第三話【2】
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心地良い風が熱い身体を冷ます。
ああ、今日の夜空は綺麗だな。僕は空を見上げてぼんやりとそんなことを思った。
「陽斗は今そっちにいるのかな」
一足先に空へと消えた君。そっち側は苦しくないのかな。
それとも、死んでしまったら、楽になった?
……やっぱり、死ぬべきは僕だったんだと思う。
こんなわかりきった質問、口にしなくたって答えは見えてるんだ。陽斗は、楽になったなんて思っていない。
苦しかった? 苦しかったよね。だって君は生きたいって思ってた。だれより生きることを信じてたから。
もし、僕が陽斗より先に死んだら……。
君はそれでも必死に生きることができたと思う。
君は、太陽。
僕の代わりに輝こうとするんだろうな。
「…………けほ、けほっ」
目を閉じて深呼吸をする。夜の冷えた空気が胸に入り込んできて、少し落ち着かせてくれた。
「陽斗、あのさ」
僕は満点の星空を見上げて微笑んだ。
「僕もそっちへ行っても良いかな」
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「裕也……!」
杜希に呼ばれて急いで駆けつけると、裕也は杜希に抱きしめられて泣きじゃくっていた。
「想、俊……」
夏とはいえ、夜の病院の屋上は少し冷えていた。
「離して!! 死なせてくれ!!」
「裕也、やめて……!」
「僕は、僕は……!!」
杜希の腕の中で暴れる裕也に、僕はそっと近づいた。
「裕也」
僕が声をかけると裕也はビクッと肩を震わせ、僕の方を見た。
今度は絶対に上手く言葉にしなくちゃ。
僕は真っ直ぐに裕也の目を見つめた。
「笑おう。陽斗が笑ってたように」
「……想」
くしゃりと裕也の頭を撫でると、裕也は暴れるのをやめて、僕の腕に頭を預けた。
「裕也が死んだら、陽斗が言った願い事叶わなくなっちゃうじゃんか」
「願い事……?」
「杜希と裕也が元気になんなきゃ、陽斗の願い事叶わないよ」
『杜希にーちゃんと裕也の病気が治りますよーに!』
陽斗はそう言ってたんだから、叶えてあげないとだろう?
「進路も決めなくちゃ。そのためには、生きなくちゃ」
「うう……うええ」
「陽斗は」
夜風が僕らの頬を撫でる。
涙を拭おうとするように、優しい風がここには吹いていた。
「大好きな裕也が泣いていたら、きっと死ぬに死にきれないよ」
「うあああああ!!」
裕也は僕ら三人に囲まれながら、大きな声で泣いた。
僕らは裕也が泣き止むまで屋上にいた。
裕也はしばらくして落ち着いてくると、ポツリポツリとひとり言のように言葉を零した。
「僕、陽斗の所に行きたかった。一人じゃ生きていける気がしなくて……」
「ばか、お前は一人じゃないって」
「…………ごめん」
僕がポンポンと裕也の頭を再び撫でると、裕也は袖で涙を拭って、更に言葉を続けた。
「でも、ここ来たら風があまりにも気持ちよく吹いていて……なんか、陽斗が必死に僕に死ぬなって言ってるみたいだって思った」
「優しい風が吹いてるよね、今」
「あのね、裕也」
ずっと心配そうに裕也を見ていた杜希が、少し戸惑ったように裕也に何かを差し出した。
「これ、ベットの隅に置いてあったんだ。でも、裕也へって書いてあるから、多分置き間違えたんだと思う。タイミングが掴めなくて渡せなかった……ごめんね」
「これ……陽斗から?」
杜希が裕也に渡したのは、一枚の手紙だった。
裕也は杜希からそれを受け取ると、恐る恐るそれを読み始めた。
「………………」
「…………裕也」
手紙を読んだ裕也が、目に涙を浮かべながら微笑んだ。
良かった、裕也が笑った。
僕もそれを見て笑う。
「もう、死ぬなんて言わないか?」
「…………言わないよ、馬鹿」
皆の顔に、笑顔が戻った。
凄いな、陽斗は。手紙一枚で皆に笑顔に出来るなんて。やっぱり流石だよ。
「裕也、生きれるか?」
「生きれるんじゃなくて……生きたい」
「うん、良かった」
……もう、大丈夫か。
僕らは一度空を見上げると、屋上を去った。
裕也は手紙を力強く握りながら、僕達に明るい笑顔を見せて病室へと戻って行った。
『裕也へ。
ボクは裕也のことが大好きです。皆のことが大好きです。だから、ボクの分まで生きてください。
ボクはもう皆と一緒にはいられないけど、ボクの半分である裕也が生きているから、ボクはまだ皆の笑顔が見ることが出来るね!! だから、裕也も笑っていてね!
皆が元気をくれるから、僕も元気!! 裕也もきっと元気だよ』




