第五話【咲き誇れ、僕らの花】
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病院から帰る道の途中、僕は思いっきり腕を掴まれた。
驚いて振り返ると、そこにいたのはさっきまで病室にいた杜希だった。
「……何してんの、杜希」
「もう病院なんて機能してないんだから、病院抜け出そうがなんだろうがあんまり関係ないよね」
「まあ、そうだけど……どうしたの?」
「ねえ、来て」
杜希は僕の腕を引っ張ってどこかに向かって走りだした。
「あのね、想。世界の終わりって凄く優しいんだって」
「優しい?」
「うん。苦しくないんだって。怖くもないらしい」
「なにそれ、なんでそんな話……」
「想、世界が終わることはね」
杜希の真剣な話し方に、僕は口をつぐんだ。
杜希は僕の様子などお構いなしに言葉を続ける。
「それは決して幸せなことじゃないと僕はやっぱり思うんだ。だって、世界が終われば、僕らも死ぬでしょう? 僕は嫌だよ、死ぬの怖いもん。だから世界が終わるのは幸せじゃないんだ。だけどさ、それでもね。世界が終わらなかったら見えないものがあるんだって。だからね、僕らは死ぬんじゃないよ。それを見に行くだけ。それだけのこと。なんにも、怖いことじゃないんだよ」
杜希の手が離れる。
杜希が連れて来たのは、僕らが集まっていた公園だった。
「……何それ、意味わかんないんだけど」
「僕もよくわからない。でも、そう教えてもらった」
「誰に?」
「……皆に!」
「皆って……」
ふっと杜希を見ると、杜希はもう立っているのがやっとというくらいふらふらだった。
「ねえ、想。想は本当は僕より早く病気にかかってたんだね」
「…………!!」
「ずっと、苦しかったんだね」
「なんで……」
「想の馬鹿。本当は今だって凄く辛いくせに」
杜希が僕の身体を包み込む。
僕はその場に崩れ落ちた。
「ありがとう、想。僕はね……僕達はね、想のこと大好きだったよ。ううん、大好きだよ! 本当の家族みたいに」
視界が霞んだ。涙が溢れた。
でも駄目だ、杜希の最期は笑って看取ると決めたんだ。
僕は涙を拭って杜希に笑いかけた。
「僕だって……皆のこと本当の家族のように好きだ……!」
「想」
杜希の身体から、力が抜けていく。
杜希の身体を、得体のしれない何かが蝕んでいる。
杜希は最期の瞬間に最高の笑顔を見せて言った。
「これが皆の想いだよ。受け取って」
杜希の身体から、花弁が散った。
倒れた杜希の身体を、見惚れるような綺麗な花が飾っていた。
身体から花が生える。もしくは、身体が花になった?
奇妙なその光景は、ただ本当に綺麗だった。
杜希は花になったのか。……杜希らしい死に方だな。
「……僕もそろそろか」
――ドサリ。
僕もその場に倒れこんだ。
死って真っ暗なのかな。
暗いところは嫌いなんだよね。怖いなあ……嫌だなあ。
僕は杜希が死ぬとき、上手く笑えてたかなあ? ああ、皆は、幸せだった?
……誰か返事をしてよ。
ああ、クソ、自分が死ぬときは、一人ぼっちなんだなあ。
望んだことなのに、……それが悪いとは思わないけど、それでも本当に悲しかった。
目の前が暗くなる。
その瞬間、脳内に声が響いた。




