決着
私は、腹の底に眠る力を引き出し、ゲンゾウの攻撃を耐え続けた。
「うがああああああーーーーーっ」
「な、何なんだ貴様ああああっ」
ガチガチと刃と刃がせめぎ合う。
その時だった。
ピキリ、という音が刀身から聞こえた。
「……!?」
ゲンゾウの持つ刀に、ヒビが入った。
そこから勝負は一瞬だった。
刃こぼれした刀の隙間に、私の刀が滑るように入り、ゲンゾウの体を斜めから斬り伏せた。
「何…… でだ……」
ドサリ、とゲンゾウの体は地に伏した。
ムサシが歩み寄り、ゲンゾウの刀を手に取った。
「……お前、叩きすぎなんだよ。 刀はむやみやたらと叩けば強くなるってもんじゃねえ。 叩けば叩くほど、中に含まれる炭素の量が減っちまうんだ。 だから、逆に弱くなる」
「そんなこと、知るか……」
最後にそう言うと、ゲンゾウは絶命した。
「……それにしても、アオモリさん。 あんた、見直したぜ」
「いや、私の方こそ、自分にこんな力があったなんて驚いてます」
こうして、なぶり殺しのトムこと、ゲンゾウは死んだ。
街には平和が戻った。
私は、以前手に入れたレイピアを加工すべく、エドワード工房に向かった。
工房に入ると、エドワードが全自動のハンマーを使って、刀を叩いている所だった。
「お久しぶりです、エドワードさん。 鉄を手に入れたので、機材を使わせてもらってもよろしいですか?」
「おお! あんた、見かけによらずすごいじゃないか! あのなぶり殺しのトムを倒したんだろ?」
情報はあっという間に知れ渡っていた。
「あれは、ムサシさんの刀があったからですよ」
「とにかく、あんたは英雄だよ。 好きに機材を使ってくれ!」
私は、ムサシ工房で見た刀打ちの手順を思い出し、刀の制作に入った。
数時間後、出来上がった刀は、我ながら良い出来だったと思う。
これを売って、髭剃りを買わねばな。
ゲームから帰還し、時計を見やる。
時刻はまだ11時だ。
「今日は早く寝れそうだな」
体を起こし、寝る前に何か飲もうと、一階に降りると、妻がテレビを見ていた。
「あ、あなた! その首……」
「首?」
私が首に手をやると、一瞬ヒヤリとした。
ぬるり、とした感触があり、手にべっとりと血が付いていたからだ。
「……そんな馬鹿な」
確かにゲーム内で首を少し斬られた。
しかし、ここはゲーム内ではない。
「こ、これは…… カミソリで少しやってしまったんだ。 何も心配はいらない」
それでも、動揺していたのは私の方だった。
部屋に戻ってからも、心臓が高鳴っていた。
「これは、一体どういうことだ?」