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「ハアッ!?何んだそりゃあ?!」
父親は頭に血が上るあまり、声が裏返っていた。
「さぁ、お茶入れて」
そんな父親を尻目に、涼しい顔をしている夏丞。
「はい、かっくん」と、イギリス人の血を引く母親が、夏丞に麦茶を出した。
「おい、マリア!何、茶出してんだよ!!」
父は、妻のマリアに突っ込む。
「え?だって、お客さんでしょ?」
美しい微笑みを浮かべるのは計算なのか、はたまた天然なのか。
「マ、マリア」
いずれにしろ、父親はこの微笑みに弱い。震える拳に力を入れ、ぐっと堪えてしまう。
「兄貴はどうして帰って…じゃなくて、訪ねて来たんだ?」と、雪太は夏丞に尋ねる。
「んー、今のところは秘密だな」
この時、雪太は嫌な予感がした。夏丞が悪戯っぽい笑みを浮かべ、隠し事をする時はいつもろくな事がない。
兄弟だからわかってしまう恐ろしさ。雪太は時たまこれが自分の兄である事を恨む。
「さて、ゆきんこ、電話」と、いつの間にか麦茶を飲み干した夏丞は手を差し出した。
「はい」
雪太は、電話の子機を渡す。
「おめぇ、他人んちの電話使うんじゃねぇよ!」
父親は夏丞を睨むが、
「マリアさん、貸して下さい」と父親を無視して、母親に尋ねる。
「どうぞ」
笑顔で了承するマリア。
「マリア!」
父親の叫びはその場ではただ虚しいものでしかなかった。
夏丞は電話のボタンを押し、耳に宛てがう。
2回のコールですぐに相手と繋がった。
「毎度〜っ」
向こうから聞こえてくるのは、関西弁。
「トンマか?」
「ああん!?何やいきなり!!」
トンマと言われ、向こうからは怒りの声が聞こえてくる。
「オレだ」
「オレオレ詐欺?」
次に、怪訝そうな声が聞こえてきた。
夏丞は鼻で笑った後、
「夏丞だよ」と、名乗った。
「ま…まさか…カースケ!!?」
明らかに相手は動揺していた。
「ソリを貸して欲しいんだ。もちろん、トナカイ付きでね」
「いやや!何でカースケに貸さなきゃあかんのや。俺はあんたに貸しはあっても、借りはないで!!」
夏丞は片方の口角を持ち上げると、ニヤリと笑った。
「ウチのゆきんこ使っただろ?オレに無断で」
「はあ!?」
訳がわからないと、相手は声を上げる。
「5年前の2月だよ」
「5年前って…」
今まで耳をそばだてていた雪太は、自分の記憶を思い起こす。そして、ろくでもない思い出と一緒に、電話の相手が誰だかを悟った。