事件 2
私がエドワード工房に向かう途中、何やら人だかりが出来ていた。
そこは見覚えのある所で、ムサシ工房の前だった。
嫌な予感がした私は、人をかき分けて騒ぎの中心へと向かった。
「通して下さい! 知り合いがいるもので」
どうにか最前列に到着すると、以前私が襲われた時に調査をしていた警察と、腕を組んで難しい顔をしたムサシ、頭に包帯を巻いたコジローがいた。
「ムサシさん、何があったんですか?」
「……ん? ああ、あんたか。 少しまずいことになった」
ムサシの話では、自分が留守中に、あのなぶり殺しのトムに盗みに入られたらしい。
コジローは扉を開けた瞬間頭を殴られ、命に別条はないものの、大事な刀の素材を取られてしまったらしい。
「カマイタチの玉鋼を取られちまったんだ。 なぶり殺しのトムの本名を聞いてピンと来たぜ。 あいつは元鍛冶師だ」
なぶり殺しのトム。
本名は冨田ゲンゾウと言うらしい。
鍛冶屋で20年ほど修業を積んでいたらしいが、結局芽が出なかったとのことだ。
「あいつは二流だが、あの玉鋼を使えば鉄をも斬れる刀に仕上がる。 それが悪人の手に渡ったらマズい」
とにかく、刀が完成する前に捕まえる必要がある、と刑事は言った。
「刀を作るには工房がなきゃダメだろう。 だから、この辺一帯に注意を促す伝令を流す」
刑事は、ふぅっ、と煙を吐き出した。
「……アオモリさんだったか。 ちょっとこっちに来てくれ」
突然、ムサシに呼ばれ、私は工房の中で話をすることになった。
「あんた、確か鍛冶を体験したいって言ってたよな? コジローがあんなんだから、少し協力して欲しいんだ。 もし、カマイタチの刀が完成しちまった場合、並の刀じゃかち合った時に負けちまう。 もう一本、奴の刀以上の刀を作っておきたい」
……これは願ってもない話だ。
「……私で良ければ、協力します」
ムサシは工房の奧に行くと、鉄の塊を手にして戻ってきた。
「もう一つのカマイタチの玉鋼だ。 改めて、俺はムサシ。 妖刀打ちだ。 よろしくな」