妖刀カマイタチ
私は現実に引き戻された。
仕事に行かなければ……
職場では四六時中ウトウトしていた。
昨日は2時間程度しか寝てない上に、今日は一睡も出来なかった。
ゲームにここまでのめり込むとは……
息子が〇ケモンに熱中する理由が分かる。
こちら以上に、あちらの世界のことが気になるのだ。
今もムサシは刀打ちを続けているだろう。
私は、すぐにでも帰ってゲームをしたい心境だった。
仕事が終わると、私は目が冴え始めた。
早くゲームをやらなければ、と足早に帰宅し、自室に向かおうとした。
その時だった。
「あなた、ご飯は?」
……!
当たり前のことを聞かれ、私自身も驚いた。
ご飯も食べず、風呂も入らずにゲームをしようと思っていたのか?
「あ、ああ。 もちろん食べるとも」
何故か声がうわずってしまった。
「……」
妻に、少し不審な目で見られた気がした。
いつまでこのことを隠し通せるだろうか……
食事を済ませ、時刻は8時だ。
あれから13時間が経過してしまった。
「流石に刀を打ち終えているだろうな」
私はグラスをかけ、ゲームを始めた。
ゲーム内に入ると、私はトタンの建物の中で立っている状態からスタートした。
やはり、刀打ちは終わっているらしく、ムサシを探して、となりの工房を覗いてみた。
工房内には、仕上げをしているムサシの姿があった。
「……」
ムサシは柄を取り付けている所で、やはり刃は出来上がっていた。
波紋を描いた刀身は、とても美しい。
ムサシは立ち上がり、刀を鞘に収めた。
「……完成だ。 アオモリさんが途中から寝ちまうからよ。 肝心な所見逃したな」
……確かに、仕上げの工程は見ておきたかったが、仕事を休むわけにはいかないだろう。
本で読んだ知識では、刀の形成と焼きならし、刃の研ぎと、刻印の作業という流れだったはずだ。
ムサシは刀を手に取ると、立ち上がった。
「これから俺はゲンゾウを斬りに行く。 衛兵から、ゲンゾウの隠れ家を見つけたって情報が入ってきたんだ」
ゲンゾウの隠れ家は、なんと工業地区の中にあるとのことだった。
私は興味本意で、ムサシについて行くことにした。
焼きならしは、刀の成分を均一にするためにやるらしいです。
熱した刀を急冷して行います。