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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
知の都と東方料理 の巻

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九百七十六 志七郎、東方の政と武を知る事

 俺達が此の見世へと来たのは只美味い昼飯(ランチ)を食べると言うだけでは無く、ワイズマンシティ市長選挙が近づく中で激化していると言う、ミェン一家(ファミリー)とドン一家の抗争に歯止めを掛ける為だ。


「私も私人としてはシーフー党を支持して居るし、現職のハガー市長にもう一期お願いしたいと言う気持ちも、多分貴方達と共通して居るとは思う。けれどもソレは正々堂々の選挙戦を戦い抜いた結果じゃなければ成らないのよ……貴方なら判ってくれるわよね?」


 ミェン一家とドン一家が抗争を繰り広げている原因は、直接的には互いの縄張り(テリトリー)を奪い合うと言う犯罪組織(ギャング)ならば何処でも行っているであろう事だ。


 しかし其処に至る遠因として近々行われると言うワイズマンシティ市長選挙が考えられるのだと言う。


 これは現政権を担うシーフー党が精霊魔法学会(スペルアカデミー)へと留学して来る学生や、その家族を移民として受け入れる事に積極的な政策を掲げているのに対し、野党であるポテ党は『これ以上の移民は要らない地元民を豊かにする』と言う標語(スローガン)として居る事が理由らしい。


 そう言う面から見れば、当代で移民して来た者が大半のミェン一家と、数代以上以前から此の地に根付いた者が多いドン一家が、政治的理由から対立するのは当然と言えるだろう。


 そして彼等の抗争で一人でも関係者である市民(civilian)を排除される様な事が有れば、ソレは相手の票を暴力で排除した……と言う事になる。


 お花さんは『民主主義を暴力で曲げては行けない』と言う初代学長が残したと言う言葉に従い、彼等の抗争を止める必要が有ると考えたのだろう。


「我が門派の若い衆がドン一家の者と何度も揉めていると言うのは聞いて居ります。けれども一度として此方から仕掛けた事は有りません。我等は武人で有り侠では有りますが……世間で言われる様な犯罪組織ではありませんからね」


 しかしミェン氏はお花さんの言葉をそんな台詞で否定する。


 曰くミェン一家と言うのは、彼と彼の武芸の弟子達一門派を総称する呼び方に過ぎず、ドン一家の様な犯罪組織では無いのだそうだ。


「しかし旧帝の連中は我々が新王国が放った刺客だとでも思っている様でしてねぇ。若い連中が街中の仕事で遅く成ると襲撃を掛けて来るんですよ」


 ミェン氏はこの見世の裏手に虎燕門と言う武術道場も併設して居るそうで、其処に学ぶ者は留学生も地元の者も多々居ると言う。


 そうした門弟は冒険者を志す者だけで無く、単純に自衛の為の技としてソレを身に着けようとする者も少なくないらしい。


 にも拘わらずドン一家の構成員は虎燕門の門弟と言う理由だけで、敵だと見做し襲いかかってくるのだそうだ。


「ギウ ドンと言う男の噂程度は聞いた事が有りますが、彼奴は鳳来帝国皇帝の子孫を自称してるらしいじゃ無いですか。もしもソレが事実だとすれば、私が子弟を育てるのはその首を取る尖兵を育てていると映っても不思議は無いかもしれませんね」


 鳳来帝国と言うのは東方(龍鳳)大陸北部、現在は『鳳凰武侠連合王国』と言う国が有る場所に有った帝国で、不正や汚職に売位売官等が横行し民を守る能力(ちから)の無い者が土地を治めた結果、魔物の害で多くの被害者を出したのだと言う。


 そんな状況を打破する為に立ち上がった百八人もの侠客に依って帝国は瓦解し、彼等の手で新たな国が打ち立てられたのだそうだ。


「彼等武侠達は自分達が完全な人間等では無い事を良く知っていた、故に鳳武連は四年に一度三人の王を選出し、その者達の手で国を運営する事と定めたのです。そう言う意味ではこの国の掲げる民主主義と近しい物と言えるでしょうな」


 ()の国では四年に一度開かれる武闘大会の勝者が武王と成り、科挙と呼ばれる筆記試験の最優秀成績者が賢王と成り、そして国全土から人望に依って選出された者が(じん)王と成り、その三者の合議で国家運営が為されていると言う。


 仁王の選出方法は各地の村の中で最も人望有る者が代表として選ばれ、その代表者達の中で合議して誰を代表とするのかを選定する……ソレを繰り返して行く事で、たった一人の王を選ぶと言う選挙よりも余程面倒臭い方法で選ばれるらしい。


「だが自分を押しのけて上へと行った代表が恥を晒せば、ソレは自分を選んだ者の恥となる……と皆が考える為に、決して愚か者が上へと上がる事の無い素晴らしい選出方法なのだ」


 と、ミェン氏は誇らしげに口にする。


 見栄や面子に体面と言った物が大事だと考える文化圏ならば、合議に時間が掛かる事さえ除けば確かに有効的と言える代表選出方かも知れない。


 とは言え確かにギウ ドンと言う男が本当に鳳来帝国皇帝の子孫だと言うので有れば、鳳武連国は国家転覆を為した者達の国で、不当な暴力革命(クーデター)で国を奪われた、と考えても不思議は無いだろう。


 その上で同じ三把刀を稼ぎ(シノギ)にするのであれば、自分達の生活に必要となる収入を奪う事で力を削ぎ、自分の首を狙っている……と疑心暗鬼に成って居る可能性もあり得るかも知れない。


「そう言えば当代の三王には会った事は無いわね。まぁこの街の市長と同じく四年の任期だし、私達長命種の時間間隔で言うと本当にあっと言う間の話だものねぇ……。(チャオ) 白竜(パイロン)が武王だったのは何年前だったかしら?」


 世界でも上から数えた方が早いであろう実力者であるお花さんは、世界各国の王侯貴族にも顔が効くと言うが、そんな彼女でも何年か毎に入れ替わる鳳武連国の王達全員と会った事が有る訳では無いらしい。


「趙武王は娘どころか私が生まれるよりも前ですな。具体的には八十年前に十期連続武王を務めて引退した筈です。趙武王は武侠連に属しない独特の武を用いて天下一武闘会を制したとは聞きますが……真逆!?」


 くわっと音がしそうな程に大きく目を開きそう問いかけるミェン氏。


「ええ、彼は私が東方大陸で活動して居た頃の弟子よ。懐かしいわね、あの子とその仲間達を一人前に育てた後、火竜列島に渡って私は夫と出会い、そして焔烙と契約するに至ったのよね。でもそうか……武侠連に技が伝わってないって事は弟子は取らなかったのね」


 えーと……八十年前に引退した武王は、四年の任期を十期続けたんだから……百二十年前の話か、こう言う逸話を聞くと本当にお花さんが人とは違う寿命の世界に生きている事を思い知らされるな。


「一応は趙武王の末裔(すえ)を名乗る武門が無い訳では無いですが……まぁアレは武と言うには余りにも御粗末な物でしたし騙りの類でしょうな。実際、手合わせをした者と赤老師(チーラオシ―)の技とは共通点を探す方が難しい」


 東方大陸で冒険者をして居る時代にその門派の者と相対した事が有ると言う彼の言に拠れば、個人の強い弱い以前に武術として体系化された技法が全く見受けられない『俺が考えた最強の武術』とでも言うべき痛々しい物だったらしい。


 ミェン氏の話に拠れば、武侠連の武術と言うのは一つの門派に拘る事無く、幾つかの流派を学び組み合わせる事で自分流の戦い方を編み出すのが基本らしい。


 実際ミェン氏の教える虎燕拳と言う流派は、燕青拳と言う流派を基本に虎拳と蟷螂拳と呼ばれる流派の技を組み合わせた物だと言う。


「まぁ、余談はこの辺にしておいて……Mr.ミェンがそう言うので有れば、多分問題が有るのはドン一家の方なんでしょうね。それでも市長選前に余りにも揉め事が大きく成る様だとシーフー党やハガー市長に迷惑を掛ける事にも成りかねないから注意して頂戴な」


 正直な話を言えば、喧嘩を売られ続けている立場の彼等に自重を求めるのは理不尽が過ぎるとは思う、けれども党派性と言うのは不条理では有るが『味噌も糞も一緒くた』に染め上げてしまう毒なのは前世の人生で嫌と言う程に知っている。


「此方としては、今の段階で十分に自重して居る積りでは有るのですがね……まぁ赤老師のお言葉ですし、若い者達が激発する様な事の無い様に私も心掛けて起きましょう」


 不満が無い訳では無いが、大恩有る人物からの言葉故に不承不承受け入れた……そんな感じの返事を返すミェン氏を見て、お花さんは一つ満足そうに頷くと、


「お支払いをお願いするわ。ああ、恩人価格とかそう言うのは無しでお願いね。私はこの子達の師匠としてきっちり見栄を張らなきゃ成らない立場なのだから」


 大人に憧れる思春期の少女が見せる様な笑みを浮かべ、そう言うのだった。

次回は通常ならば4月3日深夜の更新と成る所ですが、所用の為外出する予定が有るので執筆更新の時間が取れません

なので4月4日深夜以降の更新と成ります、ご理解とご容赦の程宜しくお願い致します

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― 新着の感想 ―
[良い点] ♪りめーんばぁーおおぞらぁまうーしろがねぇのつーばーさー
2023/04/02 20:07 らてんにくまる
[一言] その市長、人質を取られて殴り込みに行きそうな名前ですね。
[一言] 108人の武侠は星の名前を背負ってたりするんでしょうか...
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