啓示
ゲーム内に入ると、私は水面に顔をつけた状態からスタートした。
滝に打たれた後、体は川の下流に流されたようだ。
「ムサシは拾ってくれなかったのか……」
私は少し恨みを覚えだが、逆に埋葬されていたら身動きが取れず、ゲームを始めからやり直す羽目になっていただろう。
ここは見捨ててくれたことに感謝すべきかも知れない。
川から這い上がると、全身を刺すような寒さに見舞われた。
「しまった…… 服を置いたままだ」
私は、川の流れとは逆の方向に向かって歩き始めた。
しばらく歩き、滝つぼまで戻って来ると、運良く脱ぎ捨てた状態で服が放置されている。
「このままでは風邪をひきそうだが、仕方あるまい」
全裸で歩けば変質者以外の何者でもなく、即刻通報されてしまう。
濡れた体の上から服を着ると、私は下山した。
今度こそムサシに刀打ちを見せてもらおうと、工房に戻ってきた。
扉をノックすると、コジローが顔を出した。
「フゴ!?」
見開いた目で私のことを見て、一歩後ずさる。
すると、後ろからムサシが現れた。
「あ、あんた…… 亡霊か?」
「驚かせてしまったようで、申し訳ありません。 滝に打たれた衝撃で気絶してしまったようで……」
しかし、ムサシは厳しい目でこちらを見たままだ。
「コジロー、退魔の剣を持って来い」
退魔の剣?
まさか……
ムサシは、コジローから刀を受け取ると、鞘から刃を抜き放ち、おもむろに斬りつけてきた。
「ぐあっ」
私の額に凄まじい痛みが走った。
血が滴り落ちる。
「血? あんた、亡霊じゃねーのか!?」
「私は…… 亡霊ではない!」
体を張って、私が生きていることを証明したが、ムサシはもう当分刀は打たない、と言った。
「これは、刀は打つなっていう啓示だ。 神様が許可してくれねーんなら、仕事はしない」
確かに事故は起きてしまった。
しかし、私は生きている。
それでも、頑なに刀を打つ気はない、と言われてしまった。