誕生
私は夜、卵を転がして馬車の前までやって来た。
しかし、一人で馬車に担ぎ上げることはできない。
召使いの誰かを金で買収し、手伝ってもらおうか? などと考えていると、馬車の中からガサガサと音がした。
「……ま、マリーさん、何を」
「わっ、あなたこそ何でここに!?」
かなり慌てている。
このまま屋敷を抜け出すつもりだったのか?
「……屋敷に戻られた方がいいですよ」
「あなたこそ、宿舎に戻りなさいよ」
戻れ、と命じられたら従うしかない。
それに、馬車を使う権限は私にはないだろう。
それならば……
「マリーさん、私は卵を街に住むセナという青年に預けに行くつもりです。 私には、ドラゴンの飼育は重荷でした」
責任転換と言われるかも知れない。
だが、この屋敷でドラゴンを飼うことは出来ない。
今後のことを考えると、やはり、私ではなくセナに預けるのがベストだと思う。
私には、住む場所はおろか、餌を賄う金すらないのだ。
「……ドラゴンの卵を持つだけでも罪に問われるんでしょ? そんなの、受け取るわけないわよ」
……確かにそうだ。
だが、他にいい案があるか?
「あなたが決闘に勝てば問題はない。 しかし、それが出来ないから、逃げ出すつもりだったんでしょう? もし、私を宿舎に戻せば、あなたが逃げたことを報告します」
「……なんですって」
マリーさんは、どうすべきか悩んでいるようだったが、結局、私と街に同行する道を選んだ。
卵を2人で担ぎ上げ、馬車を走らせる。
マリーさんが馬車を走らせている途中、卵の中の雛が動く気配がした。
「ここで生まれるのか!?」
ピキッ、と音がし、殻の割れ目からくちばしが現れた。
そして……
「ギエエエエエエエーーーッ」
とうとう、竜の雛が生まれた。
そして、生まれたばかりの雛は、私のことを見るとこう言った。
「エサーッ! エサクレーッ!」
生まれて早々餌か!
確かセナの話では、昆虫か野菜を食べるとのことだが、私と同じくらい大きな雛だ。
そこら辺の昆虫一匹では満足できまい。
「えっ、アオモリ、雛生まれちゃったの!?」
「ええ、かわいいですよ」
「見たいんだけどーっ」
……いや、それより、早く街で野菜を買わねば。




