アームズショップ
私は病院から出て、まず工業地区を目指すことにした。
しかし、例のごとくどこに工業地区があるか分からない。
理想はスタート地点に戻り、東を確認した後、その方角を目指すか、街全体の配置を記す看板を見つけることだが、そういったものは見当たらない。
「とにかく、歩いてみるしかないようだ」
あてはなかったが、私は通りを南の方向に進むことにした。
この辺りは、病院の他に、図書館や役所といった国が運営している建物ばかりが並んでおり、街の中枢のようだ。
その一帯を抜けて、しばらく歩いていると、「アームズショップ」と書かれた看板を発見した。
「武器屋か…… では、この辺りは商業地区だろうか?」
私は、鍛冶をするなら武器を見ておかねばなるまいと、アームズショップに入ることにした。
中はちょっとした飲食店程度の広さで、壁に剣や刀、槍や斧などが掛けられている。
店にいるのはいかにも戦士、といった風貌の男や、私のようにそういった類のものでない一般人も紛れている。
私は試しに刀の値札を見てみた。
商品名はプレートソードで、5万マネー。
「……武器としては高いのだろうか?」
ふと、ガラスのケースに入ってる刀が目に付いた。
「こちらの刀はこのプレートソードとは違うのでしょうか?」
店員に尋ねると、もちろんです、という答えが返って来た。
「そこの壁にかかってるのとはわけが違いますよ。 これは名のある鍛冶師が打った高級品です。 美術的な価値もあり、値段は1000万マネーです」
い、1000万だと!?
到底手の届かない値だ。
だが、もし実際に鍛冶仕事を経験するのなら、その道の本物の職人に教わるのがいいだろう。
「この刀を打っている鍛冶師を教えていただけませんか?」
「刀の依頼でしょうか? それなら、住所を教えますので、何かメモを取るものを用意なさってください」
目的は違うが、住所を聞き出すことができた。
グラスを外して手帳とシャーペンを持ってくると、またゲーム内に戻った。
「住所の方、お願いします」
「工業地区3-13、ムサシ工房」
「……ムサシ工房。 分かりました」
あとは、この住所に向かえばいい。
私はこの後図書館に向かい、住所を確認した。
「初めからここに来ればよかったのか」
図書館には住所を記した地図が置かれてある。
看板が無くても、これで街の配置が確認できるため、迷うこともなくなるだろう。
地図上では、中心にこの図書館があり、南に商業地区、市場、東が工業地区となっている。
地図を畳んで、図書館から出ると、工業地区に続く道を進んだ。
「少し手間取ったが、ようやく鍛冶の仕事につけるな」
露天商で購入した時計を確認すると、時刻は昼の12時だ。
「もう12時か……」
スタート時は8時頃だった気がする。
実際の時間だと、もう夜中の12時を回っているだろう。
翌日の仕事に多少支障をきたしてしまいそうだったが、あと少しだけ、という気持ちで私は工房に向かった。