表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
知の都と東方料理 の巻

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

981/1257

九百七十九 志七郎、宗教と外食の事情を考える事

「「「「頂きます!」」」」


 食事の前の挨拶は大事、古事記にも書いて……いや向こうの世界に有った古事記はガッツリ読み込んだ事は無いが、天地創造記から皇室への血の伝承を描いた神話で、仏教や他宗教の経典の様に『教え』を説いた物では無かった筈だ。


 しかしソレを言えば一神教の経典で有る旧約聖書も、基本的には神話が書かれた物でその中から『教義』を紐解くのは各教団で、その解釈に差異が有るからこそ同じ経典を信仰の土台にして居るにも拘わらず多数の宗派が生まれ筈で有る。


 仏教に至っては経典が兎に角多すぎて、どれが正しい教えなのか……更に言うならば釈尊――御釈迦様が本当に説いた言葉なのか、それとも後世の創作なのかすら解らん物の中から『自分達の宗派ではこうだ!』とやってるんだから纏まる筈が無い。


 兎にも角にも、向こうの世界の宗教なんて物は大半が『言ったもん勝ち』で出来ていた……と、本職の僧侶(坊主)である友人(ポン吉)本人が抜かして居た位に、曖昧で適当な物だったと思う。


 ソレでも彼奴が信仰を捨てずに『祈り』の言葉を常々口にしていたのは、寺の跡取りだからと言うだけで無く、超常の存在が向こうの世界にも居る事を知っており、そうしたモノの所為で理不尽な不幸を被る人が居るのを知っていたからなのでは無かろうか?


 彼奴の性格的に自分が救われる為に祈るのでは無く、既に手遅れに成ってしまった者達の為に祈って居る気がするのだ。


 と、彼奴の事や向こうの宗教の事は別にして、此方の世界の『古事記』と言う書物は、割と真面目に日々の生活に置いてどの様に過ごせば、己の信奉する神々に報奨点が入り易いかが書かれた手引き書(マニュアル)とでも言うべき物だったりする。


 その中には本当に『挨拶は大事』とか『闘いの前には必ず挨拶をし名乗りを挙げよ』『挨拶の前の不意打ちは一手まで』なんて事がつらつらと書かれていたりするのだから、向こうの世界のソレを知る物が見れば余りの落差に頭がクラクラして来るだろう。


 まぁそんな訳で、火元人は向こうの世界の日本人よりも挨拶と言う物を神聖視して居り、『食材の命』や『料理した人の手間』等々様々な物を引っ包めて『頂きます』と言う言葉を口にするのである。


 ちなみに今俺達が居るのは四天(Square)鳳王(Phenix)から然程離れていない所に有る空き地で、其処に積んで有った土管を椅子代わりに座って料理を食べようとして居た。


 何となく浅雀(あさめ)藩の浦殿や野火兄弟居れば、此処の風景に溶け込みそうだなぁ……なんて事を考えながら、大きな紙皿に盛られた料理に箸を付ける。


 大蒜の効いた醤油とは少し違う……けれども何となく似ている味付けのソレは、決して不味くは無かったが『美味い!』と太鼓判を押す程の味でも無かった。


 敢えて言うならば極々普通と表現するしか無い程度の味わいで、向こうの世界ならば便利屋コンビニ日用品店(スーパーマーケット)で売られている弁当や、激安居酒屋の五百円(ワンコイン)昼飯(ランチ)でなら、まぁこんなもんだろうと納得する程度の物で有る。


「成る程……確かにコレは格別美味いとは言えぬが、量と味と値段を天秤に掛ければ有りだと言ったお花先生の言葉も理解出来ると言う物だな」


 大凡俺と同じ意見だったらしい武光がそんな言葉を口にすると、


「江戸で言うなら下手糞な煮売屋よりは上、美味い見世よりは下……位の感じですかね?」


 彼の命で江戸市中を調べて回ったりした事の有るお忠が、続けてそんな事を言う。


「オラは外で飯を食うのは、鬼切り奉行所に来る出見世位だらぁ、市中の見世とは比べらんねぇだぁなぁ」


 基本的に武士や武家家中の者は江戸市中での外食は推奨されていない。


 ソレは武芸十八般の中に料理が含まれており、合戦の際に戦場(せんじょう)で自分の食い扶持も用意出来ない者は武士として役に立たない……と言う考えが根付いて居るからだと言う。


 向こうの世界でも江戸時代には、此方とは違う理由で外食は好ましい事とはされておらず、基本的に他所の料理が食いたけりゃその見世の料理人を招いて食うのが普通とされていた……と聞いた覚えが有る。


 彼方(あっち)でのそう言う習わしが出来た詳しい理由までは知らないが、恐らくは武士の体面とか見栄や面子、場合に寄っては毒に依る暗殺を避けるとか、食中毒を出した場合の責任なんかも考えられるが、そう言う物なんだから仕方が無いのだろう。


 しかも(ラム)の様な幼い女児(おんなご)は、普通の大名家で養育されて居たならば余程の理由が無ければ屋敷から出る事は無く、買い物をするなら御用商人を呼び、習い事をするなら芸事の師匠を呼び付ける……そんな生活をする物で有る。


 大名家や上級旗本の姫とも成れば、初祝なんかの祝い事や城へと上がる様な行事以外で、初めて屋敷の敷地を出るのは見合いの席だけで、嫁入り後は婚家の屋敷から一歩も出る事無く一生を終える……なんて事も珍しい話では無い。


『自分の小遣い銭は自分で稼げ』と『武勇に優れし猪山の』と言う二つの言葉の合せ技で、お忠も蕾も戦場へと赴き鬼切りに励んでいるが、俺と共に小僧連として活動していた歌も含め割と例外的に自由に出歩く事が世間的にも認められている数少ない女児と言える。


 そんな蕾でも外食をすると言うのは、可也敷居(ハードル)が高い行為の様で、彼女は江戸では其処等の見世に入って食事をした事が無いらしい。


「武光……蕾やお忠に美味い物を食わせに連れて行ってやったりはしてないのか?」


 とは言え男が一緒に連れて行くのであれば、問題は無い……と思いそんな言葉を口にする。


「志七郎君はその辺少し認識がズレているわねぇ。誰かに招かれたとか自分が後援して居る御見世に行くにしてもお忍びで行く必要が有るのよ? 長期長距離の長旅でやむを得ずとか、御役目で長時間帰れずとか余程の理由が無けりゃ外食なんて論外でしょうよ」


 俺の言葉に溜息混じりに駄目出しをしたのはお花さんだった。


 ……考えて見れば俺自身、外食したのは殆どが旅先での話で、江戸市中での外食は数える程度しかした事は無いな。


「拙者も外で食事をすると成ると町人の殿方に化けての事で、女性(にょしょう)の装いで行く事はお仕えする御家の恥と成る故出来ませぬ。町民達ですら女人が菓子屋や茶屋以外の見世に入れば父殿(ててどの)にこっ酷く叱られる物で御座るよ」


 どうやら江戸で女性が外食するのは、向こうの世界で女性が一人で牛丼屋や拉麺屋に入るよりも、余程敷居が高いどころか非常識に分類される行動らしい。


「此方でも昼間の内に四天鳳王の様な外で食べれる御見世に入るなら良いけれど、帝王(ディーワン)餐庁(レストラン)の様な中で食べる所へ行くのは止めた方が良いわ。どの見世がどんな犯罪組織(ギャング)の根城かも解らないからね」


 ……江戸よりも大分治安が宜しく無い此の街では、外食するのも命懸けなのか。


 いや確かに犯罪組織の企業舎弟(フロント企業)な見世に女性一人で入る様な真似をすれば、ソレは襲ってくれと言っている様な物と言えなくも無い。


 世界的に見ても治安が良い方だとされていた日本の飲食店ですら、一人で来店した女性客に対してスタンガンを使って脅し、閉店作業に見せかけてシャッターを閉めて、拉致監禁の上で強盗強姦に至る……なんて事件が有ったのだ。


 あの事件は被害者が自力で監禁場所から脱出した事で発覚し、加害者の速攻(スピード)逮捕と成ったが、もしも彼女が脱出出来て居なければ表沙汰に成る事無く、闇に葬られた可能性は零では無い。


 そんな日本よりも数段以上治安に不安が有る此のワイズマンシティで、事前調査も無く外食をするのは確かに危険極まり無い行為と言えるだろう。


「……取り敢えず暫く昼飯は此処か学会で食べるのが良いんだろうな。後は先に渡航して来た先輩方に話を聞いて情報収集をしてみるのも有り……か?」


 不味くは無いが特段美味くも無い飯を腹に詰め込みながら、俺は他の三人に向けてそう言うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ