刀打ち 2
ムサシは私とは比べ物にならない程のスピードで金槌を振るっていく。
ガンガン叩き終えると、玉鋼は薄く引き伸ばされていた。
「……よし、これくらい薄けりゃ大丈夫だ。 厚すぎると叩いても割れなくなっちまうからな。 後は水をまいて表面の泥を弾き飛ばす」
ムサシは予め用意しておいた桶から、柄杓を使って水をすくい取り、玉鋼にかけた。
ジュワ、と蒸発し、辺りが白い水蒸気で包まれる。
煙が晴れると、そこには銀色をした玉鋼が現れた。
「次はこの小槌を使って選別していく」
ペンチのような道具を使って薄くなった玉鋼を挟み、小槌で叩き割っていく。
この工程を終えると、硬い鉄と柔らかい鉄とが、ほぼ半分ずつに分けられた。
「音で炭素量が分かる。 鋭く響けば炭素量が少ない粘りのある鉄だ」
ムサシは、硬い方の鉄片をヘラに積み重ね、再度竃に投入、熱した後、今度は一回り小さい金槌を使い、叩いてつなぎ合わせいく。
「飴細工みたいだろ? あんたに叩きを任せるぜ。 俺は鉄を切って折り返す作業をやる」
私は金槌を受け取ると、赤い色の玉鋼を打ち出していった。
ムサシは、ある程度引き伸ばされた状態で、先端が「ー」の杭を使い、鉄を切断していく。
さっきより大きめのペンチで、鉄を挟んで折り返し、また私が叩く。
これを15回繰り返すと、鍛え上げの作業が完了した。
「はぁ、はぁ…… ムサシさん、刀打ちは力作業ですね」
全身の筋肉を使い切り、打ち終わった後は手が小刻みに震えた。
「まぁな。 だから、力のある助手がいるんだ。 もう一度熱したら、後は造り込みだ。 刃になる部分をU字に加工して、その隙間に前もって作っておいた芯になる鉄を仕込む。 こうすることで、良く斬れて折れにくい刀に仕上がるのさ」
ここから先は、ただ叩けば良いという訳ではないため、私の出番は終わった。
数時間かけて造り込みを行い、とうとう刀の原型が完成した。
「こっから更に集中する。 イメージ通りの刀になるかはここで決まるから、あんま話かけるなよ」
シン、と静まり返る。
ムサシは精神を統一したのち、鉄を叩き始めた。
辺りには、金属音と、あなたー、という謎の声が聞こえる。
「……はっ!」
私はグラスを外し、時計を見た。
既に朝の7時であった。