18.
私に重大な任務が課せられた。
それは、蓮くんが仕事のときに、にぃにをしっかり看ておくこと。
そうすれば、蓮くんが安心して仕事に行けるし、もしにぃにの容態が変われば、すぐに知らせられる。
「叶、おはよう」
そう言って、悠くんは眩しそうに目をあけた。
「おはよう。ってもうお昼なんだけど」って勉強の手を止めてにぃにに向き直ると、
「もうお昼か…叶は宿題終わった?」にぃにはそう言って笑った。
「うん!終わったよ。あっご飯今から食べるけどにぃにもいる?」
「ごめんな、食欲なくて…叶食べな?」
にぃには寂しそうに言って、私の頭をなでた。
「ただいまー」
「おかえりなさい。ご飯あるよ」
「うん。食べようかな…あっ悠くんの調子良さそう?」
「うーん…お昼一回起きたんだけど、また寝ちゃって…」
「顔色は良さそうだな…ありがとね、叶ちゃん」
そう言いながら、蓮くんは私の頭に手を乗せた。
「今日のご飯どう?」
「凄い美味しい!!叶ちゃんのご飯は最高だなぁ」
「ありがとっ」
一年前くらいから、ご飯の担当は蓮くんから私に代わった。
まだにぃには私のご飯を食べてないけど、食べてくれれば嬉しいな…
「ん…ゲホゲホ」
「悠くん、おはよう。気持ち悪くない?」
「うん。何か美味しそうな匂いだね…僕も少し食べたい」にぃにはそう言って、起き上がった。
「本当!じゃあついでくるな」
蓮くんは嬉しそうだった。
にぃには最近食べられてなかったみたいだから…
「うわっ兄貴、このチャーハン美味っ」
「にぃに、このチャーハンね、私が作ったんだよ」
「本当?凄い美味しい」
にぃには、美味しそうに食べてくれた。
「悠くん無理するなよ?」
「うん。ごちそうさま」
にぃには、蓮くんがついだチャーハンを、完食してくれた。
「にぃに無理してない?」
「無理してないよ。凄い美味かった…ありがと、叶」
にぃにに頭をなでられ、凄い嬉しかった。
頭痛いな…っていうか、気分悪い…
でも、私が心配かけるわけにはいかない。
蓮くんも忙しいし、にぃにはもっと大変だから…
重い体を起こして台所に行き、朝ご飯を作った。
作り終わったころ蓮くんと眠そうなにぃにが起きてきて、食卓についた。
「おはよう。朝ご飯出来たよ」私は、蓮くんたちにばれないように、わざと明るく言った。
なのに、医者だからか蓮くんは鋭くて、
「どうした?叶ちゃん具合悪い?熱測っておこうか」そう言われてしまった。
「大丈夫…」
そう言ったとき、にぃにが咳き込み始めた。
「ゆっくり息しような…大丈夫だから…ね?」
だいぶにぃにの咳が収まって安心したと同時に、吐き気が襲ってきて、私はトイレに駆け込んだ。
「はぁはぁ…おえっ…」
気持ち悪いのに、全然出なかった。
それでもっと気持ち悪くなって…
コンコン
「叶?大丈夫?」
にぃにだ。にぃにには心配かけちゃだめだ…
私はドアを開けて、
「何?どうしたの?」そう言って笑った。
にぃには私のおでこに手をあて、
「ほらあつい。熱あるよ?」そう言って地面に座り込んだ。
「にぃにの方こそ…大丈夫?」
にぃには肩で荒い息をしていた。
辛そうに…
辛いはずなのに、にぃには、
「にぃには体力無いだけだから…叶は無理しちゃだめだろ?」そう言って私の背中をさすった。
それで吐き気が戻ってきてしまい、私はその場で戻してしまった。
「ごめんにぃに…にぃにの方が辛いでしょ?」
「にぃにはお兄ちゃんだから我慢出来るの。な?妹の叶は無理しない」そう言ってにぃには笑った。
「悠くん?叶ちゃん?」蓮くんが、なかなかリビングに戻って来ない私を心配して、トイレにやってきた。
「兄貴、叶が戻しちゃって…熱もありそうだから」
「分かった。叶ちゃん、リビング戻ろうか…ごめんね、さっき熱測ろうって言ったのに忘れちゃってて」
「ううん。でもにぃにが…」
「今日はお兄ちゃん休み取るから大丈夫だよ。叶ちゃんはゆっくり休もうな」そう言って蓮くんは私を軽々と抱き上げ、リビングに連れて行った。
<蓮side>
僕は、叶ちゃんをリビングに寝かせて、戻してしまったものを片付けようとトイレに向かった所に…
「はぁはぁ…っ…」悠くんが、ティッシュを持って壁に寄りかかり、胸をぎゅっと掴んでいた。
「悠くん!!大丈夫だから…ね?ゆっくり息しような」
「はぁはぁ…兄貴…叶は?」
悠くんは、自分が辛い状況なのに、叶ちゃんのことを心配していた。
悠くんは昔からそうだ。
自分のことより叶ちゃんのことで…
「叶ちゃんは寝てる。それより悠くん…薬は?」
「まだ…っ…飲む…から…はぁはぁ」そう言って悠くんは薬を口に入れた。
「じゃあリビング行こうか…あっソファー叶ちゃんが寝てる…」
「床でいい。ごめんな兄貴…」
「ごめんね床で…あとで布団持ってくるから…」
僕は悠くんをソファーの下に寝かせると、悠くんが握りしめていたティッシュを取って、もう一度トイレに向かった。
「ん…ゲホゲホ」
「ごめん悠くん、起こしちゃった?布団持ってきたからさ…」
「ありがと…叶大丈夫?」
「うん。だから安心しな?」僕が悠くんの頭をなでてあげると、悠くんは安心したように眠りについた。
「蓮くんおはよう」
「おはよう。具合はどう?」
「うん。もう大丈夫…ごめんね、迷惑かけて」
叶ちゃんは下を向いて、今にも泣き出しそうだった。
「迷惑なんかじゃないよ。な?だから泣かないの」僕はそう言って叶ちゃんの頭をなでてあげた。
「うん…」
「夕ご飯食べれそう?お粥がいいよね?」
「うん。作ってくれるの?」
「当たり前だろ?美味しいの作ってやるよ」僕は笑顔で台所に向かった。
「叶ちゃん、美味しい?」
「美味しい…んーだってお粥じゃん」
「ごめんごめん…今日はこれで我慢な。明日もっと美味しいご飯作ってあげるからさ」
「うん!蓮くんありがとっ!」叶ちゃんはそう言って笑った。
この笑顔は反則だよ…
何でもしてあげたくなっちゃうじゃん…
「蓮くん、私部屋で寝てるね。おやすみ~」
「うん。おやすみ」
僕は叶ちゃんを部屋まで送って、リビングに戻った。
「…はぁはぁ…はぁはぁ」
悠くんは叶ちゃんの部屋に行っている間に起きたみたいで、ソファーにもたれかかって荒い息をしていた。
「悠くん大丈夫?横になっとこうな」って僕は、ソファーの上に悠くんを寝かせた。
「夕ご飯どうする?」
「いる。食べたい」悠くんは、目をぱっちり開けて僕を見つめた。
「うん。もう出来てるからな…ついでくるよ」
僕は悠くんの頭をなでてから、台所に向かった。
「起き上がろうな」僕はそう言って悠くんの体を起こした。
「ん…兄貴、気持ち悪い」
悠くんが目をぎゅっと瞑ったままそう言ったから、僕はお粥をテーブルに置いて、
「戻しそう?戻しちゃっていいよ」そう言って背中を優しくさすった。
「ううん。でもめまいが気持ち悪い…」
悠くんは辛そうだったから、僕はもう一度寝かせてあげた…
多分血圧が下がっているんだろうな…
だから座っていると、血液が滞ってめまいが酷くなって…
辛いだろうな…
「兄貴…」
ご飯食べたいよな…
「じゃあ少しだけ体起こそうか。兄貴が支えておくからさ」
「うん。ごめんね」
三口くらい食べ進めたとき、悠くんが泣きだしてしまった。
「どうしたの?やっぱり辛かった?」
「うん…もう要らない」
「辛いな…ごめんね」
僕は支えていた手を外して、寝かせてあげた。
悠くんはそれからもあまり食べられず、体力を回復出来ないまま、病院に戻った。
その間に叶ちゃんは復活したみたいだけど…
でも少しは悠くんの不安、軽減出来たかな…




