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転回

「だいぶ長居しちゃったな。そろそろ帰るか」

「えー、もう帰るの?」

「俺は明日も仕事だしな」

「そうじゃん、明日月曜日だから僕も仕事だわ」

気がつくと、外はすっかり暗くなっていて、時間の流れは速いなーと感じる。

「送ってくよ。……歩きだけど」

「一緒に帰りましょ!!」

「ありがとう」

僕は家の鍵を取って靴を履いた。

ふと、後ろを見ると杜希が俯いて玄関に突っ立っていた。

「杜希、どうした? 早く靴履けよ……って、おい」

よく見ると、小刻みに震えていた。

あれ、これって何か……。

「俊、救急車っ!!」

「えっ!?」

「…………杜希っ」

「杜希にーちゃん!!」

その瞬間、杜希は崩れるように倒れた。


『今世界で増えているこの病は、原因不明。治療法もわからず、手の打ちようがありません』

テレビでは、相変わらずこの病気を取り上げている。

治療法が分からない? そんな言葉が聞きたいんじゃないよ。ねえ、何とかならないの、杜希はどうなんだよ。

「はは、想、そんな心配しないでよ。今は調子いいんだ」

病室のベットで、杜希は優しい微笑みを浮かべてそう言った。

「……いつから調子崩してたの」

「えっと、二週間くらい前……かな? 薄々、この病気かなって思ってた」

「なんで言わなかったの!?」

「……ごめんね。怖くて、言えなかった」

そう言った杜希は、顔を背けていたけど、凄く辛そうだった。

「ごめん。杜希が一番辛いよな。……親は?」

「……来てないよ」

「何でこんな時までっ!」

杜希と杜希の親が不仲なのは知っていた。

杜希が良い大学に入らず、高卒で就職したから。

親の言うことに従わなかったから。

杜希は自分の決定を後悔したことがないと言っていた。きっと今だってそうだろう。

でも……こういう時くらい、来てやっても良いじゃんか。

「……いいよ、僕には皆がいるから」

杜希が皆の方を見た。

「杜希にいちゃぁーん」

「あはは、陽斗泣きすぎ」

「……大丈夫?」

「今は薬が効いて楽だよ」

「杜希、何か欲しいものあるか?」

「俊のアイス、かなあ」

「わかった、今度作って持ってきてやるよ」

「ありがとう、俊」

沈黙が皆の中に降ってきた。

皆は今何を思っているんだろう。僕は、怖いよ。この病気が僕の大切な家族を奪っていってしまうんじゃないかって……。

また、僕は大切な家族を亡くすのか?

「……杜希」

「何、想」

「死ぬなよ」

「……僕は死なないよ」

もう、あんな想いはしたくないんだ。



皆が帰ったのを見送った後、僕は杜希にまた来ると伝え病室を出た。

「想」

「……俊」

扉のすぐ隣に、俊は待ち伏せするように立っていた。

俊は腕を組んで、顔を俯けたまま僕に声をかける。

「お前が心配だ」

「僕? どうして」

「お前、両親を病気で亡くしてるんだろ?」

俊の言葉に、何も反応できなかった。

「……辛いよな」

「辛い」

「杜希は……死なないよ」

「うん、死なない」

死なせない。死なせたくない。

…………でも、この病気は治療法も見つかってなくて、しかもほとんどの人がかかったら死んでるんだよ。

気がついたら僕は泣いていた。

「……闘おうな、想。皆で一緒に」

「……うん、死なせない」

俊は泣いている僕を抱きしめて、優しく背中を擦ってくれた。

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