだけ父が不便(ふびん)になった。


 母の無言は肯定を意味しているのだろうか。


 何でもいいから喋ってもらわないことには、こちらとしても話の持っていき方に苦慮する。


 母に同調して私まで緘黙(かんもく)しても話は前に進まない。不気味に黙る母に怯えつつ、私は前もって用意していた文言のうちのひとつを二人の前に並べる。


「学校は確かにあと二年ありますが、実は自主的に先取り学習をして二年先の授業まで学び終えています。これから二年を無為に過ごしたくはありません」


 母の表情がわずかに動く。私の言っていることを疑っているのかもしれない。二年先の内容を知っているのは事実でも、言い回しとして、『二年先の授業を受けた』とは表現しにくい。授業を聞いていたのは私ではなく傀儡なのだから。


 そのあたりを追及されないか肝を冷やしたものの、特に両親から疑義が入ることはなかった。二人とも、私の次の言葉を待っている。


 私は今日の話題の核を告げる。


「そこで、自己研鑽になり収入も得ることができる日雇い労働者、ワーカーとして働きたいと思います」


 父は、少し驚いたような表情を浮かべる。驚きの中に、叱責の意思とか否定の感情といったものが浮かんでいるようには見えない。私のワーカー志望宣言から少し間を置き、父が躊躇(ためら)いがちに口を開く。


「アールはど――」

「たかだか十四歳になろうというだけの人間が、何かできる、だなんて思い上がったことですね」


 父の発言を遮り、母は眉間にシワを寄せて冷たく言い放った。気分を害しているのは明白だった。ここから巻き返さなければならないとは骨が折れる。


 父はどうだろうか。父からは驚きの表情が消え、またしても無表情になっている。


 ……よく見ると無表情ではない。これは諦観の表情だ。私ではなく、母に対する諦めの境地。


 父の顔芸を見せられても、もう笑う気にはなれない。父の苦労を少しだけ理解できたような気がした。


 先ほどの表情から察するに、父は困惑こそしていても、明確に反対ではないように思う。雰囲気に気圧されて、父が母の側に流されないように、この場を上手くコントロールしなければならない。


「十四歳は専門への道が開ける年齢です。何をできずとも、何かができるようになるために行動を開始するのに早すぎる歳ではないと思います」

「だが、ワーカーは特別に技術やスキルでもない限り肉体労働が中心だ。収入は少なく、危険を伴うことだって多い。危険ってのは仕事内容だけじゃない。周りの人間だって十分危険だ。未熟なお前に悪事を企む輩なんていくらだっている」


 無表情の父はだんまりを決め込まず、至極真っ当な意見を出してくれた。こんな真面(まとも)にものを考えられるのなら、家庭内でも普段からもう少しその一端を示してほしい。本を買ってくるだけではなく。


 子供である私に言われる前に、進路の話を切り出すくらいの父性を見せてくれてもいいのではなかろうか。


 とはいえ予想よりも正統的(オーソドックス)な意見を返してくれたことは私にとって追い風だ。対応がしやすい。


「それについては考えがあります。お父様、私に投資していただけませんか?」

「投資? それとワーカーとどう繋がるんだ?」


 父だけでなく、母の表情にも幾ばくかの変化が見える。


 よし、二人とも興味を示した。


「ワーカーとして働くにあたって最大の問題は、私が社会経験の無い子供だということです。その問題を取り払うために、私と行動を共にする大人を雇います。パートナーとして、二人一組で仕事にあたれば、子供だからこそ生じる障害の多くは取り払われるはずです。お父様に投資いただければ、まずは仕事始めの支度金と、このパートナーを雇い入れる初期費用に充てます。そしてワーカーとして得た収入は、初めのうちはパートナーの継続雇用に充て、余裕が出てきたらお父様から預かった初期投資分の償還に回します。如何でしょうか」

「そう上手くいくとは思えない。そもそもまず、大人のパートナーを雇い入れる当てだってないだろう?」

「それについては、カールをお借りしたいと思います。カールであればお互い力量を把握していますので、仕事が円滑にこなせます。また、カールをお借りする場合、家に警備員を新たに雇い入れる必要が出てきます。そちらの費用の話をするならば、私が支払う人件費がお父様に入りますので、それを新しい人材に充てていただくという案もあります。お父様やお母様であれば、私が人材を探すのに比べて、伝手には困らないものと考えました」


 自分で言うのもなんだが、進路相談というよりも商談を持ちかけているような気分だ。


「力量を把握、ということは、ワーカーでもとりわけ危険な討伐者、ハンターとして働くって意味だな」

「ええ。修練場にいる多数の人間たちから見聞きして比較してみたところ、カールは軍に所属するごく一般的な常備兵よりも優れた戦闘力を有しているようです。そして、カールと稽古を重ねてきた私も、常備兵に準ずる戦闘力を有しています。カールと二人であれば、徴兵を終えたばかりの十八歳の人間がハンターとして働き始めるのに比較して、遥かに大きな安全マージンを確保してハントに臨むことができますし、能力の低さゆえに新人ハンターたちが選ばざるをえない割の悪い討伐対象を、我々は選ばなくてもよくなります。金銭的に首が回らなくなる、ということも避けられるはずです。それから、カールには事前に了承を得ていますので、お二人の承諾さえ得られれば、カールの意見を確認する必要はありません」


 父は目を丸くすると、口までポカンと開けそうな顔で、何も言うことなく母に視線を移した。父は主体的に決断する気が無さそうだ。


 ……憐れな父ウリトラスに無いのは意志ではなく、決定権か。いずれにしろ、最終的には母が障壁となる。


 母はまたも父を一切見ることなく口を開く。


「随分自分の力に自信があるようですね。丁度良い機会です。修練場にも通わせていることですし、どれだけ強くなっているのか実際に私が確かめてあげましょう」


 それだけ言ってのけると、母は眼光鋭く私を睨みつけた。


 これが子供に向ける目だろうか。以前、無下に断られた手合わせの申し出が、数年越しにこういう形で叶うことになるとは……。




    ◇◇    




 次の日、日の出を迎え、私は母と手合せするため、庭に出た。普段ならばここで母とエルザが二人で稽古を行っていて、それを私はハエで見ている。


 そんな場所に、私だけでなく、父もカールも、そしてそれ以外の使用人全員もいる。マヌもカールも普段はまだ出勤していない時間帯である。今日のことを気にかけ、朝早く駆けつけてきた。この場にいないのは、まだぐーすか寝ている末の弟のリラードだけだ。


 家の人間のほぼ全員が揃っているというのも、なんだか不思議な眺めである。


 そういえばリラードは何歳になったのだろう。


 ……八歳か。エルザが母から打棍を習い始めたのは、確か今のリラードと同じ頃だったはずなのに、リラードはまだ何の武術も習っていない。私と同じく男子は放りおく方針なのだろうか。


 そんなことをぼんやりと考えながら槍を持ち、身体を温めるために準備運動を行う。


 この準備運動は、元々母が打棍を持って行っていた準備運動だ。私と母は、ほぼ同時に準備運動を始めたので、同じ動きを行えば、同じタイミングで準備運動が終わるのは道理であった。


 戦闘準備が整い、早くかかってこい、と言わんばかりに母がこちらを見据える。


 母の前へ進み出ようとしたところで、ふとカールが何か言いたげにこちらを見ていることに気付いた。カールの下へ寄っていき、視線の意を問う。


「何か凄い言いたげな表情だね。どうかしたの?」


 カールは少しだけ躊躇いを見せた後、しっかりとした声で私に言った。


「アール様、短槍でよろしいのですか? アール様は短槍よりも剣のほうがお強い」


 カールがここまではっきりと意見するのは珍しい。


 前提条件が無ければ、確かにカールの意見は正しい。私の槍術と剣術の技量にはかなり開きがあり、剣のほうがずっと得意だ。ただ、母との手合わせでは単純な得物の習熟度の差以外にも考慮しなければならない点がある。


 私の剣の型は、守り重視だ。特に相手が剣を振るう場合は対応がしやすい。しかし、母が用いるのは打棍。自分よりも強い相手が振う打棍を剣で防ぐのは至難の業だ。それならば、間合いで勝る短槍を使ったほうがまだ形になるだろう。


 それに、私の前世の記憶によれば、私は剣で母と戦っている……多分。その時は私が優勢だったはずだけれど、問題なことに、身体の完成しきっていない今の私は前世の私よりも弱く、今の母は、記憶の中の母よりもだいぶ強い。


 まあ、剣を振ろうが、槍で突こうが、現時点で母のほうが強いのは間違いない。一泡吹かせられるように足掻くだけだ。


「カールに教えてもらった槍だってそれなりのつもりだよ。まあ、見ていてよ」


 そう返事をして、私は母と向かい合った。

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