尾行の先で
「行き止まりか……」
私はいつの間にか袋小路に迷い込んでいた。
どうやら男を見失ってしまったらしい。
豚の角煮など試食している場合ではなかった、と後悔しながら振り向くと、あのハンマーを持った男が道を塞ぐように立っていた。
「貴様、バウンティハンターか?」
……まさか、尾行に気づかれていたのか?
男は腰からハンマーを引き抜いて、こちらに詰め寄ってきた。
バウンティハンター、というワードから、男は私のことを賞金稼ぎか何かと勘違いしているようだ。
「わ、私は賞金稼ぎではありません! しかし、尾行をしていたことは謝ります。 実は…… お恥ずかしい話、工業地区がどちらにあるのか分からなくなってしまいまして……」
「下手な嘘だな。 俺の首にかかっている懸賞金が目当てなんだろう?」
「け、懸賞金?」
この男、鍛冶屋ではないのか!?
「本当に知らないなら教えてやる。 俺はなぶり殺しのトムだ。 運が無かったな」
ま、まずい…… 数歩後ずさると、壁が背に触れた。
なぶり殺しのトムは、ハンマーを担ぎ上げ、私の頭にそれを振り下ろした。
「うわああああああーーーーーっ」
私は全身汗だくで、テレビの前に座っていた。
どうやら、私は殴られる瞬間にグラスを投げ捨てたらしい。
「あなたー、どうしたのー?」
下から妻の声がした。
私の絶叫を聞かれていたのか?
私は慌てて階段から顔を出し、妻に大丈夫だと伝えた。
「爪を切っていたら、ちょっと深爪してしまってな。 問題はない」
「それならいいけど……」
そのまま妻はリビングに戻って行った。
私はゲームを再開する前に、ネットでコンパスが無くても方角の分かる方法を検索した。
「時計を使って方角を知る方法があるのか」
腕時計の長針を左側に向け、短針を太陽の方向に向ける。
長針と短針の間が南になるようだ。
方角が一つ決まってしまえば、残りの方角も分かってくる。
ゲーム内でさっき購入した腕時計を使い、露天商の位置から東を割り出せば、工業地区に着けるだろう。
「よし」
私は再度、グラスをかけ、ゲームをスタートした。