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VRでジョブチェンジ!  作者: oga
第一章 鍛冶屋
17/63

VSゲンゾウ

 ゲンゾウは、今は使われていない工房に立て籠もっていた。

私たちが到着した頃には、既に周囲を包囲されている状況で、逃げ場はないと思われた。


「今どうなってる?」


 ムサシが刑事に尋ねる。


「衛兵が2人、奴を捕まえに中に入ったが、30分たっても出てこない」


 ……もし、ゲンゾウが刀を完成させていたら、例え衛兵が鎧を纏っていたとしても、その上から斬り伏せられている可能性がある。


「……俺が行く」


 ムサシと私は、工房の中へと足を踏み入れた。

玄関から入り、辺りを窺いながら廊下を進む。


「血の匂いがするな。 アオモリさん、気をつけろよ」


 やはり、先に入った衛兵はやられてしまったのか?

襖を開けると、そこには鎧を裂かれ、絶命した衛兵が横たわっていた。


「うっ……」


「無理しなくていいぜ」


 ゲーム内なら死んでも平気な私が、逃げるわけにはいかない。


「……私なら、大丈夫です」


 気を取り直し、更に奥の襖を開けると、返り血を浴び、手に刀を持ったゲンゾウが立っていた。

案の定、もう一人の衛兵もやられていた。


「刀匠ムサシか」


「ここで死んで貰うぜ、ゲンゾウ」


 しかし、ゲンゾウは何故か笑っている。


「あんた、死相が出てるぜ。 聞いた話じゃ、滝行で死者が出たらしいじゃねぇか。 それなのに、その刀を打った。 次に死ぬのはあんただ」


 なぜそのことを……

私がムサシの方を見ると、刀を持つ手が小刻みに震えていた。

まさか!

ムサシが刀を抜き、ゲンゾウに斬りかかろうとした瞬間、私は間に割って入った。


「なっ、おい!」


「……私が奴の相手をします」


 私はムサシから刀を引っぺがし、ゲンゾウに向き直った。

簡単に刀を奪えるほど、ムサシは握力を消耗していた。


「行くぞ!」


 私は、ゲンゾウに斬りかかった。

ところが、片手で簡単に受け止められてしまった。


「……軽すぎる。 お前は仕事は何をしている? これは剣士じゃねぇ」


 グググ、と刀を押し戻される。

何という力だ!


「わ、私は…… 郵便局の事務員だ」


「事務だと? 日々錬磨しているこの俺が、努力せず甘い汁を吸っているだけの雑魚に負けると思うか?」


 そのまま押し戻され、喉元に刃が迫る。

刃が首に触れ、血が流れた。

少しでも力を抜けばやられる。

だが、この絶対絶命の境遇こそ、私の最大の力を出せる場面であった。


「聞き捨て、ならんな……」


「ん?」


 ピタリ、と押し合う刀が止まった。

ゲンゾウが一瞬驚いた顔になる。


「私の人生は、挫折ばかりだった。 家が貧しくて、大学に進学できず、卒業後はずっと工場でバイトをしていた。 だがっ、それではダメだと思った! 仕事終わりに勉強をし、公務員試験を何度も受けたっ!」


 私は自分自身に言い聞かせた。

私は、逆境でこそ力を発揮する男なのだと。

 


 



 

 



 


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