仕事の条件
工業地区3-13という住所を頼りに、工房を探す。
店の入り口についている表札に住所が書かれている場合が多いため、目的の地区にすぐたどり着くことができた。
「ここがムサシ工房か……」
工房は木造の建物で、その隣にトタンで作られた倉庫のようなものがある。
刀は熱した鉄を打って作るため、火事にならないようこの中で作業するのだろう。
私は工房の扉をノックした。
すると、中から予想外の生き物が現れた。
「ブオー……」
まるでイノシシの化け物のような、そんな風貌である。
二本足で立っており、私の背丈よりもずっと高い。
「う、うわああああっ」
私は驚いてその場で尻餅をついた。
すると、今度は背後から声がした。
「はっはっは、驚いたかよ? それはうちの一番弟子のコジローってんだ。 種族はオークだ」
振り向くと、無精ひげを生やし、髪を一つに束ねた男が立っていた。
今の言葉から推察するに、後ろに立っているこの人物こそがムサシだと思われた。
「お、オークというと…… 人間ではないと?」
「ああ、その通りだ。 刀を打つのに力のあるやつがいるからよ。 俺がスカウトして来たんだ。 あんたは俺の工房に用があったみたいだが、刀の依頼か?」
「いえ、私は実際に刀を打つ体験がしてみたいと思って、こちらに伺いました」
すると、ムサシは眉をひそめ、あんたが? と言った。
「……見たところ、結構年いってるよな? 刀を打てるようになるまでには長い下積みがいるんだぜ? 俺だって25に弟子入りして、35でようやく自分の工房が持てたんだ」
……なるほど。
独立するまでに10年もかかるのか。
しかし、これはゲームの世界であり、実際に10年かかるということはないだろう。
それに、刀が打てるようになりたい、というよりは、どんな仕事なのかを間近で見れればいい。
「刀をどのように打っているのか、見学だけでもさせていただけませんか?」
すると、ムサシは少し困った風に腕を組んだが、こう答えた。
「刀を打つってのは、結構神聖なことなんだ。 神様にお願いして打ってもいいか聞かなきゃいけないし、むやみやたらに人に見せることはできねーんだ。 ただ、どうしても見たいってんなら、条件があるぜ?」
「どのような?」
「滝に打たれて身を清めてもらう」
……滝に?
修行中の僧侶がしているような、滝行のことだろうか?
だが、それが条件というのであれば、仕方がない。
肌寒いこの時期に、滝に打たれるとは自殺行為のような気もするが、私はそれに同意した。
私たち3人は、滝に打たれるために山の中にやって来た。
「あれだ」
ムサシが指差した先に、その滝はあった。
2人は羽織っていたものを脱いで、そのまま水の中に入っていった。
「あんたも来い」
仕方なく着ている服を脱ぎ、裸になる。
この時点でかなり寒く、とても水に入ろうという気にはならない。
しかし、ここでためらえば鍛冶の仕事を見ることはできない。
私は気合を入れ、水の中に入った。
「ぐっ……」
入った瞬間は心臓が止まるかと思ったが、何とか水中を前進して、一気に滝の中に突っ込んだ。