7.
「悠くん!!」そう言いながら兄貴が慌ただしく入ってきた。
「……」僕はばつが悪くて、そっぽを向いた。
「本当に心配したんだよ?一週間も眠ってたんだから…」そんなに?
「兄貴…これ外して」僕はそう言って酸素マスクを指差した。
「始めは少し息しづらいからな…」そう言いながら兄貴はマスクを外してくれた。
「…っ…はぁはぁ…兄貴…」
「ん?どうした?」
「ごめんね」意地張ってごめん。心配かけて…
「そうだよ。兄貴の言うこと聞いてくれないと困るよ…」兄貴はそう言って僕の頭をなでた。
「悠くん、大事な話があるんだ。具合大丈夫?」
「うん…」僕はそう言って起き上がろうとしたけど、兄貴から
「無理しなくて良いからしっかり聞いて」って真面目な顔で言われたので、僕もちゃんと聞くことにした…
一通り聞き終わった僕は
「そうなんだね」って他人事みたいに言った。
なんかやっぱりって思ってしまったから…
「悠くん…退院する?」兄貴にそう言われて、
「そうだね、退院しようかな」僕はそう言って笑った。
<蓮side>
悠くんが眠っている間、色々な検査を終わらせた。
その結果…かなり悪化していた。
もう長くは生きられない…
「何でだよ。悠くん頑張ってたじゃん…あんなに高校行きたい、看護師になりたいって」
僕は泣いた。
検査結果を前に、泣きじゃくった。
そしてそのまま泣き疲れて、自分のデスクの上で座ったまま夜を明かした。
「ん…」やばっ寝ちゃった…
昨日は叶ちゃんに、
「遅くなるから一人で寝てて」そう言ったまま帰って来なかったことになる…
(ごめん…叶ちゃん)僕はぼさぼさの髪のまま車に乗って、家に帰った。
家に帰ったのは朝の7時。
叶ちゃんは普段は学校に行くためにもう起きてる時間のはずだけど…
「ごめんね…ただいま~って叶ちゃん?」リビングに叶ちゃんの姿は無かった。
「叶ちゃん入るね」そう言って叶ちゃんの部屋に入ると、叶ちゃんは目を開けて
「蓮くん?蓮くん!?」そう言って僕に抱きついてきた。
時々嗚咽を漏らしながら、泣いていた。
「叶ちゃん…ごめんね、寂しかった?」
「蓮くんもう帰って来ないかと思った…」
「ごめんね…朝ご飯作ってやるから着替えておいで。僕は叶ちゃんの所に絶対帰ってくる」そう言って叶ちゃんの頭をなでた。
「絶対だよ。もう連絡なしに帰って来なかったら許さないから…」叶ちゃんはそう言って笑った。
(何か小さい彼女みたいだな)そう思ったけど、そんなこと悠くんに言ったら、怒られそうだ…
叶ちゃんを学校に送り届けた後、病院に急いだ。
悠くんの様子を見に行くと、まだすやすやと眠っていた。
(悠くん、いつまで寝たら気が済むの?早く起きなよ…)僕は悠くんの頬をさわって、笑いかけた。
デスクワークをしていると、ナースコールが押されたようだ。
僕が急いで確認すると、悠くんの病室からだった。
(悠くん!?)「すぐ行く」僕は急いで病室に向かった。
悠くんは元気そうだった。
僕の言うことを聞かなかったことも反省しているようだし…
そして、僕は悠くんに事実を伝えることにした。
『もう長く生きられない』ってことを…
悠くんは
「そうなんだね」って他人事みたいに言った。
まだ理解出来てないのかな?それとも…
「悠くん…退院する?」僕はこの答えが聞きたかったんだ。
治療して寿命を延ばすことも出来る。
ぎりぎりまで高校生活を楽しむことも出来る。
でも、高校生活はリスクが高い。
多分今の状態では、普通に生活するだけでもすぐ辛くなっちゃうだろう…
しかも、いつ発作がおきるか分からない…
そんな僕の心配をよそに、
「そうだね、退院しようかな」悠くんは嬉しそうにそう言って笑った。
「じゃあ退院しような。叶ちゃんも待ってるから」僕はそう言って悠くんの頭をなでてあげた。
「兄貴…退院明日でいいよ…眠いし、おやすみ」悠くんはとびきりの笑顔で夢の世界に入っていった。
「うん。おやすみ」
<悠斗side>
僕は退院した。
今退院しなければ、もう一生病院から出られないような気がして…
その代わり制限が厳しくなった。
薬も有り得ない程の量を飲まないといけない…
それでも、高校に行けることが嬉しかった。
朝はだるかったから昼から登校して、教室に向かっていると、目の前の自販機に星波の姿が見えた。
「よっ!星波」僕はそう言って星波の肩を叩いた。
「悠斗!?あー!カフェオレ飲みたかったのに…」星波は僕に驚いて、カフェオレの隣のお茶を押してしまったようだ。
(驚きすぎだろ…)
「って悠斗、何で最近学校来なかったの?」
「ん?寝てた…ほい」僕はそう言いながら、カフェオレを星波に渡した。
「別に良かったのに…」
「受け取ってくれないと困る。僕カフェオレ飲めないから」
別に飲めない訳でも無かったけど…
「んじゃありがとうさんっ。で、何で学校来なかったのさ…」って星波はカフェオレを開けながら言った。
「えっ?言ったじゃん。寝てたって」まぁ嘘はついていない…
「んな訳ないだろ?どんだけ寝てんだよ」
「発作おこしてさ、意識無かった…」僕は深刻にならないように笑いながら言った。
「えっ…?あっ体弱いって言ってたっけ?」そんなこと言ったっけ…
「うん。もう死んじゃうくらいね」僕がそう言うと、
「そんなこと言うなよ!」星波はそう言って僕の肩を叩いた。
「…ゲホゲホ…はぁ…はぁ」僕が咳き込むと、星波は
「あっ…悠斗ごめん」そう言って僕を離した。
「いや…こっちこそごめんな」僕はそう言って笑った。
***
家に帰ると途端に眠気が襲ってきて、僕はそれに逆らわず、ソファーで眠りについた。
「にぃに、ただいま~って寝てるの?」って言う叶の声で目が覚めた。
「ん?おかえり」
「にぃに具合悪いの?」叶に心配をかけてしまった。
「ううん、大丈夫」そう言いながら起き上がって、ご飯を作るために台所にたった。
「にぃにいいよ。叶が作る」
「じゃあ一緒に作ろうな」そう言って叶の頭をなでて、2人分作り始めた。
「ねぇにぃに、少なくない?」出来上がった料理を見て、叶が不思議がった。
「うん。にぃにお腹すいてないから兄貴帰って来たら2人で食べな?」そう言って僕はソファーに行き、眠りについた。
兄貴が「ただいま~」って帰って来て、僕の姿を見るなり、心配そうに
「食欲ないんだろ?大丈夫?」そう言って僕のおでこに手を当てた。
「もう眠いんだけど…」そう言いながら兄貴の手を振り払った僕に兄貴は
「熱は無いな…寝るなら部屋行こうな、立てる?」って言って手を差し伸べた。
「ん…」僕はそう言いながら部屋に向かった。
(どんだけ寝たりないんだよ)
僕はそう思ったけど、眠気には逆らえ無かった。
もう僕は呑気に料理作ったり出来る体じゃ無いのは分かってる。
僕は今はまだしっかり動いてくれている心臓に手を当てながら、夢の世界に入っていった。