ゲームスタート
ここはどこだ?
男の声が遠くから聞こえ、何やらガタガタ揺れている。
「起きて下さい。 そろそろ到着します」
……どうやら、ゲームがスタートしたようだ。
今、私は馬車の中にいるらしい。
声をかけてきたのは、手綱を引く若い男だ。
「そろそろ街に到着します。 別れる前に、お名前を聞かせてもらってもよろしいですか?」
名前か。
咄嗟に思い付かなかった私は、本名をそのまま伝えた。
「アオモリ様、ではこれを受け取って下さい」
手渡されたのは、財布であった。
中身を確認すると、紙幣が2枚入っていた。
この資金で、普通は武器や防具を揃えるのだろうが、ここでは一体何に使うのだろう。
大通りの脇に下ろされ、馬車が走りさって行く。
「ゲームもここまで進化したか……」
私は息を呑んだ。
道沿いには、所狭しと市場が並び、その奧の都市部には建物が乱立している。
しかも、上を見上げれば、竜が空を飛んでいるではないか。
テレビの画面を見ながらゲームをプレイするのとは訳が違う。
まるで、本当にゲームの中にいると錯覚してしまう。
私は、まず最初に興味をひいた鍛冶屋で働こうと思い、道を尋ねた。
声をかけたのは、道端に座り込んでいた露天商だ。
「すいません、鍛冶屋はどの辺りにありますか?」
「鍛冶屋? 知りたければ何か買っていきな」
……なるほど。
情報もタダではないということか。
私は適当な腕時計を指先し、これが欲しい、と言った。
「1000マネーだよ」
マネーとは、どうやらこのゲームの通貨の単位らしい。
財布から紙幣を一枚取り出し、これでいいか? と手渡した。
「鍛冶屋は工業地区にある。 ここから東に歩いて行けば、たどり着けるだろう」
……東?
一概に東と言われても、方角が分からない。
「東というと、どちらに向かえばいいのでしょうか?」
「知りたいなら、何か買っていきな」
……くっ。