6.
僕は今、病院の会議室に向かっている。
『大事な話がある』兄貴にそう言われたからだ…
「兄貴~来たぜ…」そう言いながら会議室に入っても、誰も居なかった。
(呼びつけておいて…何だよ)そう思いながらも、僕は置いてあった円椅子に座った。
少しして、僕を呼びつけた当の本人である兄貴が入ってきた。
「ごめんごめん…待たせたね」
「まーうん…で、何なの?話って」
兄貴が会議室に僕を呼ぶのは、決まって僕と兄貴との関係が、患者と主治医になるときだ…
「悠くん。この前の検査の検査が落ち着いてたから…」
その後に続く言葉は、僕がもの凄く欲しかったものだった。
「えっ…?本当にいいんですか?退院して」
「いいよ。悠くん頑張ってたし…それに来週から高校生活だろ?楽しみな!」そう言って先生は僕の頭をなでた。
僕は飛び上がりたい衝動を抑えて、ゆっくりと立ち上がった。
ここではしゃいだりしたら、全てが水の泡だから…
こうして、僕はおよそ半年ぶりに家に帰ることとなった。
そして…
「悠くん、行くよ」
「はーい」
「兄貴たち後ろで見てるからな…」
「はいはい」
「一同、起立」
その聞き飽きたセリフで、僕らは一斉に立った。
(何回立ったり座ったりするんだよ…)
「一同、着席」
座ると力が抜けて、もう立てないような気がした。そして案の定
「一同、起立」
僕は無理に立ち上がったが、
(ふらふらする…)
(視界が真っ白だ…)
僕は我慢出来ずにその場にしゃがみ込んだ。
周りが少しざわついている。
「坂本、立てるか?」その声の主は担任の先生になる人であろう…
「顔色悪いぞ…大丈夫か?」
「はい…まぁ…」
「ゆっくりでいいからな」って言って手を伸ばした先生の手を掴みます僕はゆっくりと立ち上がった。
そしてそのまま保健室行き…
入学式中のこと出来事に、この空間に居る大半の人はは気づいていないだろう…
幸い体調はすぐに戻り、入学式が終わる前に教室に戻って来ることが出来た。
先生が居らず、ざわついている教室に静かに入り、僕の席であろう所に座った。
「さっきは大丈夫だったのか?」初めましての人が声をかけてきた。
「あぁ…よくあるし」
「えっ?よくあるの?」
「あっ…えっと…」僕が答えを出しかねていると、
「…貧血とか?」って聞いてくれた。
「あっ…うん。そんな所」僕はあやふやにごまかして、その場を切り抜けた。
「僕は星波。名前は?」
「悠斗…」僕がそう言うと、星波は
「よろしくな」そう言って笑った。
***
(やばい…吐きそう)
僕は体調が悪いのを隠して学校に来た。
でも流石にもう限界だ…
授業中は机にうつ伏せて、ただ時間が過ぎるのを待っていた。
授業が終わってすぐ、僕は保健室に向かった。
(これまで二週間、休まず来れた方が奇跡なんだ)と自分に言い聞かせながら…
(あっやばい…)
あの、嫌な汗が背中を流れた。
心臓の方もおかしくなってきたみたいで…
その時、前から来た人とぶつかった。
そんなに強くぶつかった訳では無かったが、具合の悪さが災いしてか僕は尻餅をついてしまった。
「すいません!!って悠斗?」相手の人は高校生になって初めて出来た友達の星波だった。
「あっ星波…」
「具合悪そうだけど大丈夫?」
「あぁ、へーき」僕はそう言って、差し出された手を取って立ち上がった。
「へーきじゃねぇだろ!!」星波は僕の耳元で怒鳴った。
(あっ待って…響く…)
苦しくなってきたから早く薬を飲みたかったけど星波の手前飲めなくて…
「…はぁはぁ…っ」
「悠斗!?」
僕は星波にもたれかかるようにして、意識を失った。
起きると鼻につく消毒液の匂い。
ここが病院なのか保健室なのか分からなかった。
熱は下がってなさそうだけど、心臓の痛みは消えていた。
隣には星波が座っていて…
「なぁ星波、ここどこ?」
「あっ起きたの?保健室だけど…」星波は『何で?』と言いたげな顔で答えた。
「いつも起きたら病院だからさ…」
「えっ…病院?」
もういいや。星波になら…
「僕、体弱いの。心臓も悪くてさ…」
「えっ?まじ…で?」星波はいきなりそんなことを言われて、驚いていた。
「うん。高校入るまで入院してた…」
「悠斗…」
「ごめんな、いきなりこんな話して」
「ううん。じゃあさっきも辛かったろ?ゆっくり休みなよ」そう言って笑ってくれた。
僕はすぐ兄貴に迎えきてもらい、家でゆっくり休むことが出来た。
***
「で、何でこうなるんだよ」僕がそう言うと、兄貴は
「仕方ないだろ?」そう言って僕の頭をなでた。
僕はあの夜、薬じゃ抑えられない発作がおきて病院に運ばれ、そのまま入院になった。
「何で僕なんだよ。何で、何で…」そんなこと言ったって『仕方ない』のは分かってる。
だけど、『何で』って止まらなくて…
「悠くん…落ち着いたら退院許可だすからさ」
「落ち着いたらっていつだよ。何で僕…ゲホっ…ゲホ」
「ごめんな、兄貴何にも出来なくて…」
「兄貴はいつもいつも『ごめんな』って…本当に兄貴は何にも分かってない…はぁはぁ」
「悠くん…」
「兄貴…はぁ…僕は…はぁはぁ」言いたいことはあったのに、息が苦しくなってきた。
「ごめん。兄貴は何にも分かってない。でも…今は兄貴の言うこと聞いて」そう言って兄貴は先生の顔になった。
「悠く~ん、ゆっくり息しようね…過呼吸になってるから苦しいだろ?」
僕は確かに苦しかったけど、兄貴の言うことなんて聞きたく無かった…
「悠くん、ちゃんと聞いて。先生の言うこと聞いて」兄貴は焦っていた。
「…はぁはぁ…っ…ゲホゲホ」
「発作に繋がるから…お願い」
必死に呼びかける兄貴の言葉を聞きながら、僕は意識を飛ばした。
「ん…ゲホゲホ」
起きると、いつもとは違う部屋だった。
腕には点滴、口元には酸素マスク…
今いつだろう…そう思ってカレンダーを見たが、分かるはずなかった。
僕は、ベッドに備えてあるナースコールを押した。