母親ドラゴン
剣を横っ腹に突き立てられ、目の前のキツネは一歩退いた。
「ぐっ……」
私が剣を構えると、恨めしそうな目で一瞥し、そのまま逃げていった。
あの傷でどこまで逃げられるだろうか? いや、今はそれどころではない。
「雛は無事か!?」
卵には深く矢が打ち込まれてしおり、中の雛がどういう状況か分からない。
私は、急いで宿舎に戻り、じいやを起こして獣医がいないか尋ねた。
「そんなことが…… 直ちに、侵入者を追う手配をし、先生に雛を見てもらいましょう」
獣医がいないため、屋敷専属の医者を呼ぶと、早速状況の確認が行われた。
殻を割り、中が見えるようにする。
先生は、卵白の上から覗きこむと、こう言った。
「ふむ…… 傷は浅いな」
「……手当は必要ですか?」
私がそう尋ねると、人間なら放っておけば治るだろう、と答え、経過観察が必要とも言った。
「ちょうど背中の辺りに矢が刺さっている。 翼の生育に支障が出るかも知れない」
……命に別条はないということか。
しかし、もしこの傷が原因で空を飛ぶことが出来ないとなると……
「矢を引き抜こう。 皮膚を少し傷つけているだけだから、その内塞がる」
この後、矢を引き抜き、割れた殻の破片を糊で繋ぎ止めた。
この殻をビスで止め、外せばいつでも中の状態が分かるようにした。
血が止まらなかった場合、卵白を取り除いて縫合する必要があるらしい。
それから3日程が経過した。
私は現実とこちらを行き来しながら、卵の中の雛を観察し続けた。
幸い、血はすぐに止まった。
雛の鼓動も聞こえるため、一命は取りとめたようだ。
結局、侵入者のキツネは捕まらなかった。
壁面に血が付着しており、壁をよじ登って逃げたことが分かった。
温室の外では、マリーさんが剣を練習しているが、じいや曰く、恐らく相手には勝てない、とのことだ。
「相手は実戦を経験していますし、失礼ながら、お嬢様は付け焼き刃もいい所。 家の為にも、結婚していただくのが宜しいかと」
そんなある日、巨大な影が屋敷に落ちた。
「た、大変だ!」
召使いの一人が叫んだ。
みなが外に出ると、そこにいたのはドラゴンであった。
屋敷の前に降りたち、咆哮を上げた。
「私ノ子供ヲ返シナサイ!」
「あ、あの温室に……」
……!
召使いの一人が恐怖にまけ、卵の場所を答えてしまった。
私は急いで温室へと駆け出した。




