3.
今日は、担任の先生が三者面談をしに来る日だ。
僕は仮にも受験生。志望校くらいは決めておかないと…
今日は体調が良いってわけでは無かったから、兄貴から
「無理はしなくていいからな。というか、絶対するな」って言われた。
「こんにちは~。悠斗くんの担任をしています金本と言います」そう言いながら、先生が入ってきた。
「今日はよろしくお願いします。あっ悠斗の兄です」そう言って、兄貴は先生を座るよう勧めた。
ベッドに寝たまま先生と話していた時、かなり気持ち悪くなってきて、僕は
「ごめん、兄貴トイレ行ってくる」そう言ってベッドから起きた。兄貴は小声で
「大丈夫か?気持ち悪い?」そう言って僕の顔を見つめた。僕は
「へーき」そう言って兄貴が先生に話しかられている間に病室を出て、おぼつかない足どりでトイレに向かった。
<蓮side>
僕が先生に話しかけられている間に、悠くんは病室を出たようだ。
「へーき」なんて言っていたけど、絶対平気じゃない顔だった…
10分たっても悠くんは戻って来なかったから、流石に焦って来た。
どこかで倒れてるんじゃないかって…
「すいません、ちょっと悠斗呼んで来ますね」そう言って僕は病室を飛び出した。
トイレに向かうと一つだけ個室が閉まっていて、中から荒い呼吸が聞こえてきた。
「悠くん!!兄貴だけど…」僕がそう言うと、悠くんは扉を開けてくれた。
悠くんは結構戻しているのにまだ気持ち悪いみたいで、顔からは完全に血の気が引いていた。
吐き気が収まったのを感じて、僕は悠くんを抱いて仮眠室に連れて行った。
仮眠室にしたのは、前、悠くんが
「心配かけたくない」って言っていたから。
病室に連れて行けば先生が心配してしまう…
そんなこと考えなくてもいいのに…そう思ったけど、やっぱり嫌らしい。
「悠くん、気持ち悪くなったらこれに戻していいからね」
「うん…ありがとう」
「もう少し先生と話すから、苦しくなったら兄貴呼べよ。おやすみ」そう言って悠くんの頭をなでたあと、僕は病室に戻った。
「あれ?悠斗くんは…?」
「ちょっと具合悪いみたいで…」
「大丈夫なんですか?」
「今は寝ているんで…」僕は先生が心配しないように、明るく言った。
一通り話し終わって、先生は
「では、これで失礼します」そう言って席をたった。僕は先生に向かって
「ここまで来てくださってありがとうございました」そう言って頭を下げた。
悠くんを病室に連れて行こうと仮眠室を覗くと、悠くんはすやすやと眠っていた。
顔色も少しは良くなっていて、僕はかなり安心出来た。
病室のベッドに寝かせると、
「ん…?」って悠くんが眩しそうに目を開けた。
「おはよ。もう体調良さそうだな」そう言って僕は悠くんの頭に手を置いた。
「兄貴何すんだよ」って悠くんは恥ずかしそうに僕の手をどかして笑った。
「それでさ、先生と何話したの?」
「えっと…悠斗の高校のこと」僕は当たり前のことを言ってしまった。
受験のための三者面談なんだから
「だから、僕、どの高校行けるの?」
「それは…」
先生の話によると、悠くんは出席日数が少なすぎるから推薦は貰えないそうだ。
だからどうしても受験はしないといけないって…
でも悠くんは努力家で、入院生活の中でも勉強を頑張っている。
僕は無理するなって言っているのに、少しでも体調が良かったら、机に道具を広げて…
そのおかげで、この前期末テストを受けるために学校行かせてあげたとき、返ってきた結果は200人中1位だったけど…
本当に悠くんの努力は脱帽ものだ。
だから、受験は心配していないんだけど…やっぱり心配なのは体調だ。
受験日に体調悪かったら本当にかわいそうだから推薦貰えれば良かったんだけど…
「まぁ受験する高校は悠くんが決めていいけど…」
「うん…あのね、僕行きたい高校があるの…」悠くんが行きたいって言った高校は、地区一番の進学校だった。
「悠くんは努力家だから行けるさ。でも無理は禁物な」そう言って僕は悠くんの頭をなでた。
「うん…ごめんね、また迷惑かけちゃう」って悠くんは僕を上目遣いで見つめた。
(可愛い~)なんて思ったのは置いといて、
「迷惑だなんて一回も思ったことないよ」そう言って笑った。