表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/19

10.

まだ冬の始めだって言うのに、僕はジャンバーにマフラー。

風邪を引かないようにらしいけど…


「兄貴、雪降らないかな?」

「降ってほしいの?」

「だってせっかく外来たんだよ、雪触らないと…」僕がそう言うと、兄貴は困った感じで

「今日は暖かいから降らないかも」って言った。

それに反応して、

「叶も雪触りたかった」そう言って叶は頬を膨らませた。

「だね、にぃにも触りたかった~」

僕らは空を睨みつけた。


<蓮side>

僕らがデパートに向かって歩いていると、

「少し時間ありますか?」って話しかけられた。

悠くんをあんまり外に居させたくなかったから、

「すいません…」そう言って断ろうとしたけど、その人もしつこかった。

「少しだけでも…モデルの仕事とか興味無いですか?」って。

悠くんにスカウトか…

「えっ…僕?」悠くんは全然聞いて無かったみたいだ。

それに、少し息が荒い。

「すいません…急ぐんで」

「じゃあ名刺だけでも…」

「兄貴、寒い…早く中入ろう」悠くんはそう言って僕の腕を握った。

その手は氷のように冷たくて、早く暖めてあげたかった。

「すいません、また」僕は投げやりに言って、デパートに入った。


<悠斗side>

僕らはベンチに座ってゆっくりしていた。


「もうお昼だね…何か食べたいものある?」って言う兄貴の問いに、

「パンケーキ!」って叶は答えた。

「パンケーキ!?悠くんは?」兄貴は笑いながら僕に聞いたけど、僕は全くと言っていいほど、食欲が無かった。

「僕は要らないから…」

「ん?疲れちゃった?」

「うん…ごめんね、まだ何にもしてないのに」

「にぃに大丈夫?」

「うん。兄貴と2人でパンケーキ食べな?」僕はじゃあ行こう。ってベンチから立ち上がった。

けど、そのまま地面にしゃがみ込んでしまった。

「…っ……」

「悠くん!?」

「大丈夫。立ちくらみだから…」そう言いながら立ち上がったけど、目の前が真っ白になって、兄貴にもたれかかってしまった。

僕はもう一度ベンチに座らされて、

「もう少し休んでおこうな」そう言われた。

「ごめ…ん」

「謝ることじゃないよ。気分良くなるまで座っておこう?」

「うん…」

「叶ちゃん、悠くん見ててくれる?」

「えっ?蓮くんどっか行くの?」

「ちょっとサービスカウンターまで」そう言って兄貴はサービスカウンターに走って行った。


<蓮side>

悠くんはやっぱり疲れているようで、まともに歩ける状態じゃない…

だけど、帰ろうとしたら悠くんが悲しむだろうから…

(悠くんをこれ以上疲れさせないようにしないと…)


僕はサービスカウンターに走った。


「すいません、車いす貸していただけますか?」

「どうされましたか?」

「弟が体調を崩してしまって、歩けなさそうなので…いいですか?」僕がそう言うと、受付のお姉さんは車いすを渡してくれた。

「ありがとうございます!どこに返せば…」

「あっ私の名刺を渡しておくので、サービスカウンターのどこかに私の名刺と返していただければ…」

「ご迷惑になりません?」

多分このお姉さんが取りに行くってことだろう…

「いえいえ、お大事に」そう言って綺麗な笑顔を見せてくれた。

「本当にすいません…ありがとうございます」僕は車いすを持って悠くんたちの元に急いだ。


悠くんたちの元に戻ると、悠くんの顔色はだいぶ良くなっていて、かなり安心できた。

でも、悠くんは車いすを見るなり顔をしかめた。

「悠くん、これ乗ってパンケーキ食べに行こうか」

「う…ん」

僕は悠くんを支えてあげながら、車いすに乗せた。 


悠くんの体は前にもまして痩せていて、今にも消えていきそうだった…


「パンケーキ何にする?」

「叶はね…これ!」叶は、アイスとブルーベリーが乗ったパンケーキを指差した。

「そんなに食べれるの?」

「ん…多分」叶はちょっと悲しそうな顔をしたから、

「食べれなかったらお兄ちゃんが食べてあげるって」そう言って笑った。


「僕はね…お腹すいてないな」って悠くんは机にうつ伏せた。

「やっぱりお腹すかない?」

「うん…っていうか僕食べちゃいけないだろ?」

「今日は特別に…って思ってたけどすいてないなら仕方ないね。すいたら食べよう?」僕はそう言って笑った。


注文したパンケーキが届くと、叶ちゃんは目をキラキラ輝かせて、

「美味しそう~」って笑った。

そんな叶ちゃんの姿に、自然と僕も悠くんも笑顔になって…


「叶、写真撮ってあげようか?」

僕が悠くんにスマホを渡すと、悠くんは楽しそうに叶ちゃんとパンケーキを撮っていた。

撮りすぎて、

「にぃにまだ?早く食べたい」って言われる始末だった…


まだ上手くナイフとフォークが使えない叶ちゃんに、悠くんは手取り足取り教えてあげていて、叶ちゃんは上手に使えるようになっていた。


「にぃに、あーん」叶ちゃんはそう言って小さく切ったパンケーキを悠くんの口元に持っていった。

「ん?叶ちゃん食べなよ」

「にぃに、食べて」叶ちゃんにそう言われて、悠くんは口をあけた。


「美味っ!!」悠くんはとびきりの笑顔になった。

いつものご飯は薄味だし、甘いお菓子なんてほとんど食べさせていなかった。


それは悠くんの体調を考えて…


でも今まで物足りなかっただろうな…

これからはもう少し食べさせてもいいかも…


僕はそう思いながら、笑って2人の様子を見つめた。



それから、叶ちゃんから言われるまま洋服を見に行って、洋服を買ってあげたり、雑貨屋に行ってみたり。僕も大概の兄ばかだから…



「じゃあ今日はもう帰ろうな」僕は悠くんの体調が悪くならないうちに帰ろうと促した。

でもまだ何も分からない叶ちゃんは案の定

「えー叶はまだ帰りたくない」って頬を膨らませた。

「いつでも来れるから暗くならないうちにさ…」

「ごめんね、叶」そう言って叶ちゃんの頭をなでる悠くんの顔色は青白くて、辛そうだった。


<悠斗side>

座っているだけとはいえ、今日は少し無理し過ぎたな…


体はだいぶ熱を帯びてきたし、胃から何かが上がってくるような感覚が気持ち悪い…

そして、何より眠い。

少しでも油断すれば、意識が持っていかれそうだ。


「悠くんごめんね、一旦降りようか」そう言って兄貴は僕を車いすから下ろした。

もちろん、僕は兄貴の背中の上。

恥ずかしいから嫌だって言ったんだけど、兄貴に抵抗するだけの力は残ってなくて…


(この状態で電車か…)そう思っていると、目の前にタクシーが停まった。

「兄貴…はぁはぁ」

「結構息荒いな…辛い?」

「ううん、大丈夫…電車じゃ無いの?」

「ごめん電車が良かった?タクシーの方がゆっくり出来ると思って…」兄貴はそう言いながらタクシーに僕を乗せて、自分も乗り込んだ。


当たり前だけど、タクシーの方が電車と比べて何倍も高い。

それだけ兄貴の負担も大きくなる…


確かに僕はタクシーが良かったけど…


「どこまで?」という運転手さんの問いに、兄貴は

「中央病院までお願いします」そう答えて、僕を見つめた。

「どうしたの?」


「ううん。今日は楽しかったね。また行こうな」兄貴はそう言って笑った。

『また』…またっていつのことを指すのだろう…

こんな僕にまたなんて来るのかな?


僕はそう思いながらも、

いや、だからこそ言った。


「また行こうね」


僕は熱いものを一筋流して、ゆっくりと眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ