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第三話【止まれない、止まらない】



翌日の朝、そのことを知った僕らはただ唖然とするしかなかった。

信じられない、信じたくない。

誰もがそう思っていて。

最初に動いたのは、杜希だった。

口元を手で覆って、ふらふらと眠る裕也に近づくと、涙を零しながら力なく言葉を漏らした。

「生きれるって、言ったじゃん」

その言葉で、僕らは現実を理解した。

――裕也が死んだんだ。

自殺ではなく、病気で。

ベットに横になる裕也は、本当にただ眠っているだけに見えて……触れてみて冷たいことが、確かに裕也が死んでいることを証明していた。

その顔に苦しみは浮かんでいなかった。

幸せそうに、口元に笑みを浮かべていた。

「裕也…………」

僕は込み上げる涙を必死にこらえて、精一杯言葉を紡ぎだした。

「良い夢でも、見てんのか?」

僕は裕也の髪をクシャクシャと撫でながら、独り言のように言葉を吐き出す。

「裕也は頑張ったよ、頑張ったよ……。陽斗がいなくても、生きようとしてた。昨日の言葉が嘘じゃないってこと、皆知ってるよ」

裕也は、太陽の光を受けて光る月のようだった。死に方だって、光を使い果たしたようにただただ静かに死んでいた。

太陽が沈んでしまった月は、輝きを失うのは時間の問題だったのかもしれない。

ただ裕也は、最後に自分の力で輝いた。

生きたいと、自分の口で、自分の意志で言った。

お前の今の穏やかな顔は、それを証明してるじゃないか。

「頑張ったよ、裕也は」

杜希はぽろぽろと涙を零し続け、俊は俯いて静かに泣いていた。

僕は泣かずに、ただそうずっと繰り返し呟いていた。



『世界の人口が急激に低下をしている。多くの医者が病気により命を落としたため、病院が機能しなくなった。元より、この病気は治療法が開発されていないから、医者が生きていたら何とかなるものでもなかったのだが……これにより更に人口は低下していくだろう。世界は確実に壊れているのだ』


「げほ、げほ」

僕はリビングで大の字に寝転がりながら窓から見える空を眺めた。

陽斗と裕也が死んだ。

残るは僕と俊と杜希だけ。

「発病してないなんて、なあ……」

僕は締め付けられ続けている胸を押さえた。

「本当は僕も……俊だって発病してるんだよ」

苦しくて仕方ない。

いっそすぐに楽になってしまいたい。

「だけど、それじゃダメなんだよなあ」

何よりそれをわかっている、感じている。

諦めてはいけないことも、生きることを信じる難しさも。

でも、陽斗と裕也を見てたら、生きなくちゃって思う。だから生きよう。

それは僕にとって、何より大切なことなのだ。

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