表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/16

第三話



「…………」

病室に戻った僕達は、ただ黙っていることしかできなかった。

胸に空いた大きな穴。大好きな空間に一人足りない。

それが僕達に重くのしかかり、現実を見せつける。そのあまりの重さに押しつぶされそうだ。

『この病気は、普通ではありえない死に方をするんだって』

誰かが言ってた。でも、そんなの全然信じてなかった。

死体すら残らない、陽斗の綺麗な死に方。最期に見せた眩しい輝きが本当に陽斗らしくて。

……陽斗、苦しかった? 痛かった? 辛かった?

死ぬ直前までそれに気づいてやれなくてごめんな。

「……陽斗」

声を漏らしたのは、裕也だった。

「陽斗、なんでいないの」

「裕也」

「なんで僕を置いていくの……」

裕也は震えながら、声を上げて泣いた。

「なんで陽斗が死ななきゃいけないんだよ……! あいつが一番治ること信じてたじゃんか」

「…………裕也、」

「嘘だ、嘘だっ!! あんなに元気だったじゃんか……あんなに笑ってたじゃんか……」

嗚咽を漏らす裕也の背中に手を伸ばすと、裕也は僕の腕を縋るように掴んだ。

「ねえ、想……僕は陽斗なしでは生きられない」

力ない裕也の言葉に、ずっと涙を堪えていた杜希が涙を零した。

つられるように、俊も泣いた。

「…………死ぬべきは、僕だったんだ」

「裕也」

「裕也、そんなこと……」

「僕が陽斗の代わりに死ねたら……!」

「裕也!!」

――バチン。

病室に大きな音が響き、皆は呆気にとられたように口を閉ざした。

僕自身、一瞬何をしたのか理解できなかった。

ああ、裕也を叩いたんだ。

気がついたら、大量の涙が頬を伝った。

「冗談でもそんなこと言うな!! 誰が死ぬべきでとか、そんなことあるはずがない!」

陽斗が死んで、一番辛いのは裕也だと知っている。

裕也は僕らよりずっと昔から陽斗と深い信頼関係を築いていた。

二人で一つだったんだ。感情も思い出も、二人でずっと分け合っていたのを、僕は見ていた。

でも、だからこそ、死ぬべきだとか言ってはいけない。

「陽斗はそんなこと望んでない」

頭がまとまらなくて、それしか言えなかった。

別の言葉を探そうとすると、胸がつかえ、頭が痛くなる。

……裕也に言いたいことが、言わなきゃいけないことは、もっとたくさんあるはずなのに、言葉にできない。

不甲斐ない。

「想、時間だ」

俊が時計を見て僕の腕を引っ張った。

病室にいる僕らは皆、俯いて前を見ることが出来なかった。



「想、大丈夫か?」

「俊……」

俊は自分も赤い目をしているのに、泣き止まない僕を心配していた。

ああ、本当こいつはいつもこうだ。僕が弱っている時、いつも隣にいてくれる。

「裕也痛かったかなあ……叩くのはやりすぎた」

「いや、想がやってなければ俺が裕也を殴ってた」

「殴るって……俊のは痛いからな」

僕は目を擦って、無理に笑顔を作った。

「ねえ、陽斗が言ってた。辛い時は笑えばいいって。そうすればね、苦しいの和らぐんだって」

「…………」

「あれ、嘘だね。全然、」

俊がそっと僕の背中を擦る。

僕は笑顔が作れなくなって、ボロボロとまた涙を零した。

「全然苦しいの治らないや」

陽斗がここにいたら、きっと悲しそうな顔をして僕を見るんだろうな。

だって、陽斗は僕らが笑顔でいることを何より望んでいるから。

「想、今はさ……泣いても良いんだ」

俊は自分も涙声になってそう言った。

「明日から、また笑顔になろう。俺らが笑ってることが、陽斗の望んだことだから」

「うん……うん」

「明日は、いつもに戻ろうな」

――いつも通りの日常が戻りますよーに!

陽斗の笑顔と明るい声が、鮮明に蘇ってくる。

「う、あああ!!」

僕らは思いっきり泣いた。

多分一生分泣いたと思う。

今ここで泣きつくしてしまえば、涙は引っ込んでくれるだろうか。

大丈夫、明日はもう泣かない。

裕也にも、ちゃんとした言葉をかけてやろう。

大丈夫、大丈夫、明日は何とかなるはずだよ。

ねえ、そうでしょ陽斗。

『大丈夫ですよ』

いつかの陽斗が、耳元で優しくそう囁いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ