VSゲンゾウ
ゲンゾウは、今は使われていない工房に立て籠もっていた。
私たちが到着した頃には、既に周囲を包囲されている状況で、逃げ場はないと思われた。
「今どうなってる?」
ムサシが刑事に尋ねる。
「衛兵が2人、奴を捕まえに中に入ったが、30分たっても出てこない」
……もし、ゲンゾウが刀を完成させていたら、例え衛兵が鎧を纏っていたとしても、その上から斬り伏せられている可能性がある。
「……俺が行く」
ムサシと私は、工房の中へと足を踏み入れた。
玄関から入り、辺りを窺いながら廊下を進む。
「血の匂いがするな。 アオモリさん、気をつけろよ」
やはり、先に入った衛兵はやられてしまったのか?
襖を開けると、そこには鎧を裂かれ、絶命した衛兵が横たわっていた。
「うっ……」
「無理しなくていいぜ」
ゲーム内なら死んでも平気な私が、逃げるわけにはいかない。
「……私なら、大丈夫です」
気を取り直し、更に奥の襖を開けると、返り血を浴び、手に刀を持ったゲンゾウが立っていた。
案の定、もう一人の衛兵もやられていた。
「刀匠ムサシか」
「ここで死んで貰うぜ、ゲンゾウ」
しかし、ゲンゾウは何故か笑っている。
「あんた、死相が出てるぜ。 聞いた話じゃ、滝行で死者が出たらしいじゃねぇか。 それなのに、その刀を打った。 次に死ぬのはあんただ」
なぜそのことを……
私がムサシの方を見ると、刀を持つ手が小刻みに震えていた。
まさか!
ムサシが刀を抜き、ゲンゾウに斬りかかろうとした瞬間、私は間に割って入った。
「なっ、おい!」
「……私が奴の相手をします」
私はムサシから刀を引っぺがし、ゲンゾウに向き直った。
簡単に刀を奪えるほど、ムサシは握力を消耗していた。
「行くぞ!」
私は、ゲンゾウに斬りかかった。
ところが、片手で簡単に受け止められてしまった。
「……軽すぎる。 お前は仕事は何をしている? これは剣士じゃねぇ」
グググ、と刀を押し戻される。
何という力だ!
「わ、私は…… 郵便局の事務員だ」
「事務だと? 日々錬磨しているこの俺が、努力せず甘い汁を吸っているだけの雑魚に負けると思うか?」
そのまま押し戻され、喉元に刃が迫る。
刃が首に触れ、血が流れた。
少しでも力を抜けばやられる。
だが、この絶対絶命の境遇こそ、私の最大の力を出せる場面であった。
「聞き捨て、ならんな……」
「ん?」
ピタリ、と押し合う刀が止まった。
ゲンゾウが一瞬驚いた顔になる。
「私の人生は、挫折ばかりだった。 家が貧しくて、大学に進学できず、卒業後はずっと工場でバイトをしていた。 だがっ、それではダメだと思った! 仕事終わりに勉強をし、公務員試験を何度も受けたっ!」
私は自分自身に言い聞かせた。
私は、逆境でこそ力を発揮する男なのだと。




