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11.

起きるといつもの病室だった。

「おはよう」って言ういつも通りの優しい兄貴の声。

いつも通りの朝日の眩しさ。


すべてがいつも通り…では無かった。


熱い体。その中でもおでこだけはひんやりしていて…

しかも、体全体が重く、起き上がれなかった。


「兄貴…僕熱あるの?」

「だろうな、まだ測ってないけど…辛い?」

「分かんない。昨日無理し過ぎたからな…」


ちょっと反省。本当にちょっとだけ


「熱測るから今日は安静にな。兄貴仕事あるから…」

「うん、ごめんね」僕はそう言って笑った。


体温38,5。


数字を見た途端にきつくなってきた。

「じゃあおやすみ。気分悪くなったら遠慮せず兄貴に連絡してね」

兄貴はそう言って病室を立ち去っていった。


それと同時に僕は夢の中…



僕が体力はかなり落ちていたようで、熱が下がらないまま一週間がたった。


「おはよう。具合はどう?」

「分かんない。もう慣れちゃったな」僕がそう言って笑うと、

「それは困るな」とか何とか言って、自分の手を僕のおでこに乗せた。


ひんやりして、気持ち良かった。


「このままだといつ発作おきてもおかしくないからさ、解熱剤でも入れようか。熱が下がれば少しは楽になると思うし…」

「うん…仕事あるのにごめんね」

「悠くんはそんなの気にしなくていいの」兄貴はそう言いながら、準備をし始めた。


「少しチクッとするよ…」兄貴はそう言いながら僕の腕に針を刺した。

結構痛いんだけど、小さい頃からされすぎて慣れた気がする…

まぁこんな事で嫌がってたら兄貴に迷惑極まりない。


「ありがと…て言うかさ、兄貴にお願いがあるんだけど」

「何?聞いてあげるよ」

「あのさ、熱下がったらでいいからさ、退院させてくれない?」

「えっ…?あっ…」

兄貴の手が止まった。

「無理なら学校行かなくてもいいからさ…ねっ?」僕は自慢の上目遣いで兄貴に頼んだ。

「お願い、先生」

「いいよ。学校は調子の良いときだけな」

「えっマジ?」

兄貴がこんなに簡単に許してくれるとは思わなかった。

だって今絶賛体調崩し中なのに…


「だから早く熱下げような。今日も安静に」兄貴はそう言って僕の頭をなで、病室を出て行った。



3日後、僕に退院の許可が出た。


(体調はそんなに良くないし、絶対に特例だ…)

そう思いながらも、僕はゆうゆうと久しぶりの家に帰った。


<蓮side>

今日、僕は悠くんに退院の許可を出した。

いつ発作がおこるか分からないし、体調も良いわけでもないのに…


だって悠くんの望むことだから…


本当に

『病は気から』

それは存在する。


悠くんが、ぎりぎりまで楽しい思いをしてくれたら僕はそれでいい。

もう高望みはしない。


本当はもっと生きて欲しいよ。

病院で治療して、もっともっと長く…


出来れば手術も…


でもそれを悠くんは望まないんだ。

悠くんの望み、それは


家で過ごすこと


それを兄として、主治医として叶えてやりたい。


だから僕は笑って退院させた。


兄として、主治医として、その判断は間違っていたかもしれない。

でも…


『悠くんが楽しい方を選択する』


それじゃ駄目だろうか…


家に帰るなり、悠くんはソファーで寝てしまった。

その綺麗な美しい寝顔を見ながら、僕は一筋涙を流した。


その涙は頬を伝わって地面に落ちる…


僕はその涙の跡を拭って、悠くんに話しかけた。

「これからいっぱい楽しもうな」


叶ちゃんは家に帰るなり、悠くんの頬をつついたり悠くんの寝顔を見て笑ったり…

「叶ちゃんどうしたの?悠くん可愛い?」

「うん!いつもはにぃにだけどこうして寝てると弟みたいだね」叶ちゃんはそう言って笑った。


そんなこと言うと悠くん怒るんじゃない?

叶ちゃんの前では必死に『お兄ちゃん』してるんだから…


「蓮くんの真似~」そう言って悠くんの頭をなでた。

僕の真似らしい…

「叶ちゃん今日は『お姉ちゃん』なのかな?」

「そうだよ。今日はにぃにのお姉ちゃん!!」

(にぃにのお姉ちゃん?)なんて言うツッコミは置いといて、

誇らしげに胸を張る叶ちゃんは一段と可愛かった。


「ふゎぁ~寝てた…あっ叶ちゃんおかえり」

悠くんが起きるなり、叶ちゃんは悠くんの元に走っていって、隣にちょこんと座った。

「あのね、今日ね…」

「どうしたの?良いことあった?」

「うん!先生に褒められたの。棚が綺麗ですねって」

「それは凄いな…」悠くんはそう言って叶ちゃんの頭をなでてあげる…

頭をなでられたことでニヤニヤしながら喜んでいる叶ちゃんはやっぱり『妹』だった。


「今日は夕ご飯なにがいい?」

「叶はね…チャーハン!!」

「悠くんもそれでいい?」

チャーハンなら塩分控えめに作れそうだ

「うん…でもお腹すいてない」

悠くんはもうウトウトしていた。

「にぃに眠いの?」

「そだね…おやすみ」悠くんはそう言いながら部屋に入っていった。



そんなに調子は良くないらしく、学校には行けなかったし、寝ていることが多くなった。

でも、僕と話すとき、叶ちゃんの話を聞くときの悠くんは楽しそうで、本当に良かった。


それに、退院したことを星波くんに伝えたらしく、星波くんが遊びに来てくれるようなった。

たまに車いすに乗ってコンビニとかに出かけているらしい…


『出かけるときは車いす』これは僕らで決めたルールだ。

悠くんはちゃんと守ってくれている。


夕ご飯はたまにしか食べてくれないけど、コンビニで買ったパンケーキを持ってきて、

「食べたいな~」なんてこれ見よがしに見せつけてくる。

だから仕方無く4分の1にカットして、

「夕ご飯もしっかり食べろよ」そう言ってあげるんだ。

まぁ夕ご飯食べないときもあるんだけど…



叶ちゃんは相変わらず、悠くんのお姉ちゃんを演じようとして、演じきれていなかった。

それがやっぱり可愛くてたまらない。



そんな中、恐れていた事態がおきた…

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