第三話【止まれない、止まらない】
*
翌日の朝、そのことを知った僕らはただ唖然とするしかなかった。
信じられない、信じたくない。
誰もがそう思っていて。
最初に動いたのは、杜希だった。
口元を手で覆って、ふらふらと眠る裕也に近づくと、涙を零しながら力なく言葉を漏らした。
「生きれるって、言ったじゃん」
その言葉で、僕らは現実を理解した。
――裕也が死んだんだ。
自殺ではなく、病気で。
ベットに横になる裕也は、本当にただ眠っているだけに見えて……触れてみて冷たいことが、確かに裕也が死んでいることを証明していた。
その顔に苦しみは浮かんでいなかった。
幸せそうに、口元に笑みを浮かべていた。
「裕也…………」
僕は込み上げる涙を必死にこらえて、精一杯言葉を紡ぎだした。
「良い夢でも、見てんのか?」
僕は裕也の髪をクシャクシャと撫でながら、独り言のように言葉を吐き出す。
「裕也は頑張ったよ、頑張ったよ……。陽斗がいなくても、生きようとしてた。昨日の言葉が嘘じゃないってこと、皆知ってるよ」
裕也は、太陽の光を受けて光る月のようだった。死に方だって、光を使い果たしたようにただただ静かに死んでいた。
太陽が沈んでしまった月は、輝きを失うのは時間の問題だったのかもしれない。
ただ裕也は、最後に自分の力で輝いた。
生きたいと、自分の口で、自分の意志で言った。
お前の今の穏やかな顔は、それを証明してるじゃないか。
「頑張ったよ、裕也は」
杜希はぽろぽろと涙を零し続け、俊は俯いて静かに泣いていた。
僕は泣かずに、ただそうずっと繰り返し呟いていた。
*
『世界の人口が急激に低下をしている。多くの医者が病気により命を落としたため、病院が機能しなくなった。元より、この病気は治療法が開発されていないから、医者が生きていたら何とかなるものでもなかったのだが……これにより更に人口は低下していくだろう。世界は確実に壊れているのだ』
「げほ、げほ」
僕はリビングで大の字に寝転がりながら窓から見える空を眺めた。
陽斗と裕也が死んだ。
残るは僕と俊と杜希だけ。
「発病してないなんて、なあ……」
僕は締め付けられ続けている胸を押さえた。
「本当は僕も……俊だって発病してるんだよ」
苦しくて仕方ない。
いっそすぐに楽になってしまいたい。
「だけど、それじゃダメなんだよなあ」
何よりそれをわかっている、感じている。
諦めてはいけないことも、生きることを信じる難しさも。
でも、陽斗と裕也を見てたら、生きなくちゃって思う。だから生きよう。
それは僕にとって、何より大切なことなのだ。