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ソリはふらつきながらも氷の大陸を後にし、彼らの家路へと向かう。
「これ、何で溶けないの?」
段々と暑くなってくるが、氷が溶けている様子はない。
「秘密」
夏丞にとってはいいのだろうが、メリ、クリは重さの変わらないソリを引き、バランスを失いながらで大変そうだ。
「お、重い」
「重ーい!飴なんかじゃ安いぞ!!」
それでも何とかソリは進む。だが、ここで思わぬ事態に遭遇する。
「もしかしたら、ヤバイかも」
「ヤバイ、ヤバイ!!」
メリ、クリがある場所で騒ぎ出した。
「何がヤバイんだ?」と、雪太は首を傾げる。
「オレ達、雷雲の中に入ったみたいだな。早く抜け出さないと危ないぞ」
常に冷静な夏丞だが、この時ばかりは険しい顔をしていた。
「本当にそう思ってる?」
険しい顔をした夏丞の手には、スプーンとかき氷が握られていた。
ゴロゴロと黒い雲の中で、雷が唸っている。数秒事に、ピカッと光る。
「メリ、クリ早く出ろよ!」
雪太は焦って声をかける。
「早くしてるよ!」
「重いんだよ!」
メリ、クリからは汗が噴き出していた。
「兄貴!この際、仕方ないからコレ捨てちまおうよ!!」
雪太は氷の塊に手をかける。すると、その手を素早く夏丞が掴む。
「氷じゃない。お前だ」
「え?」
この瞬間雷が光り、二人の顔をくっきりと照らし出した。
訝しげな顔をしている雪太は、夏丞の表情をうかがう。
夏丞の顔は、冗談を言っているようには見えなかった。
「オレより、氷かよ!!この悪魔っ!!」
再び雷が光る。
夏丞は無言で雪太をクリの方に押しやり、ソリから押し出した。雪太はバランスを崩し、どさっとクリの上に尻餅をつくように乗る。
夏丞は自分を睨み据えている雪太を無視し、クリとソリを繋ぐ綱を外し始めた。
「お、おい、何やってんだ?!」
クリは、夏丞の行動に慌てる。
夏丞は綱を外すと、
「クリ、行け!」とクリの体を叩いた。クリは訳がわからなかったが、夏丞の真剣さと気迫に押され、駆け出す。
「お前はしっかり掴んでろよ!」
夏丞は、遠ざかって行く雪太に向かって叫んだ。
「あ、兄貴!何でオレを…」
夏丞の行動に、驚き戸惑っていた雪太だが、すぐに危ない状況下にまだいる夏丞に気付く。
「兄貴も早く逃げろ!!」
ソリを引いていないクリの足は早く、大分遠くになってしまった夏丞に叫んだ。
その時だった。雷が一番光ったかと思うと、細く鋭い稲妻が夏丞の居るソリに直撃した。
「兄貴ーっ!!」