第二話【太陽が消える】
「陽斗?」
突然、陽斗が皆を外に呼び出した。
僕はちょっと訝しむように陽斗に声をかける。
「病院抜け出すのは危険だって……」
「どうしたの、陽斗?」
皆も困惑気味だ。
「えへへ、どーしても見せたいものがあってね、お願い!! 今日だけついてきてください!!」
「……しょうがないなあ」
「今日だけだよ? そしたら、病院で大人しくするって約束するか?」
「約束します!!」
そう言うや否、陽斗は足早に歩き出してしまった。
「ちょ、陽斗速い……!」
「……待って」
陽斗の後を必死に追いかけていると、陽斗は突然足を止めた。
僕達は立ち止まって顔を上げ、息を呑んだ。
「な、何ここ……!」
「凄い! 綺麗だねえ」
「……陽斗、いつの間にこんなところ見つけたの」
「向日葵畑。ボクの大好きな場所です!!」
「すっげえ」
そこはたくさんの向日葵が咲き誇る、美しい空間だった。
空を見上げれば青く澄み渡った夏の空。太陽がきらきらと輝いていて、その光を讃えるように無数の向日葵が揺れている。
……なんて綺麗な場所なんだろう。
「あのね、ボクね」
陽斗は向日葵畑の中へ入って行って、空に手を伸ばした。
そして、明るい声で言い放つ。
「ボクね、皆のこと、大っ好きだよ!! ずっとずっと好きだよ!!」
「陽斗……?」
陽斗の額に、汗が浮かんでいた。
陽斗の身体は、小刻みに震えていた。
……それでも陽斗はその瞳で真っ直ぐに空を見据えていた。
「だからね、ごめんなさい、本当にごめんなさい!! 皆に悲しいって思ってもらいたくない。それがボクのお願いです!!」
「陽、斗」
理解した瞬間世界が崩れたような感覚に陥り、声が掠れた。
どうして、こういう大切な時に声が出ないのだろう。
どうして僕の身体はこうも僕の言うことを聞かないのだろう。
何で僕は陽斗の行動を止められないのだろう。
「ボク、空に願い事を持っていくよ」
陽斗の手から、腕から、その身体から、キラキラと光が溢れだした。
それは思わず見惚れてしまうほど、美しくて。
…………美しくて。
「杜希にーちゃんと裕也の病気が治りますよーに! 皆がいつまでも笑っていられますよーに! 世界が壊れませんよーに!」
「陽斗、やめて」
「……陽斗!!」
「陽斗、嘘だろ!!」
陽斗は皆の声が聞こえていないかのように続ける。
「皆が悲しみに暮れませんよーに! 裕也の進路が決まりますよーに! いつも通りの日常が戻りますよーに!」
「陽斗……!! なんで」
裕也が涙を零した。その瞬間陽斗の身体の輝きが一際増して――
「この幸せな時間が、ずっとずーっと、永遠に続くとボクは信じてます!!」
だから、皆も信じていて。
僕らの太陽は、強く優しい言葉と、眩しいくらいの笑顔を残して消えた。