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「え?!ほ、北極っ!?」
雪太が驚いている暇もなく、ソリは動き出し、空を飛ぶ。シャリン、シャリンと季節外れの鈴の音を響かせて。
「あのぉ、何で北極に行くんっすか?」
うきうきの夏丞とは対照的に、雪太のテンションは低い。
「寒いから♪」
「そりゃ、寒いのはわかってるよ」
「氷があるから♪」
「氷?」
夏丞の解答は全く答えにっていなかった。
雪太の心持ちは明るいものではない。夏丞という存在がそうさせているのもあるのだが、それとは別のところに原因がある。
それは今の季節、待ちに待った夏だからだ。雪だるまの姿では、夏など天敵だった。夏の間中、冷蔵庫の中で夏眠。夏を楽しむという事を忘れてしまっていた。
それが今はもとの人間へ。
夏といえば、青い海、白い砂浜、照り付ける太陽、水着ギャル。
奪われた青春を取り戻そうとしていた矢先、悪魔の登場。いや、訂正しよう。大魔王だ!
雪太の夢に描いていた夏は、早くも崩れ去ったのだ…。
「はぁぁ、オレの夏は何処?」
「ゆきんこ、ドンマイ」
「ドンマイ」
トナカイのメリとクリは、雪太を慰める。笑顔で。
「嫌味でしょ。その顔」
雪太はメリ、クリを睨む。
「八つ当たりはやめろよー」
「みっともないぞ」
トナカイに言われる雪太。何とも情けない。
「涼しくなってきたな」
夏丞の言葉に、うなだれていた雪太は顔を上げた。
「雲、グレーじゃん」
いつの間にか、灰色の雲の中をソリは駆け抜けていた。
「もうすぐか?」と、夏丞はメリ、クリに尋ねる。
「かもね」
「かもね」
不確かな答えが返ってきた。
「おい、わかんねぇーのかよ」
雪太がその反応に突っ込む。
「北極行った事ないもん」
「ナイナイ。ぜーんぜん、ナイ!」
「トナカイのくせに」と雪太が呟くと、
「トナカイは北極にイナイ!!」
「そんな事もわかんねぇのか、空っぽ!!」とメリ、クリにはしっかりとそれが聞こえていた。
「おい、空っぽ」
夏丞が雪太を呼ぶ。
「空っぽはヤメテ下さい」
「ゆきんこ、そろそろコート着なくていいのか?」
「何で?」
「北極だぞ」
いつ着たのか、すでに夏丞はコートを着込んでいた。しかも、もこもこのファー付き。
「どっから出したんだよ」
「四次元ポケット」
「パクリかよ!」
雪太は、以前フラフープを出し、
「通り抜けフープ」と抜かしていた父親の顔を思い出す。やっぱり親子だ。