13.
無理やり退院してから、早くも一年がたった。
体調は良くなく、寝てばかりだけど、やっぱり家の方がいい。
叶は毎日ウキウキで僕に学校であったことを話すんだ。
そんな叶の話は楽しくて、それを話す叶は可愛くて…
今日も食欲は無くて朝ご飯があんまり食べれなかったから点滴をされたみたいだ。
もう少しで終わりそうな点滴が腕についていた。
(暇だなぁ…テレビでも見るか)
僕は点滴が終わるのを待ってそーっと抜き、リビングに向かった。
ソファーに寝転がって、テレビをつけた。
時間を見ると、もうお昼だった。
(結構寝たな…僕)
そう思いながら、ザッピングをしていると、兄貴が帰ってきた。
「おかえりー」
「悠くん起きてたの?具合は?」
「別に普通…」
「良かった…じゃあご飯作るな。食べられそう?」
「分かんない」僕がそう言うと、兄貴はニコニコしながら、
「作ってみるから食べられそうだったら食べな」そう言って台所に向かった。
「悠くん、卵雑炊だけど食べれる?」
「うん…いただきます」
卵雑炊は優しい味で、美味しかった。
僕が半分くらいを残して箸をおくと、兄貴は
「頑張って食べたな。美味しかった?」って言って笑った。
「美味しかった。けどごめんね、残しちゃって」
「ううん。美味しかったなら良かった」
兄貴は底なしに優しいんだ。
例えるなら、そう…
荒れた日本海じゃなくて、広くて穏やかな太平洋!!
***
今日は朝から具合が悪かった。
起きるのもきつくて、ベッドの上で汗だくになっていた。
「悠くん辛いな…」
「兄貴…お茶ちょうだい」僕がそう言うと、兄貴はお茶を注いできてくれた。
「今日は仕事休みだからな。ずっと居るよ」
兄貴はそう言いながら僕の汗を拭いてくれた。
「ありがとう…兄貴お茶~」熱が高いせいか、いくら飲んでも喉が渇いて仕方なかった。
「ごめんな。もう無理…点滴の水分があるからさ」
僕には水分制限があったんだ…
水分制限を守らないと薬の効果が消えてしまうらしい…
「やだよ。嫌だ。兄貴お茶」
僕はただをこねた。そんな僕に兄貴は
「ごめんね」そう言いながら僕の汗を拭うだけだった。
「兄貴…喉渇いた。ねぇ兄貴!!ゲホっ…ゲホゲホ」
<蓮side>
悠くんは朝から具合が悪いようだった。
起きるのもきついそうで、ベッドの上で汗だくになっていた。
喉が渇いているようで、何度も何度もお茶を欲しがったが、そんなにあげるわけにはいかない…
でも、熱のせいでうるうるしている瞳で見つめられ、僕もあげないのが辛かった。
「兄貴…喉渇いた。ねぇ兄貴!!ゲホっ…ゲホゲホ」
「ごめんな…」僕はそう言って悠くんの背中をさすってあげるだけだった。
「悠くん、リビング行こうか。ソファーで寝ていよう?」
「うん…」
僕は悠くんを抱いて、リビングに向かった。
僕が何をしていても、リビングだったら目が届く。
だからもし悠くんの容態が急変すれば、すぐに対処が出来る…
「兄貴…喉渇いた」
「一口だけな。本当に少しだよ?」
僕はそう言って、台所に向かった。
「体起こそうか…」僕は悠くんの体を起こしてあげて、コップを渡した。
悠くんはすぐに飲み干した。
そして、
「兄貴ありがと」そう言って笑った。
体を寝かせてあげると、すぐに夢の世界に入ったようで、おだやかな寝息が聞こえてきた。
僕は緊張の糸が切れたみたいで、悠くんの寝顔を見ながらそのまま眠りについた…
「蓮くん、ただいま」
肩を軽く叩かれた。
「えっ…叶ちゃん?」
「うん。ただいま」叶ちゃんはそう言って首を傾げた。
時計を見るともう4時で、寝過ぎたことを示していた。
「ごめんね叶ちゃん…おかえりなさい」
僕がそう言って叶ちゃんの頭をなでると、叶ちゃんは恥ずかしそうに笑った。
「宿題あるだろ?先に済ませておいで」
「うん!」叶ちゃんはそう言って部屋に入っていった。
悠くんはまだ気持ちよさそう…とは言えないけど、すやすや眠っていた。
(よし、仕事するか)
僕は悠くんが寝ているソファーの前のテーブルにパソコンを広げ、デスクワークを始めた。
「ん~兄貴…」
「悠くん起きたの?具合はどう?」
僕はそう聞いたけど、悠くんの顔色はかなり悪くて、具合が悪そうなのは分かりきっていた。
なのに悠くんは
「へーき」そう言って笑った。
(絶対平気じゃ無いよな…)
「まだ今日何も食べてないよな?お腹すいた?」
「ううん。へってない」
「そうか…まぁ一応作るからな」僕はそう言って台所に立った。
「お粥作ったけど…」僕はそう言って、テーブルの上にお粥をおいた。
「……」
「悠くん?」
悠くんはまるで気づいていないように、目をつぶったままソファーでゴロゴロしていた。
「どうした?辛い?」
「ううん」悠くんはそう言いながら、ソファーに座った。
僕が悠くんの隣に座ると、悠くんはお粥を手にとって…
-床に投げつけた。-
お粥は床にひっくり返って、食べれる状態じゃ無くなっていた…
「悠くん…?」
「お粥なんて要らないよ」
「ごめんね食べたく無かった?」
「うるさい!!」
悠くんは僕の話を遮るように言葉を挟んだ。
「ごめんね…何か食べたかったのあるの?」
「……」
「悠くん…何が食べたい?」
『ハンバーグ…』
その可愛らしい答えに、僕からは自然と笑みがこぼれた。
「じゃあハンバーグ作るな。とびきり美味しいやつ作ってやるから」僕は悠くんの頭をなでてから、台所に向かった。
「悠く~ん、すぐには出来ないから寝ときな?」
「ん…」
「おやすみ~」
僕は悠くんが寝たのをみて、悠くんが投げつけて、散乱してしまったお粥を片付けた。
(悠くんごめんね。美味しいハンバーグ作ってやるから…)
「叶ちゃ~ん、ご飯出来たからこっちおいで」
「はーい」
叶ちゃんはウキウキでリビングに来た。(今日は何かな~)って…
「悠くん起こしてくれない?」
「うん!にぃに、起きて。ご飯だよ」
「ん~叶?」
「ご飯出来たよ」
「叶ちゃ~ん、おかず運んでくれない?」
「はーい」
僕が席についても、悠くんはまだ起きてなかった。
「悠くん具合悪い?」
「ん…へーき」悠くんはそう言って起き上がり、席についた。
悠くんは絶対無理しているけど、ハンバーグを見て嬉しそうしているから、見逃してあげることにした…
「いただきま~す」
叶ちゃんはハンバーグに豪快にかぶりついた。
「ほら叶ちゃん、女の子でしょ?ちゃんと切って食べなよ…悠くんにナイフの使い方習ったんじゃなかったっけ?」
「はいはい。でも蓮くん、ハンバーグ凄い美味しい!!」
嬉しいこと言ってくれるな…
「ありがとな」僕はそう言って笑った。
悠くんは…ハンバーグを小さく小さく切って、少しずつ口に運んでいた。
それでも、いつもの倍はもう食べていて、逆に心配になった。
無理しているんじゃないかって…
「悠くん、無理しないでよ…美味しい?」
「うん!兄貴ごめんね…」悠くんはそう言ってばつが悪そうに笑った。
「ううん。美味しいなら良かった」
僕はそう言って悠くんの頭をなでた。
「ごちそうさま」悠くんは半分くらいを残して箸をおいた。
いつもの悠くんにとってみたら、かなり食べた方だ…
(無理してないかな…)
僕が洗い物をしていると、悠くんがおもむろに立ち上がった。
ふらふらと廊下に向かう…
「悠くんどうしたの?」
「ちょっとトイレ」
「大丈夫?」
「別に」
そう言った悠くんの表情は見えなかったけど、怒っているようにも感じた。
「分かった…」
僕はそう言ったけど、心配で仕方なくて…。
五分たっても悠くんは戻って来ず、僕は急いでトイレに向かった。
「…はぁはぁ…うぅ」
悠くんはトイレの前で、しゃがみこんでいた。
そして顔色は青白く、荒い息を繰り返していた。
「悠くん…大丈夫か?」
「…兄貴…うぅ…おえっ…ゲホゲホ」
悠くんはその場に戻してしまった。
「気持ち悪いね…大丈夫だから全部出しちゃおうか…」僕はそう言って悠くんの背中をさすってあげた。
悠くんはそのまま戻し続けて、かなり辛そうだった。
吐き気が収まったらしく、悠くんは僕の方を向いた。
「ごめんね兄貴…ごめん」
「悠くん?」
「ハンバーグ全部戻しちゃって…」
「ううん。また作ってやるからな」
「うん。ごめん」
僕は泣きそうな悠くんを抱いて、部屋に連れて行った。
「口の中気持ち悪いだろ?ほらお水飲もうか」
「ありがとう」悠くんは一口だけ水を飲んで、眠りについた。




