表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/10

10

目の前に大きな雲が流れてきて視界を遮り、完全に成長しきった雲の中は雨と突風が吹き始め、雪太を襲った。


何とか地上に降り立った雪太はクリの背から降り、がくりと膝を落とす。

「兄貴…」

ぽた…ぽた…と髪に付いた雨の滴とともに、涙が零れ落ちた。

「おい、ゆきんこ」

クリが異変に気がつき、雪太に声をかけた。

雪太はゆっくりと顔を上げる。冷たい風がふわっと涙で濡れた頬を撫でた。

この季節にはありえない冷たい風。

空を見上げると、白い粉が降っていた。

「ゆ…き?」

まさかと思った。今は、夏真っ盛り。雪など降るはずはない。

雪太は、掌を広げてみた。そこに、雪らしきものが舞い降りる。

「これ…もしかして…」

雪太の頭に過ぎったのは、夏丞がなんとしてでも持ち帰ろうとした大きな氷の塊。

きっとあの時、氷は砕けたのだろう。

「…バカ兄貴」

雪太は俯き、呟いた。

意地張ってないで氷を捨てれば、一緒に逃げられたかもしれない。それなのに、自分だけを逃がして…。本当に兄貴はバカだ。

「誰がバカだって?」

背後で声がし、雪太は驚いて振り向く。と、目の前には迫った手。

手?

次の瞬間、頭をわしづかみにされた。

「いでででで!!」

「言葉には気をつけろと言っただろ、ゆきんこ」

もう会えないかと思っていた人物が今、目の前にいる。この頭の痛みが今は嬉しく感じる。

「あ、兄貴、無事だったのか!?」

雪太は苦痛に堪えながら、嬉しそうに笑う。

「当たり前だろ」

夏丞はフンと鼻で笑い、口端を持ち上げた。

「でも、雷が直撃したじゃん」

「あれは、氷に当たったんだよ。その時オレはすでに、メリに乗ってたしな」

「兄貴、助けてくれありがと」と雪太は、はにかみながら笑顔で言った。

「バ、バカか!お前はついでだ!つ・い・で!!」

夏丞は照れ、雪太の頭を掴んでいる手が緩んだ。

「照れてんの?」

雪太は、そんな夏丞を悪戯っぽく笑う。

夏丞はその雪太の態度にムカっとし、緩んだ手に強く力を入れた。先程よりも倍以上。

「いでででででで!!!」




その日の町は、清々しい冷たい風がそよぎ、汗だくになる人々の気持ちを解した。

僅かに一時だけ舞った氷の宝石は、気まぐれな夏のサンタからの贈り物。

           

           END

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ